日本の理科教育は国際的に見て, 児童生徒に高度な学力形成を実現してきた。しかし, 優れた才能のある子どもに対する能力に見合った教育の提供は功を奏しているとは言い難い。本研究では, 才能児にふさわしい教育プログラムと教材について資料を得るために, 著者らは2011年12月に英国SLCLを訪問した。訪問調査で得られた, SLCLが教員研修として提供する才能児教育のための教材を参照した結果, 次の3点が特色として導き出された。
a.教師へ才能児の定義とそれに加えて「見かけ」が紹介されている。ここでは, 教師へ子どもの性格の側面をひとつひとつ区分して考えさせることで才能児が特別な存在ではなく, 教室にごくふつうに存在するということを理解させている。
b.教材のひとつでは, 調査と実験というプラクティカルな活動を交えながら, 実際にデータを出す活動をしてみるということに加えて, データがフェアであるかどうかを考えさせる活動が含まれている。この活動はナショナルカリキュラムにも提示される批判的思考を促す教材としてみなすことができ, 才能児にもその適正な学習機会と科学的素養の伸長を提供していると考えられる。また, 比較的入手や取り扱いのしやすい器材のみを使うことで, どの学校でも, どの教師にもできるようになっている。
c.才能児の知的好奇心を引き出す工夫としてシナリオ教材が開発されている。物語を静かに聞くという静的活動と, その内容を記憶して, 描画と言葉で表現し, 友人と交代して対話するという動的活動が交互に取り入れられている。新しい学習態度のパターン付けを子どもに促すというねらいも含まれている。
これらの知見の蓄積は, 我が国で今後, 今までの学校教育(理科の授業)の中に付加したり, 課外活動として展開するなど, 才能児を含むすべての子どもの潜在的な能力を引き出し, 伸ばす取り組みを具体的に進めるための有効な資源となるであろう。
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