理科教育学研究
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55 巻, 1 号
特集号 現代理科教育が捉える学力論
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
巻頭言
総説論文
  • 村津 啓太
    2014 年 55 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2014/06/12
    公開日: 2014/07/11
    ジャーナル フリー
    真正の科学実践であるアーギュメンテーションを理科授業に導入するための研究が着目されている。そこでは, 学習者のアーギュメンテーションを評価するためのフレームワークの提案がなされてきた。しかしながら, 提案されてきた評価フレームワークは, 同じToulminのアーギュメントモデルに立脚しているにも関わらず, それぞれの内実が異なっている。本研究の目的は, 口頭のアーギュメンテーションを対象にした5つの代表的な研究を比較, 検討することによって, 評価フレームワークにおける共通点と相違点を見出すことであった。その結果, 共通点として主張・データ・論拠・裏付けが含まれていること, 相違点として限定詞と反論の扱いが確認された。これらの共通点と相違点を考察することによって, より望ましい評価フレームワークを提案できる可能性が示唆された。
原著論文
  • ―比較教育史的アプローチからの示唆―
    磯﨑 哲夫
    2014 年 55 巻 1 号 p. 13-26
    発行日: 2014/06/12
    公開日: 2014/07/11
    ジャーナル フリー
    本研究では, 諸外国のコンピテンスや科学的リテラシーの本質の分析及びわが国の戦後の学力観の論点を把握することを通して, 日本の理科教育における学力観を再考するための示唆を得ることを目的とした。まず, わが国の学力の論考の変遷を素描し, 諸外国におけるコンピテンスや科学的リテラシーの意味を分析した。次に, EU及びイギリスにおける科学教育において, 科学的リテラシーがどのように捉えられているかを分析した。その結果, 諸外国におけるコンピテンスや科学的リテラシーは, 生涯学習社会の視座から学校教育を位置づけ, 知識社会において, 科学的教養を持って社会参加することを意図していることが明らかとなった。以上の結果を踏まえ, わが国の理科教育における学力を考える際には, わが国の学習指導要領を新しい視座から再解釈し, わが国の理科教育の歴史的遺産を再検討し, 諸外国の知見を参考にしながら議論する必要があることを指摘した。
  • ―「ものの温まり方」単元における概念の関連から―
    荻野 伸也, 久保田 善彦, 桐生 徹
    2014 年 55 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2014/06/12
    公開日: 2014/07/11
    ジャーナル フリー
    小学校4年生「ものの温まり方」単元において, 金属への熱の伝わり方は, 児童にとって科学的な概念を形成しやすい学習事項である。しかし, 水への熱の伝わり方は, 科学的な概念を形成することが困難である。特に, 水の動きと温度変化を同一の実験で理解さることは難しく, 多くの児童は, 動きにのみ着目した「回転モデル」となった。その後, サーモインク液を使い温度変化のみを観察させた。その結果, 既有概念に観察事象を組み入れようとする「様々な概念モデル」が出現した。ただし, 遅延テストでは「回転モデル」に戻った。「回転モデル」は, 印象の強い安定的なモデルと考えられる。一方「様々な概念モデル」は, 既有概念と観察事象との整合がしにくい不安定なモデルと考えられる。そのため, 時間と共に消滅したと推測できる。この点から, 既有概念と観察事象との差異を明らかにする活動の必要性が示唆された。
    本実践では, 水への熱の伝わり方に関する表現について, 矢印記述だけでなく, 時系列塗り潰し記述を併用することの必要性が示唆された。また, 簡略化された矢印記述によって, 観察とは異なった概念モデルが形成される例が示された。
  • ―振り子の運動の学習を事例として―
    清水 誠, 實川 和宏
    2014 年 55 巻 1 号 p. 37-46
    発行日: 2014/06/12
    公開日: 2014/07/11
    ジャーナル フリー
    本研究は, コンフリクトマップを用いた授業モデルを小学校の理科授業に適用することの有効性を調べることを目的とした。検証授業は, 先行概念が強いとされる振り子の運動の学習で実施した。授業では, コンフリクトマップを用いた授業モデルを適用したクラス(以下, 実験群と呼ぶ)と, 教科書の指導計画に沿った学習の流れの授業を適用したクラス(以下, 統制群と呼ぶ)を設定した。授業の終了後に, 概念調査を行ったところ, 統制群に比べ, 実験群の方が科学概念を保持している児童が多く見られた。コンフリクトマップを用いた教授方法は, 小学校の児童の概念変容において有効であることが示唆された。
  • ―日本の中学校理科教科書における「問い」の出現場面と種類―
    中山 迅, 猿田 祐嗣, 森 智裕, 渡邉 俊和
    2014 年 55 巻 1 号 p. 47-58
    発行日: 2014/06/12
    公開日: 2014/07/11
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 日本の中学校理科教科書において, 探究活動の各段階で設定される問いの傾向を見いだすことである。これは, 日本の中学理科における探究活動の特徴的な姿を知るために設定した研究目的である。そのため, 中学校理科教科書に書かれている「問い」を抽出してデータセットを作成し, 問いの種類と場面についてのクロス集計を行い, その結果を考察した。そこから, (1)探究過程の前半部分と後半部分で似たような問いが設定される, (2)観察や実験よりも後の部分では, 得られた事実によって可能になる一層具体的な問いが設定される, (3)自然の仕組みや規則性を明らかにするための問いと, 得られた科学的知識を用いて自然事象を説明するための問いがあり, 探究の場面によって使い分けられる, (4)内容領域によって異なる問いの立て方がある, などの傾向が明らかになった。
  • 松浦 拓也
    2014 年 55 巻 1 号 p. 59-68
    発行日: 2014/06/12
    公開日: 2014/07/11
    ジャーナル フリー
    科学的リテラシーが調査の中心分野であったPISA2006では, 日本は上位グループに位置していることが示された。一方で, 生徒の「科学に対する態度」は, 諸外国と比較して肯定的な回答が全般的に少ないことが示されている。本研究では, 生徒質問紙によって測定された「科学に対する態度」が「科学的リテラシー」に及ぼす影響の構造的分析に際し, 日本のデータが潜在的には複数の集団に分けられるのではないかという仮説のもと, 構造方程式モデリングによる潜在構造分析を行った。その結果, 日本の生徒を2つの潜在的な集団に分けることができた。また, 両群を比較した結果, 「科学的リテラシー」に対する「将来志向的な動機づけ」及び「道具的動機づけ」の影響において顕著な違いが明らかとなった。
  • ―近年のTIMSS 調査における中学校第2 学年生物領域の共通項目の変化に基づいて―
    松原 憲治, 萩原 康仁
    2014 年 55 巻 1 号 p. 69-80
    発行日: 2014/06/12
    公開日: 2014/07/11
    ジャーナル フリー
    本研究は, 国際的な学力調査から見た日本の中学生の生物領域における学力の経時的な変化の特徴に関して, 学習指導要領の改訂の観点から検討を加えるものである。分析対象として, TIMSS2007調査とTIMSS2011調査の中学校第2学年を用い, 共通項目における変化を統計的に捉えた。具体的には, 経時によって異なる集団間の項目母数のずれとしてこの統計的な変化を捉え, 項目反応理論のモデルを用いて分析した。分析に当たっては, TIMSS調査の標本抽出の特徴を考慮した。一方で, この共通項目をトピックによって質的に分類しておき, 統計分析の結果と対応させた。
    上記の統計的な分析の結果, 生物領域の「細胞とその機能」のトピックにおいては, 平成22年度に中学校第2 学年だった生徒の方が平成18年度に同学年だった生徒に比べて, 能力特性の水準が同じだとしてもやや解き易い傾向が見られた。一方で, 生物領域の「生態系」の出題領域においては, 前者の生徒は後者の生徒に比べて, 能力特性の水準が同じだとしても解き難い傾向が見られた。以上の日本の学力の特徴について, これらのトピックに関連する学習指導要領の内容における力点の置かれ方の変化に着目して議論した。その結果, 「細胞とその機能」に関する統計的な分析結果は, 内容のつながりの明確化と学習時期の移行といったカリキュラム改訂の効果に関連するものと考察された。
  • 山口 悦司, 舟生 日出男, 出口 明子, 稲垣 成哲
    2014 年 55 巻 1 号 p. 81-93
    発行日: 2014/06/12
    公開日: 2014/07/11
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 概念変化としての理科学習を支援するデジタル運勢ラインシステムについて, その学習支援の効果を実践的に評価することであった。
    本研究においては, 次の2つの評価が実施された。第一に, デジタル運勢ラインシステムが, ペーパー・ベースの運勢ライン法よりも学習者の概念変化を促進するか否かを検討するために, デジタル運勢ラインシステムを導入した理科授業とペーパー・ベースの運勢ライン法を導入した理科授業を実施する中で, それぞれの授業に参加した学習者の概念変化の成果を比較した。その結果, デジタル運勢ラインシステムが導入された理科授業に参加した児童の方が, ペーパー・ベースの運勢ライン法が導入された理科授業に参加した児童よりも科学的に妥当な概念に変化しており, それが単元終了後3 ヶ月においても維持される傾向にあったことが明らかになった。
    第二に, システムによって実現されるコミットメントの可視化・共有化がいかに概念変化を促進するのかについて検討するために, デジタル運勢ラインシステムを導入した理科授業を対象として, グループにおける共有機能の利用場面, およびクラス全体における集計機能の利用場面の相互行為分析を行った。その結果, システムの機能の利用を契機として, コミットメントの違いが可視化・共有化されること, さらには, 概念が正しいか間違いかを考える背後にある認識について自覚しあう相互行為が展開されることがわかった。
    以上の結果は, 先行研究において予備的に評価されたデジタル運勢ラインシステムの学習支援効果について, 理科授業の文脈を通して裏付けるものであると結論できた。
  • ―教師と子どもとの協同的なモデル構築過程を中心として―
    和田 一郎, 森本 信也
    2014 年 55 巻 1 号 p. 95-108
    発行日: 2014/06/12
    公開日: 2014/07/11
    ジャーナル フリー
    本研究は, 理科授業における社会的相互作用の活性化が, 自律的な学習の促進の鍵となるメタ認知および表象機能に及ぼす影響について検討した。具体的には, Anastasia(2009)が提起する個人のメタ認知に対する社会的レベルの影響を考慮したメタ認知の多面的モデルに着目し, これを理科学習の立場から捉え直した。その上で, Khan(2008)の提起する理科における協同学習を通じたモデル構築プロセスに関する理論を援用して, 社会的相互作用の活性化を通じたメタ認知の機能拡充のための教授論的視点を構想し, 高等学校化学の授業を事例に有効性を検証した。
    結果として, まず課題解決に関わる自分なりのモデル構築を実施することで, 既有の表象ネットワークを稼働させた個人内部でのメタ認知の活性化が見られた。その上で, 協同的な学習による課題解決を通じたメタ認知の相対化の過程の成立によって, 子どもは表象ネットワークの修正や再構成を行い, メタ認知的モニタリングとコントロールの質を高めていることが明らかとなった。協同的なモデル構築過程では, 教師による的確なモデル評価を通じた足場作りが不可欠であった。
  • ―小学校第4 学年単元「ものの温度とかさ」を事例にして―
    渡辺 理文, 森本 信也, 小湊 清隆
    2014 年 55 巻 1 号 p. 109-119
    発行日: 2014/06/12
    公開日: 2014/07/11
    ジャーナル フリー
    本研究では, 「思考力・判断力・表現力」の形成のために, Bransford et al.の提唱する「学習環境のデザイン(learning environment)」に基づき, 理科授業におけるかかる環境デザインの視点を提案した。この視点を用いて, 理科授業を計画・実践した。その結果, この視点を具現化することにより, 児童の「科学的な思考・表現」に関わる学力(理科教育における「思考力・判断力・表現力」)の向上に寄与することが明らかとなった。
資料論文
  • ―英国SLCL の提供する教員研修を事例として―
    三宅 志穂, 中山 迅
    2014 年 55 巻 1 号 p. 121-130
    発行日: 2014/06/12
    公開日: 2014/07/11
    ジャーナル フリー
    日本の理科教育は国際的に見て, 児童生徒に高度な学力形成を実現してきた。しかし, 優れた才能のある子どもに対する能力に見合った教育の提供は功を奏しているとは言い難い。本研究では, 才能児にふさわしい教育プログラムと教材について資料を得るために, 著者らは2011年12月に英国SLCLを訪問した。訪問調査で得られた, SLCLが教員研修として提供する才能児教育のための教材を参照した結果, 次の3点が特色として導き出された。
    a.教師へ才能児の定義とそれに加えて「見かけ」が紹介されている。ここでは, 教師へ子どもの性格の側面をひとつひとつ区分して考えさせることで才能児が特別な存在ではなく, 教室にごくふつうに存在するということを理解させている。
    b.教材のひとつでは, 調査と実験というプラクティカルな活動を交えながら, 実際にデータを出す活動をしてみるということに加えて, データがフェアであるかどうかを考えさせる活動が含まれている。この活動はナショナルカリキュラムにも提示される批判的思考を促す教材としてみなすことができ, 才能児にもその適正な学習機会と科学的素養の伸長を提供していると考えられる。また, 比較的入手や取り扱いのしやすい器材のみを使うことで, どの学校でも, どの教師にもできるようになっている。
    c.才能児の知的好奇心を引き出す工夫としてシナリオ教材が開発されている。物語を静かに聞くという静的活動と, その内容を記憶して, 描画と言葉で表現し, 友人と交代して対話するという動的活動が交互に取り入れられている。新しい学習態度のパターン付けを子どもに促すというねらいも含まれている。
    これらの知見の蓄積は, 我が国で今後, 今までの学校教育(理科の授業)の中に付加したり, 課外活動として展開するなど, 才能児を含むすべての子どもの潜在的な能力を引き出し, 伸ばす取り組みを具体的に進めるための有効な資源となるであろう。
  • ―琉球大学を例に―
    吉田 安規良
    2014 年 55 巻 1 号 p. 131-138
    発行日: 2014/06/12
    公開日: 2014/07/11
    ジャーナル フリー
    中学生の学力向上に寄与する中学校理科教員養成の在り方を検討するため, 琉球大学で中学校理科教員免許の取得を希望する教育学部と理学部の学生35名に, 2012年に実施された全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の中学校理科の問題(26問)を解答させ, その解答状況や比較的正答率の低い問題の誤答傾向を分析した。その結果, 彼らの平均正答数は19.6で, 各設問別正答率の平均は75.3%であった。この結果をMann-WhiteyのU検定を用いて所属学部別, 性別, 出身地別で比較したが, 全ての観点別で今回の全国学力テストの正答数に有意差は見られなかった。誤答内容や無解答の一部にはケアレスミスに起因すると推察できるものもあったが, 彼らの設問別正答率と中学生の設問別正答率との間には強い正の相関が見られたことから, 中学生の正答率が低い問題は琉球大学で中学校理科教員免許の取得を希望する学生の正答率も低いといえる。この結果から, 中学校理科教員免許の取得を希望する大学生は論理的に記述したり条件に見合った内容で記述したりすることできるような表現力を習得すべきであることが示唆される。
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