理科教育学研究
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54 巻, 1 号
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総説論文
  • 杉本 剛
    2013 年 54 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2013/07/17
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    人間の脳のメカニズムを参考とした認知モデルに,コネクショニストモデルがある。本研究は,理科教育学の研究にコネクショニストモデルの理論・手法の導入を必要とする背景・利点を示し,これまで理科教育学で行われてきたコネクショニストモデルの理論・手法を導入した研究をまとめた。人間の脳は,並列分散処理の情報処理機構である。コネクショニストモデルは,並列分散処理の情報処理の方式を取り入れている。理科教育学の研究にコネクショニストモデルの理論・手法を導入することは,これまで研究が進んでいない観点・手法の研究を可能にする。そしてそれは,理科教育学の研究の進展に貢献すると考えられる。
原著論文
  • 後藤 顕一
    2013 年 54 巻 1 号 p. 13-26
    発行日: 2013/07/17
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    学習ツールである「相互評価表」とこれを用いる学習活動を開発した。「相互評価表」を活用する学習活動とは,評価規準が示された「相互評価表」を用いながら自己評価・他者評価を行い,この行った評価について自由記述によるコメントを残していく方法である。本論文の目的は「相互評価表」を活用する学習活動のうち自己評価活動に注目し,学習課題に対して設定した評価規準と科学的リテラシーの「能力」との関係を明らかにし,自己評価活動が科学的リテラシーの育成にどのように寄与するのかを明らかにすることとする。検討にあたっては,実践についての生徒の評価アンケート,考察記述を提出した際に行う自己評価ポイントとコメント,その後,考察記述を書き直し,再提出をした際に再度自己評価を行うときの自己評価ポイントとコメント,さらに提出時の記述と再提出時の記述を比較するコメントの記述について,ポイントの変化やコメントの質的な変化を分析することより考察した。その結果,評価ポイントでは,取組に基づいた学習により向上が見られ,生徒の科学的リテラシーの「能力」の全ての観点で,学習の前後で有意な効果が認められた。学習前後の比較コメントを分析したところ,科学的リテラシーの「能力」のうち,①科学的な疑問を認識すること,②現象を科学的に説明すること,について意識をした記述ができるようになることがわかった。また,自分の学習の進展について「楽しかった」等といった単なる感想調の記述ではなく,どのような力が身に付いたのか具体的に記述できるようになることがわかった。自己の学習を振り返ることでその意義を自覚し,実感を持って自己の伸張を感じつつ,主体的な学びを醸成することが期待できると示唆された。
  • 佐伯 英人, 今村 大志, 松永 武, 水野 晃秀
    2013 年 54 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2013/07/17
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    チリメンモンスターとはチリメンジャコの混獲物のことである。これまで,中学校の理科の授業においてチリメンモンスターを教材として用い,授業実践を通して,その教育効果を検証した事例はみあたらなかった。そこで,本研究では,中学校理科第2学年の単元「動物の仲間」にチリメンモンスターを教材とした分類活動を単元の導入時と単元末に取り入れ,実践をそれぞれ行い,生徒の意識の変容と理解の程度を調べ,その教育効果を検証した。その結果,明らかになったことは次の①~⑤である。
    ① 単元の導入時に行った分類活動は,生徒の興味を高めるのに有効であった。
    ② 単元末に行った分類活動は,「脊椎動物の特徴を知っている」という意識を高めるのに有効であった。
    ③ 単元末に行った分類活動を通して,「無脊椎動物の特徴を知っている」という意識に天井効果がみられた。
    ④ 単元を通して,「生物を大切にしたい」という意識をもち続けていた。
    ⑤ 単元末に行った分類活動の方が,単元の導入時に行った分類活動よりも,分類に関する理解が高いことが分かった。
    これらのことは,単元の導入時の分類活動は,生徒の興味を高めるのに有効であり,一方,単元末に行う分類活動は,生徒の理解を深めることに有効であることを示唆している。
  • 白數 哲久, 小川 哲男
    2013 年 54 巻 1 号 p. 37-49
    発行日: 2013/07/17
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    本研究では,小学生の科学的リテラシー育成のために「科学的探究」学習による科学的概念の構築を図るための理科授業のデザインを,ヴィゴツキーのZPD理論と,米国のFOSSによる水平的カリキュラム設計を基盤とし,ZPDにおける「科学的探究」の教授・学習モデルと教師の役割を可視化し,その有用性を小学校第3学年「じ石」の授業実践によって検証することを試みた。その結果,「自由な探索」→「体験的な学び」→「科学的概念との結びつけ」といった水平的な授業デザインの中で,教師が子どもの生活的概念を呼び起こし,適度な困難さのある発問をし,適切なタイミングを見計らって「教材」「言葉」「方法」を提示することで,生活的概念間の相互作用による再構成が起こるとともに,子どもが科学的概念への意識化を図りうることが示唆された。
  • 戸倉 則正, 藤岡 達也
    2013 年 54 巻 1 号 p. 51-59
    発行日: 2013/07/17
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    河川災害として津波の遡上によって洪水が発生するという観点を重視した理科教育の取扱いの意義を論じる。本稿では,2011年3月11日の超巨大地震「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」に見られたような「津波に起因する河川の逆流による災害」を理科教育で取り上げる必要性を明確にするために,現地調査を踏まえ,同様の災害が予想される地域において過去の資料を教材として取り上げる意義を論じ,取り扱う観点を明確にした。
  • 沼口 和彦, 中山 迅, 中林 健一
    2013 年 54 巻 1 号 p. 61-69
    発行日: 2013/07/17
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    本研究では,中学校理科及び高等学校の化学において,銅(Ⅱ)イオンの移動が観察できることを目的としてマイクロスケール化学反応装置の開発を行った。炭素棒を電極として,1.0 mol/L 硫酸水溶液を陽極相とし,寒天相を介して,1.0 mol/L 炭酸ナトリウム水溶液を陰極相とする3 相構造のマイクロスケール電気泳動装置を作製した。9 V 電圧で1.0 mol/L 硫酸銅(Ⅱ)水溶液の電気泳動実験を行ったところ,銅(Ⅱ)イオンの移動が電極付近まで途切れることなく観察されることが判明した。アンケート結果から本実験装置は生徒のイオンの移動の観察を容易にするとともに,イオンの粒子概念を伴う理解に役立つことが明らかとなった。
  • 古澤 陽介, 松原 静郎, 岩間 淳子, 稲田 結美, 谷 友和, 小林 辰至
    2013 年 54 巻 1 号 p. 71-81
    発行日: 2013/07/17
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    生物の体のしくみを学習する上で,直接的及び間接的な観察・実験の経験や,生き物への好感度や興味・関心等が理解に影響を及ぼしていると考えられる。本研究では,大学生・大学院生を対象に「動物の体のつくりと働き」の総合的な理解に影響を及ぼす要因間の因果関係に着目し,その因果構造の解明を目的とした。
    第一に,質問紙による実態調査及び質問項目の因子分析を行い,総合的な理解に影響を及ぼす6つの要因として「生物の体に関する興味・関心」,「生き物への好感度」,「生き物との触れ合い」,「直接経験的観察・実験」,「間接経験的観察・実験」,「人体に関する基礎知識」を抽出した。次に,総合的な理解を「多面的な見方」と「因果への意識」の2つの観点で評価し,回答を点数化した。そして,これら8つの変数について,パス図を作成し,パス解析を行った。その結果,以下のことが明らかとなった。
    (1)「直接経験的観察・実験」と「間接経験的観察・実験」は共に「生物の体に関する興味・関心」に直接的影響を及ぼしていた。また,「直接経験的観察・実験」は「多面的な見方」と「人体に関する基礎知識」に直接的影響を及ぼし,「間接経験的観察・実験」は「生物への好感度」,「人体に関する基礎知識」を経由して,「多面的な見方」に間接的影響を及ぼしていた。
    (2)「生物の体に関する興味・関心」は「生き物への好感度」と「生き物との触れ合い」に直接的影響を及ぼし,「生き物への好感度」は「生き物との触れ合い」に直接的影響を及ぼしていた。一方で,「生き物との触れ合い」が本研究で抽出した他の要因に及ぼす影響は認められなかった。
  • 益田 裕充, 柏木 純
    2013 年 54 巻 1 号 p. 83-92
    発行日: 2013/07/17
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    子ども自らが予想や仮説を持ち観察・実験で検証することが現行学習指導要領のもとで重視されている。こうした仮説の発見について,パースは第三の科学的思考の様式としてアブダクションの存在を指摘している。そこで,本研究は,仮説発見のためのアブダクションに着目した。米盛の指摘を援用し,理科授業においてアブダクションは「驚くべき事象の観察と,その驚きを解決するための説明の局面」と「事象を説明するための仮説を導き出す推論の局面」に基づいて成立しているととらえ,「驚くべき事象を観察し,これを解決するための説明の過程」「事象を説明するための仮説を導き出す推論の過程」の2つの局面を理科授業の導入過程に組み込んだ。こうして,「論理的推論に基づく仮説形成」を図り,それが質量保存概念の形成にいかにつながるのか,小学校第5学年ものの溶け方の授業で実証的に検証した。授業者は,食塩と水の関係を問うことで,創造したモデルを用いて「合体している」等の考えを子どもから引き出した。溶けた食塩と水を形のあるモデルとして創造し,クラスで共有させ,その関係を考えさせることで仮説形成を図る方略が,多くの子どもに浸透した。本研究によって,論理的推論による仮説形成を目途とした導入の過程が,小学生の質量保存の科学的な概念形成につながる過程を実証的に検証することができた。
  • 村津 啓太, 山口 悦司, 稲垣 成哲, 山本 智一, 坂本 美紀, 神山 真一
    2013 年 54 巻 1 号 p. 93-104
    発行日: 2013/07/17
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    近年の理科教育では,アーギュメンテーションに焦点を当てた研究が注目され始めている。そこでは,学習者が反論を行うことを意図的に促進することが重要であると指摘されている。この重要性を踏まえて,反論を促進するための教授方略が提案されている。しかし,日本の理科教育では,反論に着目した教授方略はほとんど見受けられない。そこで本研究では,小学校の理科授業を事例として,Osborneらの提案したIDEAS教材の教授方略が,反論を含むアーギュメンテーションを促進する上で有効かどうかを実践的に検証することを目的とした。
    本研究ではまず,IDEAS教材の示した教授方略を概観した。次に,教授方略が反映された理科授業を,小学生を対象に実施した。さらに,授業で収集したアーギュメンテーションの発言記録を評価し,教授方略の有効性を明らかにした。評価の結果,反論を含むアーギュメンテーションをできるようになった学習者の人数が,授業の最初から最後にかけて有意に増加した。このことから,IDEAS教材の教授方略は,一定の有効性があることが明らかになった。しかし,授業の最後においても,反論を含むアーギュメンテーションができない学習者が少なからず見受けられた。この点から,教授方略を改善していくことが今後の課題として見出された。
資料論文
  • 小倉 恭彦, 藤井 浩樹
    2013 年 54 巻 1 号 p. 105-115
    発行日: 2013/07/17
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    中学校2年「物質の分解と原子・分子」の内容において,生徒が化学変化を微視的に理解することをねらいに,粒子のモデルをもとにした学習活動を試みた。その活動は,モデルを用いた現象の予想,実験による予想の検証,及びモデルの正誤の確認から構成され,この構成によって巨視的レベル(事物・現象)と微視的レベル(粒子のモデル)の相互の関連付けを図るものであった。そして,生徒の理解の実態を捉えるために,試行前後に質問紙によるアンケート調査を行った。その結果,以下のことがわかった。
    ①粒子のモデルをもとにした学習活動は,従来の粒子のモデルを創り出す学習活動に比べて,化学変化についての微視的な理解を導きやすいものであった。
    ②しかし,化学変化についての微視的な理解を導き得ない場合もあった。その理由を分析したところ,既習の化学変化については,ある物質が性質の異なる別の物質に変化するという,化学変化についての巨視的な理解がそもそも欠けている生徒や,物質を構成する原子の種類や数についての理解が不足している生徒が比較的多かった。また,未習の化学変化については,反応前後で原子の種類や数を合わすことができない生徒がいた。そして,それらを合わすことはできても,このことと反応後に生成しそうな物質を想定することを結び付けるという,微視的操作が難しいと考えられる生徒が比較的多かった。
  • 守口 良毅
    2013 年 54 巻 1 号 p. 117-126
    発行日: 2013/07/17
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    科研奨励研究平成14(02’)~23(11’)10か年における自然科学関連課題の採択動向を調査し,その実態から創設来44年間大幅な見直しのなかった現公募要領の公募目的・応募資格の記述とその解釈に問題点多々あり,奨励研究創設当初の「初・中等教育および教育委員会等関係者による大学等の研究機関で行われないような教育的意義のある研究」から年々乖離した採択動向がみられることが分かった。これは現公募要領における網羅的且つ不明確な記述の解釈が審査に影響し,採択実態に反映したのではないかと考え,これら問題点を論及する資料に本報を供するとともに,創設当初の原点にもどった公募要領の見直し,あるいは科学立国を標榜し,明確に科学教育振興を目的とした学振もしくは文科省による新研究費補助制度を考える時期であることを提言した。
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