理科教育学研究
Online ISSN : 2187-509X
Print ISSN : 1345-2614
ISSN-L : 1345-2614
50 巻, 1 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
原著論文
  • 甲斐 初美, 森本 信也
    2009 年 50 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究ではデシ(Deci,E.L.)やド・シャーム(deCharms,R.)の諸論をもとに,科学概念変換に影響を与える動機づけとなる因子を整理し,それらの動機づけ因子を理科授業における動機づけ因子として解釈し直すことによって,理科学習指導で重視すべき課題と展望を明らかにした。以下に,それらの3つの指導の方策を提起した。(1)「与えられた課題に対し,自らも学習の見通しを持ち,それらをもとに実験・観察や結果の整理考察などを行い,自分で自分の学習を進めていると自覚している」という「自律性」を育むための条件である「単元構造の整理」,「その単元の柱となる課題の抽出と提示」の必要性 (2) 「自分なりにメカニズムの説明をしたり,それが出来なくても,教師の説明を聞いて理解したりすることによって,一連の授業が終わったときに,学習したことを使える知識として身につけることができていると自覚している」という「有能性」を育むための条件である「一貫性を持った考えやイメージなどの表現の要求」,「それらをもとにした科学概念の合意形成」の必要性 (3) 「自分の考えを他者に話したり,他者の考えを聞いて,自分の考えを発展させたり,質問や疑問をいつでも自由に出し合ったりすることができると自覚している」という「関係性」を育むための条件である「学習者自身による他者の考えの評価」,「グループでの考えの交流」の必要性

  • 金子 健治
    2009 年 50 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,抵抗が2個存在している直列回路において中学生が電流の保存概念を保持し,かつそれを正しく応用できるかについて明らかにすることを目的とした。その目的を達成するために,まず抵抗が2個存在する直列回路で,計算により電流を求める問題で電流の保存概念が定着しているかを調査した。次に「電流のはたらき」を学習後に抵抗が2個存在する直列回路での発熱する熱量について電流の保存概念を保持しているかどうか,また抵抗の順番を入れ替えた時に電流の保存性を正しく応用することができるかを調査した。調査の結果生徒は電流の値を計算する問題では正しい回答をすることができたが発熱を伴う問題では抵抗の順番を入れ替えると正しく応用することができなくなってしまうことが明らかになった。

  • 小池 守, 別府 桂, 高津戸 秀
    2009 年 50 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    水の蒸発の理解を目指した指導法を考案し,公立中学校1年生を対象に授業実践を行った。事前に蒸発について学習した実験群と事前学習を行わない統制群に,素焼きの茶碗とガラスのビーカーに入れた水の温度を測定する実験,及びその結果についての話し合いから成る検証学習を行った。両群の生徒に対し,質問紙を用いて授業前後の蒸発現象に対する興味関心及び自己申告による理解度の変容をさらに,ワークシートを用いて蒸発に関する理解状況を調査し,事前学習を用いた指導法の有効性を検討した。その結果,実験群は統制群と比べ,蒸発現象について図や文字を使って説明できる生徒の割合が高いばかりでなく,蒸発に対する興味関心及び理解も高かった。以上のことから,事前学習を取り入れた指導法は生徒の蒸発の理解に有効であることが示唆された。

  • 五郎丸(新海) 美智子, 西口 慶一, 森下 宗夫
    2009 年 50 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    植物の成長に対するタバコ抽出液の影響を検討した。特に、タバコ抽出液に暴露される時期と成長との関係について注目した。本実験では、ブロッコリースプラウトを用い、3段階の暴露時期(種子、発芽時、1cm成長時)および暴露なしの4群に分類して植物の発芽と成長に対するタバコ抽出液の影響を観察した。その結果、暴露時期が早いほど発芽率および成長は抑制された。本実験は、タバコの害を認識させるのみならず、大人には許されることが子供には許されないというという矛盾を理解するきっかけを与えるものである。

  • 竹中 真希子, 稲垣 成哲, 武田 義明, 黒田 秀子, 大久保 正彦
    2009 年 50 巻 1 号 p. 35-49
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校の教師と科学者が連携し,実験授業を開発するとともにその評価を通して学校の授業の中で科学者が継続的にアウトリーチ活動をする際の連携のあり方を検討した。開発した実験授業は,校庭の植物調査を題材としたものであり,小学校2年生における生活科の授業「野の草化しらべ」の導入部分で実施された。本授業の特徴は,教師とともに科学者が授業計画,対面での授業に参加するだけでなく,学習素材についても選定するとともに, Web上に「対話型バーチャル植物園」を活用した学習環境を構築して,対面及びオンラインでの連携をデザインしていることである。児童の草花の理解度や活動評価,また,アウトリーチ活動を行った科学者と教師のインタビューの結果から,実験授業の有効性が示された。

  • 古屋 光一
    原稿種別: 本文
    2009 年 50 巻 1 号 p. 51-65
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    ニューヨーク州では,2002年から学カテストを実施している。科学のテストは第4学年と第8学年を対象に実施され,筆記テストとパフォーマンステストからできている。本研究ではこの学カテストの目的,実施状況,その効果について調査を行った。調査方法は文献調査とインタビューであった。その結果次の3点が明らかになった。(1) 目的は児童生徒の一人一人の達成状況の把握と教育プログラムの評価である。筆記テストの多肢選択問題は前者に,パフォーマンステストは後者に対応する。(2) 実施状況については,ニューヨーク州で最大の教育区,バッファローに注目した。ここでは,筆記テストは各校で採点を行うが,パフォーマンステストについては信頼性を確保するために採点チームを作り,モデレーションを行っている。また,教育委員会が実験・観察教材の開発,教員研修を行っている。(3) 効果としては,パフォーマンステストが導入されたことにより,教員は従来行っていた講義型の授業から,実験・観察を取り入れた探究型の授業へ転換することが必要になった。その結果学力が向上する傾向が見られる。

  • 益田 裕充
    2009 年 50 巻 1 号 p. 67-74
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究においては,中学校第2学年大項目 「電流と磁界」の電流と磁石がつくる磁界からコイルが受ける力の向きの学習をとりあげた。そこで,演繹的な学習と帰納的な学習のそれぞれに,フレミング左手の法則を学習内容として加えた群と加えない群をつくり,中学生の科学的な概念形成の実態を学習直後および3ヶ月が経過して調査した。その結果,学習直後において演繹的な学習に取り組んだ群と帰納的な学習に取り組んだ群の中学生の科学的な概念形成に有意差は生じなかった。しかし,学習後3ヶ月が経過して,フレミング左手の法則を学んだ群と,学んでいない群の中学生を比べると,コイルがうける力の向きに正答できる学習者に有意差は生じなかったが,フレミング左手の法則を学んだ群の中学生は,学んでいない群の中学生に比べて,コイルに力がはたらく理由をコイル左右の磁界のバランスが崩れることとして説明できない中学生が多くなることが明らかとなった。

  • 山口 悦司, 稲垣 成哲, 野上 智行
    2009 年 50 巻 1 号 p. 75-84
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    教師教育に関する先行研究の多くは,理科教師の学習について,その「現在の学習成果」という側面に焦点を当てたものである. しかしながら,「将来の学習可能性」という側面に焦点を当てた研究はほとんど行われていない.理科教育に関するカリキュラム改革は世界各国で行われている.そのため,「将来の学習可能性」は理科の教師教育研究において重要なテーマになると考えられる.そこで,本研究では,こうした試みの第一歩として,教授資料から学習する能力に着目し,小学校教師を目指す大学生が,理科教育関連の科目を履修する前において,理科を教えることについて教授資料から学習するためのどのような能力を持っているかを実証的に明らかにした.結果は,次の4点であった.(1) 日本の授業に特徴的な基本構追「教師が教えたい内容を子どもたちが学習したい内容へと変換するとともに,その中で子どもたちに科学的な探究プロセスを体験させる」について大学生は,教授資料を読むことを通して,理科教育プログラム受講前から学習することができる.(2) しかしながら,大学生は,子どもたち指向であることと科学指向であることを両立させるという世界的に高く評価されてきた日本の理科の教授についてはいくら教授資料を与えられたとしても.そこから学習することができない.(3) さらに大学生は,小学校の理科授業に特徴的な教授技術や教材や指導上の留意点などを教授資料から学習することができる.(4) その一方で.大学生は,単元固有な教授技術などを学習できない傾向にある.これらの結果に基づいて,今後の教師教育プログラムに求められる課題について議論した.

  • 山下 修一, 小野寺 千恵
    2009 年 50 巻 1 号 p. 85-92
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,粒子モデルを用いて5年『もののとけ方』を学んだ児童が, 6年『水よう液の性質』の一部でも粒子モデルで溶解について学ぶ効果を検討した。粒子モデルを用いて『もののとけ方』と『水よう液の性質』を学習させた一貫モデル群25名,『もののとけ方』のみ粒子モデルを用いた5年モデル群46名粒子モデルを用いなかった通常授業群62名,計133名の6年生を対象にして,『水よう液の性質』の学習前後で調査を実施した。その結果,事前の段階では質量保存の理解について群間に有意な差はなかったが,容器がへこむ理由については通常授業群よりも一貫モデル群. 5年モデル群の方がよく説明できるようになっていた。発展的課題については,一貫モデル群で容器がつぶれた印象にとらわれず,学んだ知識を活用して回答していた児童が多く見られた。

資料
  • シャー ホーン・ムン, ポーン シュー・レン, コー チャム・セン
    2009 年 50 巻 1 号 p. 93-104
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    シンガポールは過去10年間教育の革新を続けてきた。始まりは1950年代であり,漁村から近代的な国家に作り上げてきた。小学校教育は6歳からはじまり,科学教育は3年生からである。科学教育は,高度な科学と,技術や経済活動のもととなるために重要であることにとどまらず,科学技術の革新をリードする科学者や技術者を養成する観点からも非常に重要である。文部省は2004年に科学教育のフレームを作成した。それに基づいて小学校と中学校について科学教育シラバスが作られた。本論はこれの詳しい紹介である。シンガポールは最近の国際数学理科調査において良い成績を修めているが,将来社会がまずます複雑になり, しかも確実に変化していくことに子どもが対応していくために,教育システムを常に改革していかなければならないという認識をしている。今後の旅路において科学教育は核となる要素であるように思われる。教師はその変革に非常に大きな役割を果たす。文部省は教師の仕事を支援する体制の構築に向けて研究を進めている。

feedback
Top