理科教育学研究
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55 巻, 2 号
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原著論文
  • ―緊急地震速報を取り入れた授業実践を踏まえて―
    相場 博明, 齋藤 裕一郎, 松尾 薰, 柊原 礼士
    2014 年 55 巻 2 号 p. 149-157
    発行日: 2014/07/08
    公開日: 2014/08/22
    ジャーナル フリー
    東日本大震災後, 国民の防災意識は高まり, 緊急地震速報を取り入れた防災教育が多くの学校で取り入れられるようになってきた。また, 理科教育においても防災を意識した地震教育の導入が求められるようになってきた。しかし, 現在の小学校理科における地震教育は, 学習指導要領第6学年で「地震により土地が変化することがある」という内容だけの扱いだけに留まっている。また, 緊急地震速報の科学的な意味についての認識調査を行ったところ, 小学生のみならず大人でさえ十分理解していないという現況が判明した。このことは, 早急に理科教育の中で取り扱うべきであり, とくに小学校段階での導入が必要である。
    本論では, まず第4学年以上の小学生に地震に関する認識調査を行った。その結果, 地震に関する基礎的な知識はすでに生活知として十分持ち合わせていることがわかった。そこで, 第6学年において, 学習指導要領に示されている内容に加えて, 地震の基礎的知識と大森公式までを取り入れ, 緊急地震速報の意味を理解させる授業実践を試みた。その結果, 第6学年でもそれらのことを十分理解できることがわかった。以上の実践を踏まえて本論ではさらに小学生における地震教育のあり方についての提言を行った。
  • ―大学生の体験と生命観に関する調査結果の分析―
    岩間 淳子, 松原 静郎, 鳩貝 太郎, 稲田 結美, 小林 辰至
    2014 年 55 巻 2 号 p. 159-168
    発行日: 2014/07/08
    公開日: 2014/08/22
    ジャーナル フリー
    理科教育においてはこれまでも多くの研究者により, 自然体験や体験的学習の重要性が指摘され, 生命尊重の指導の必要性が提唱されてきた。本研究では, 大学生に対し「自然等の体験と生命観」に関する質問紙調査を実施し, 自然体験や生物に関する体験が生命観育成に及ぼす効果とその意義を考察した。その結果, (1)「自然体験」は生命観育成のための基礎的体験として有効であること, (2)生物に関する「学習体験」は, 動物や植物に対する生命観育成に有効であること, (3)「動物の飼育・接触体験」は, 動物に対する生命観育成に有効であること, (4)自然に恵まれた環境は生命観育成に有効であることが明らかになった。
    以上のように, 自然体験は生命観育成の基盤となり, 植物の栽培・観察, 動物の飼育・接触などの体験は, 生命観育成に有効であることが統計的に明らかになった。理科教育においては, 直接生物に接し生命を理解することにより生命観を育成することが可能であると考えられる。
  • ―化学のコンピテンシー領域を中心として―
    遠藤 優介
    2014 年 55 巻 2 号 p. 169-179
    発行日: 2014/07/08
    公開日: 2014/08/22
    ジャーナル フリー
    コンピテンシー概念の普及に伴い, コンピテンシー指向の科学カリキュラム編成の在り方が様々に問われている。本稿では, 既にその具現化を達成しているドイツ諸州の科学カリキュラムについて, 化学のコンピテンシー領域を中心に, 目的・目標の設定並びに教授内容の選択に関する観点から分析を行い, 以下の特質を明らかにした。
    目的・目標の設定に関する観点からは, 第一に, 「科学そのもの(in Science)」の面に加え, 「科学について(about Science)」の面も科学教育の重要な側面として捉えられ, それに基づいて4つのコンピテンシー領域が設定されている。第二に, とりわけ化学の「コミュニケーション」領域では, 化学に固有な側面と教科横断的な側面双方からコミュニケーション様式の理解や能力の育成が, 「評価」領域では, 化学の多面的な理解に加え, 意思決定能力のような社会参加の基盤をなす能力の育成がそれぞれ目指されている。
    教授内容の選択に関する観点からは, 第一に, 学問体系に基軸を置いた内容選択が行われつつも, 専門の内容を取り扱う文脈が併せて設定されている。第二に, その際, 日常的, 社会的, 並びに歴史的文脈といった様々な文脈が採用され, それにより「コミュニケーション」や「評価」領域のコンピテンシーを獲得・育成することにも対応が図られている。
  • ―学習シートにおける「コメントボックス」の活用―
    佐々 恵, 宮下 治
    2014 年 55 巻 2 号 p. 181-190
    発行日: 2014/07/08
    公開日: 2014/08/22
    ジャーナル フリー
    2008年改訂の小学校学習指導要領「理科」における, 第6学年の問題解決の能力として「推論する能力」が挙げられている。筆者らは, 「学び合い」を通して「推論する力」を高めることのできる学習シートの工夫を行った。その学習シートには, 同じグループ内の児童が相互に気づいたことなどを意見やアドバイスとして出し合える「コメントボックス」を設置した。また, その効果を授業実践により検証した。その結果, 「コメントボックス」が児童相互の意見を交流させるよい機会となり, 「推論する力」を育成する上で有効であることが分かった。
  • 大黒 孝文, 竹中 真希子, 中村 久良, 稲垣 成哲
    2014 年 55 巻 2 号 p. 191-199
    発行日: 2014/07/08
    公開日: 2014/08/22
    ジャーナル フリー
    本研究は, 小学校教員志望大学生における理科の授業を読み取る力を検討するために, マンガというメディアを用いたケースメソッド教材を使用した。ケースメソッド教材には, 理科の授業について, 多岐にわたる問題を含んだストーリー性のあるマンガが, 学習環境, 実験技能, 授業法, 授業計画の着眼点で描写されていた。教員志望の大学生115名を対象に, マンガにおいて問題のある箇所を読み取らせ, その内容について指摘することを求めたところ, 即時対応が必要な授業指導の内容が, ある程度読み取れてはいるものの, すべての着眼点で十分な読み取りができていないことがわかった。
  • 寺島 幸生
    2014 年 55 巻 2 号 p. 201-208
    発行日: 2014/07/08
    公開日: 2014/08/22
    ジャーナル フリー
    近年, 身近な自然事象への興味・関心を高める学習活動の充実が理科教育に期待されている。しかし, 学習者が個々に身近な自然事象について実験・観察や簡易なものづくりの活動を行いながら探究する学習活動は依然少ない。このことから, カエデの翼果の落下運動について, 探究する態度を育みさらに興味・関心を高めることを目的として, 高校生を対象にトウカエデの翼果の落下実験とその模型を作る一連の学習活動を実践した。実験教材として, 身近で容易に入手可能なトウカエデの翼果とバドミントン用のシャトルコックを利用した。落下実験を繰り返す中で, 生徒は結果に見られる規則性を意識しながら適切に条件を制御して実験・観察を行うようになった。生徒は, 小さな翼を持った翼果が自由落下した後に回転し始め, その後ほぼ等速で落下することを見出した。次に, 生徒はシャトルコックを用いて, 翼果とほぼ同じように落下する独自の模型を試行錯誤しながら作製した。本活動の結果, 多くの生徒は, 妥当な方法で実験, 観察を行いながら探究するようになり, 翼果とその模型作りに関する興味・関心を高めたことが分かった。本活動では, 特殊な装置や技術を用いず, 翼果という身近な生物試料を物理の実験材料として利用した。したがって, 生物専修の教師が物理を教える, あるいは逆に物理専修の教師が生物を教える場合など, 理科授業の多様な状況においても本教材は容易かつ安全に利用できる可能性がある。
  • ―理科授業, 科学実験イベント, 探究活動での実践―
    寺島 幸生
    2014 年 55 巻 2 号 p. 209-218
    発行日: 2014/07/08
    公開日: 2014/08/22
    ジャーナル フリー
    塩化アンモニウム(NH4Cl)とその水溶液は, 水溶液の性質について学習する理科の授業で, 再結晶を観察する実験に使用されてきた。再結晶については, これまで教師が演示して説明することが多く, 各生徒が個別に実験を行う場面は少ない。以上の背景から, 学習者が簡単かつ個別にNH4Clの再結晶実験を行うことができる小型の実験キットを開発し, この教材を理科の授業, 科学実験イベント, 探究活動でそれぞれ活用した。これら学習活動における学習者と教師の反応に基づいて, 本教材の操作性と学習者への教育的効果を評価した。また, 化学教育場面における本教材の多様性と汎用性について考察した。この教材は, 操作が簡単かつ安全であり, 学習者は再結晶現象や反応熱を明瞭に観察することができた。また, 科学実験イベントで利用することで, 学習者の再結晶に対する関心を喚起し, さらに探究活動に活用することで, 高校生の科学的な思考力・表現力の育成に有用となった。本教材を他の物質にも適用して, 多様な学習活動に利用できるよう改善すれば, 物質の多様性をより体系的に学ぶ教材として利用できる可能性がある。
  • ―第6学年「ものの燃え方と空気」を事例として―
    山田 貴之, 寺田 光宏, 長谷川 敦司, 稲田 結美, 小林 辰至
    2014 年 55 巻 2 号 p. 219-229
    発行日: 2014/07/08
    公開日: 2014/08/22
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 児童自らに変数の同定と仮説設定を行わせる指導が, 燃焼の仕組みに関する科学的知識の理解と, 燃焼現象を科学的に説明する能力の育成に与える効果について明らかにすることである。
    この目的を達成するために, 第6学年「ものの燃え方と空気」において, “The Four Question Strategy”に基づく「仮説設定シート」(4QS)を用いた実験群37人と, 用いなかった統制群37人を対象とした授業実践及び学習前後の質問紙調査の分析を行った。
    その結果, 実験群の方が, 燃焼の仕組みに関する科学的知識を高い水準で理解し維持できることが明らかとなった。また, 燃焼現象を科学的に説明する能力の育成にも有効であることが示唆された。
  • 山野井 貴浩
    2014 年 55 巻 2 号 p. 231-240
    発行日: 2014/07/08
    公開日: 2014/08/22
    ジャーナル フリー
    DNAの塩基配列もしくはタンパク質のアミノ酸配列のデータに基づいた系統樹(以下, 分子系統樹)に関する内容は多くの国々の中等および高等教育における生物教育において理解すべき内容と考えられている。先行研究では, 日本の高校生は分子系統樹を描く実習を実施しても, 実習の内容を理解できない生徒がいることが報告されている。その一因として, 通常の授業では, DNAの塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列に種間変異が生じるしくみを十分に理解できていないことが挙げられる。そこで本研究は, Westerling(2008)によって開発された分子進化に関する実習にいくつかの変更を加え, 日本の高校生に中立説に基づく分子系統樹作成方法の原理を理解させることを目的とした。高校生を対象に教材を用いた授業実践をし, 実習前後に質問紙調査を行うことでその教育効果を検討した。その結果, 実習後には中立説に基づく分子系統樹作成方法の原理に関する理解が促進されることが明らかとなった。また, この実習教材を, MEGA4を用いて分子系統樹を描く実習の前に導入することで, 分子系統樹を描く実習に伴う認知的困難を緩和させる可能性が示唆された。
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