理科教育学研究
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57 巻, 2 号
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原著論文
  • 相場 博明
    2016 年 57 巻 2 号 p. 95-102
    発行日: 2016/11/18
    公開日: 2016/12/03
    ジャーナル フリー

    「月の満ち欠け」は, 小学校第6学年と中学校第3学年で扱われている。小学校では「天動説」的な地球視点で, 中学校では「地動説」的な宇宙視点で指導することになっている。相場(2015)は, 小学校における「月の満ち欠け」指導の問題点を指摘し, それを補足する教材として「月の満ち欠け説明器」を開発した。本論は, 中学校における地動説による「月の満ち欠け」指導の問題点を, 現行中学校理科教科書の分析から考察し, その改善策について言及する。さらに, その具体的な方策として小学校用に開発した「月の満ち欠け説明器」を地動説版として中学校用に新たに開発した。

  • ―作用・反作用の法則に関する指導法に焦点化して―
    沖野 信一, 山岡 武邦, 松本 伸示
    2016 年 57 巻 2 号 p. 103-114
    発行日: 2016/11/18
    公開日: 2016/12/03
    ジャーナル フリー

    本研究では高等学校の物理教育において, 作用・反作用の法則に関する科学的概念を構築する指導法について検討することにした。生徒は2物体の間で及ぼし合う力に関する強固な素朴概念を保持しているため, 作用・反作用の法則を正しく理解させることは難しいとされている。本研究では, 作用・反作用の法則に関する科学的概念を構築する際に「メタ認知的支援」の有効性を吟味することにした。なお, 本研究で述べる「メタ認知的支援」は, 以下の三段階の支援を行うことにした。方略1: 「素朴概念の明確化」。方略2: 「素朴概念の獲得過程の明確化」。方略3: 「素朴概念と科学的概念の接続・照合」。この三段階の支援を研究授業で行った結果, 生徒の理解度が大幅に上昇し, 2ヶ月後の遅延テストでも理解度の低下はわずかであった。したがって, この研究授業においては, 本研究の指導法が作用・反作用の法則に関する科学的概念を構築するのに有効であることが示された。

  • ―表現スケールの異なる天球・地球・観測者の描画に基づいて―
    佐々木 智謙, 松森 靖夫, 佐藤 寛之
    2016 年 57 巻 2 号 p. 115-122
    発行日: 2016/11/18
    公開日: 2016/12/03
    ジャーナル フリー

    本研究は, 視覚可能な天球面の範囲に関する小学校教員志望学生の認識状態の把握を試みるものである。具体的には, 表現スケールの大きく異なる天球・地球・観測者の描画を用いて, 観測者から肉眼で見ることのできる天球に貼り付けられた恒星(視覚可能な天球面の範囲)に関する認識調査を行った。得られた主な知見は以下の通りである。(1)小学校教員志望学生が考える視覚可能な天球面の範囲は19種類に及んだこと, (2)視覚可能な天球面の範囲に対する科学的に適切な回答理由を記述できた小学校教員志望学生は皆無であったこと, 及び(3)天球内に描き添えられる異なるスケールの地球や観測者の描画表現が, 視覚可能な天球面の範囲の認識に影響を与えていること。

  • ―理科教育実験への普及を目指した汎用性のある器具の活用―
    佐藤 美子, 芝原 寛泰
    2016 年 57 巻 2 号 p. 123-131
    発行日: 2016/11/18
    公開日: 2016/12/03
    ジャーナル フリー

    環境に配慮した実験, 個別化による「考える力の育成」に有効な実験として, マイクロスケール実験の特徴を生かした教材開発と授業実践を行った。小学校から高等学校に至る学校現場での普及には, 安価で安全かつ操作性にすぐれた実験器具の開発が必要である。本研究ではマイクロスケール実験のメリットを生かしながら, 実験に臨む教員側の課題である準備や後片付けの負担を軽減できる器具として, 「呈色板」を利用した「水溶液の性質」および「だ液のはたらき」に関する教材開発と授業実践を行った。アンケート調査は中学生や教員志望の大学生を対象とした授業と教員研修での実践をもとに, 従来の実験器具との比較も含めて実施した。活用した「呈色板」は, 従来のセルプレートのもつ機能性を損なうことなく利便性を向上させ, 学校現場に取り入れやすく, また「考える力の育成」につながる主体的な個別実験が可能になることが確認された。

  • 早藤 幸隆, 胸組 虎胤
    2016 年 57 巻 2 号 p. 133-141
    発行日: 2016/11/18
    公開日: 2016/12/03
    ジャーナル フリー

    本研究は, フェノールフタレインのフェノール性ヒドロキシ基をアセチル化した新規化合物4′,4″-ジアセチルフェノールフタレインを用いて, アルカリ性水溶液におけるエステルアルカリ加水分解反応の速度論的・熱力学的な解析を行い, 化学反応速度論の学習用実験教材としての可能性を検証した。その結果, 短時間で種々の化学熱力学的なエネルギー因子を算出可能な実験素材である事を明らかにした。また, 教員を目指す大学院生を対象とした実践的試行の結果から, 化学反応速度実験教材としての可能性が見出された。本教材は, 反応速度に対する化学熱力学的な物理量を学ぶ実験素材として有用である。

  • ―大正期の成城小学校の事例―
    山田 真子, 磯﨑 哲夫
    2016 年 57 巻 2 号 p. 143-154
    発行日: 2016/11/18
    公開日: 2016/12/03
    ジャーナル フリー

    本研究では, アメリカのNature Studyがわが国における小学校低学年の理科に与えた影響を大正期の成城小学校を事例として明らかにすることを目的とした。まず, 成城小学校において低学年の理科の実践的研究に主体的に取り組んでいた人物として, 澤柳政太郎, 和田八重造, 諸見里朝賢, 平田巧に着目し, 彼らに共通する低学年の理科の目的論や方法論, 彼らが行った実践をNature Studyの原典と照らし合わせながら分析した。この結果から, Nature Studyが成城小学校における低学年の理科の理論と実践に与えた影響について考察した。その結果, 成城小学校における低学年の理科の目的論や方法論, 実践には, Nature Studyと共通する部分が多く, Nature Studyが取り入れられていたことがわかった。具体的には, 目的論における生活の進歩, 改善や, 観察力, 想像力, 思考力などの養成を重視する考え方, 方法論における自然の事物現象に直接触れることや, 自然の事物現象の観察・実験をすること, その結果を記録, 考察すること, 児童の要求や興味に応じて学習を進めることを重視する考え方, などが共通していた。成城小学校の教育論とNature Studyの考え方は適合するものであり, 低学年の理科を行うための理論的根拠として, また実践する際の参考として, Nature Studyが取り入れられた。成城小学校の教師らは, Nature Studyの背景も含めた理論と実践に深く共感し, それらに学びながら, 低学年の理科を展開していったのである。

  • ―中学校における取組―
    柚木 朋也, 伊藤 雄一, 浜田 康司
    2016 年 57 巻 2 号 p. 155-168
    発行日: 2016/11/18
    公開日: 2016/12/03
    ジャーナル フリー

    この研究の目的は, 中学校においてS霧箱を使用することにより放射線の飛跡を容易に観察できることを実証することである。

    霧箱を使用する実践については, 様々な霧箱で多くの実践が行われてきた。しかし, これまでの霧箱での実験では, ドライアイスや液体窒素が必要であった。そのため, ドライアイスの入手が難しい学校では, 霧箱の実験は難しかった。そこで, S霧箱を使用することにした。S霧箱は, ドライアイスなどの代わりに融雪剤(MgCl2∙6H2O)などの化学的な寒剤を使用する高性能の霧箱であり, 生徒が作ることも可能である。また, 線源は採取したホコリを使用した。北海道教育大学の部屋で集めたホコリは, 主にウラン系列の222Rnやその娘核種であることが明らかになった。また, 採取後1時間以内であれば十分に線源として使用可能であることも明らかになった。

    本研究では, S霧箱を実際に中学校で製作し, ホコリの放射線の飛跡を観察した。その結果, 身近にある材料だけで, 放射線の飛跡を観察することができた。そして, それまで観察が比較的困難であったβ線の飛跡を生徒が容易に観察できることが明らかになった。また, 授業前と授業後で生徒の放射線に対する認識の変容が見られた。これらのことから, ドライアイスが無くても, S霧箱と寒剤を使用した授業が中学生にとって有効であることが明らかになった。

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