理科教育学研究
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57 巻, 4 号
特集号  理科授業の学習環境デザイン
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
巻頭言
原著論文
  • ―酸素センサ導入の試行授業における評価分析を通して―
    後藤 顕一, 高橋 三男, 飯田 寛志
    2017 年 57 巻 4 号 p. 325-336
    発行日: 2017/03/18
    公開日: 2017/07/08
    ジャーナル フリー

    児童・生徒にとって求められる資質・能力の育成の必要性が示されている。資質・能力を育成するためには学習環境の充実が不可欠であり, 理科においては, 教材と教具のそれぞれの充実, さらには教材と教具の適切な結びつきと利用が求められる。学習環境の視点から, 教具には実験や測定がしやすい計測装置, 結果の明瞭性, 安全性, 実験の準備の簡便性等の充実が要素として挙げられる。学習環境の整備によって, 学びが深まり, 学習意欲を育成することが望まれる。そこで, 本研究では, 小学校理科において光合成で酸素を測定する授業を扱い, 学習環境の違いによって学習者の学びがどのような違いがあるのか, 用いる教材の評価とともに, 比較・分析をすることを目的とする。研究方法として, 教材を同一の内容にし, 二種類の異なる教具を用意し, 教具の違いにより学習環境の違いをデザインして実践する。異なる教具を用いたことによる学習環境の違いにより, 子供たちの学びがどのように変容するのか, 学習環境の視点から教材に必要な要素について, 比較・分析した。比較・分析に用いる二種類の教具とは, 平成20年度版の学習指導要領で用いられている気体検知管と理科教育用に開発した空気亜鉛電池による酸素センサ(高橋式酸素センサ)である。小学校の児童による試行実践を行ったところ, 顕著な違いが見いだせたので報告する。

  • 出口 明子, 舟生 日出男, 山口 悦司, 稲垣 成哲
    2017 年 57 巻 4 号 p. 337-349
    発行日: 2017/03/18
    公開日: 2017/07/08
    ジャーナル フリー

    本研究では, 学習者のリフレクションを支援する新たなテクノロジの開発とその実践的評価を行うことに取り組む。具体的には, 自己と他者の思考過程の比較を通したリフレクションを支援する「自己-他者間比較機能」を新たに実装したコンセプトマップ作成ソフトウェアを開発した。さらにそれを小学校4年生の理科に導入した授業をデザインし, 実践的な評価を行った。評価においては, 自己-他者間比較機能の利用の有無による比較・検討を行った。3つの調査・分析の結果, 自己-他者間比較機能を利用したクラスの児童らは, まず自己と他者の思考過程との比較を通して自らの思考の吟味に至る思考がより活性化されていたことが示された。さらにそうした思考によって, 自己や他者の思考の変化に関わるリフレクションが促進され, 学習内容に関する理解が深まっていたことが示唆された。これらの結果から, 本研究で実装した新たな機能は学習者のリフレクションを支援する上で有効であったと結論付けられた。

  • 遠西 昭寿, 福田 恒康, 佐野 嘉昭
    2017 年 57 巻 4 号 p. 351-358
    発行日: 2017/03/18
    公開日: 2017/07/08
    ジャーナル フリー

    筆者らはクワインのホーリズムに基づいて, コンセプトマップを用いて「一つの集まり」として科学知識を示すことによって, 学習者にとって観察や実験を意味あるものとする実践を紹介してきた(遠西・佐野, 2012; 福田・大嶋・遠西, 2013; 福田・遠西, 2014; 福田・遠西, 2015)。これらの実践は学習者に好意的に受けとられてきている。しかし, 紙面の制約もあって, 授業実践の具体的方法とそれを支える理論的背景について詳細に述べる機会はなかった。本論文の目的は, これらの実践の根拠となった方法論的理論と, そこからの帰結としての具体的方法を紹介することである。その概要は以下のとおりである。1. 習得すべき科学知識としての命題群の設定と教師によるコンセプトマップを用いた概念構造の明示化。2. 授業目標の設定, キーワードの設定および授業計画の作成(科学的命題の構成としての認知的目標)。3. 授業実践(観察実験を含む)と授業評価(キーワードを使った命題の構成と実験による確証)。4. コンセプトマップの作成による「まとめ」の活動(テクストとしての概念理解とメタ認知)。理論も概念も命題であるから, 授業の認知的目標は命題の構成である。しかし, 観察や実験によって審判されるのは個々の命題ではなく「一つの集まり」(クワイン, 1992)としての命題群であり, これを可視化する手法として命題の連鎖であるコンセプトマップが使われている。本論文が紹介するのは具体的方法とその背景的理論であり, 実際の授業評価には前述の先行論文を参照していただきたい。

  • 舟生 日出男, 大黒 孝文, 竹中 真希子, 稲垣 成哲
    2017 年 57 巻 4 号 p. 359-368
    発行日: 2017/03/18
    公開日: 2017/07/08
    ジャーナル フリー

    本研究では, 教員養成課程の大学生が, 現実の指導場面を想定した理科実験技能に関する知識を習得することを支援するために, マンガ・ケースメソッド教材上で学習者が注目した箇所を可視化し, 共有することが可能なタブレットPC用システムを開発した。本システムでは, ピン打ちのメタファーで, 注目箇所に対してタッチ操作によるポインティングで注釈を付加したり, 他の学習者が付加した注釈を重ね合わせて, 注目箇所を共有することが可能である。本システムを活用することで, 話し合い活動において, 他者の着目箇所との共通点や相違点に基づいて対話したり, 考えを深めたりすることができる。評価の結果, 共有によって新たな気づきが促されるなど, 本システムの有効性が示唆された。

  • 山口 悦司
    2017 年 57 巻 4 号 p. 369-385
    発行日: 2017/03/18
    公開日: 2017/07/08
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は, 教科書準拠の教師用指導書に焦点を当てて, 理科を教える教師の学習を支援しうる特徴を我が国の教師用指導書がいかに備えているかを解明する試みの第1歩として, 小学校第6学年「月と太陽」の単元を事例とした分析結果を報告することであった. 具体的には, 教育的カリキュラム資料という理論的概念に基づいた分析フレームワークを採用し, 小学校理科の教科書を出版している全6社が発行する教師用指導書を分析対象として, (1)どのような内容の専門的知識の学習が重点的に支援されているのか(支援の内容), (2)専門的知識の学習支援のために, どのような形態が活用されているのか(支援の形態), という2点を明らかにすることを試みた. その結果, 本研究で対象とした教師用指導書について, 以下の2点を明らかにすることができた. (1)支援の内容については, 科学の内容に関するPCK(Pedagogical Content Knowledge)の学習, および科学の方法に関するPCKの学習が重点的に支援されている. とりわけ, 科学の内容に関するPCKについては, 単元に固有な科学の事象に児童が取り組むことに関する知識の学習が, 科学の方法に関するPCKについては, 問題設定, データ収集・分析, 証拠に基づく説明のそれぞれに児童が取り組むことに関する知識の学習が手厚く支援されている. その一方で, 研究計画の立案やコミュニケーションに関する知識の学習は, あまり支援されていない. (2)支援の形態については, 実施の手引き, すなわち, 個々の教授方法・教材・学習活動を効果的に利用する仕方に関する学習を支援する形態が活用されている. これに対して, 理論的根拠, すなわち, 教授方法・教材・学習活動について, それらが教育的・科学的に適切である理由に関する教師の学習を支援する形態はあまり活用されていない. 以上の結果に基づいて, 秀逸点と問題点という2つの側面から, 我が国の教師用指導書の特徴を考察した.

  • 山本 智一, 神山 真一
    2017 年 57 巻 4 号 p. 387-401
    発行日: 2017/03/18
    公開日: 2017/07/08
    ジャーナル フリー

    アーギュメントの構成能力や評価能力は, 児童生徒だけでなく, 指導する教師に不可欠である。現状では, 現職教師が構成するアーギュメントは十分でないことが課題となっているにもかかわらず, 日本において, 現職教師がアーギュメントを構成したり評価したりする活動を支援するために, 教授方略を導入したプログラムは存在しない。本研究の目的は, アーギュメントの構成能力と評価能力を育成する小学校教師教育プログラムを開発し, その有効性を明らかにすることである。そのために, 海外の研究を援用してプログラムの活動を構成するとともに, 山本ら(2013)が小学校児童を対象として授業を行う際に導入した, 12の教授方略によるプログラムを開発し, 小学校の現職教師に適用した。プログラムは4つのActivityから構成され, (1)アーギュメントの定義と意義についてのレクチャー, (2)児童のアーギュメントの実態に関するレクチャーと演習, (3) アーギュメントの指導と評価について体験的に理解する演習, (4) 小学校授業で実際に行われたアーギュメント指導の概観を含んでいる。プログラム中のワークシート, プログラム前後のアーギュメントを構成する課題と評価する課題, 及び, プログラム後の質問紙調査を分析した。その結果, プログラムの内容について, 主張・証拠・理由付けを利用したアーギュメントを構成することができていた。また, アーギュメントの構成や評価では, 特に証拠に関して, 有意な向上が見られた。さらに受講者は, アーギュメントの意義・構造・指導法の理解や体験活動について, プログラムを高く評価していた。よって, 本プログラムは, アーギュメントを指導する小学校教師にとって, アーギュメントの構成能力や評価能力を育成する上で, 有効であることが明らかになった。

  • ―理科の学習環境をデザインできる教員養成に向けたカリキュラムマネジメントのために―
    吉田 安規良, 比嘉 俊
    2017 年 57 巻 4 号 p. 403-421
    発行日: 2017/03/18
    公開日: 2017/07/08
    ジャーナル フリー

    児童生徒にとって最善の学習環境をデザインできる理科を教える教員の養成・研修等の教師教育の現実的な在り方の検討材料を提供するため, 2015年(平成27年)に実施された全国学力・学習状況調査の理科の問題を利用し, 琉球大学で教員を目指す学生の解答状況から彼らの学力の一端と比較的正答率の低い問題の誤答傾向や誤答の背景を調査した。小学校理科の問題を解答した学生(122名)の平均正答数は19.9で, 平均正答率は82.7%であった。中学校理科の問題を解答した学生(79名)の平均正答数は20.6で, 平均正答率は82.5%であった。どの問題の誤答の背景にもケアレスミスがあったが, 小学校理科の結果から, 教員志望学生には観察・実験に関する「技能」と問題場面において知識・技能を活用する「適用」に苦手な部分があった。未履修・未経験への対応と科学的に考察できる能力の育成が必要であることが示唆された。中学校理科の結果では, それに加えて自らの考えや他者の考えを検討して改善する「検討・改善」にも苦手な部分があることが示唆された。さらに, 電磁誘導の問題の解答状況から「本質をわかっていない者」が多くいるだけでなく「わかっていないのにわかっていると判断された可能性のある者」の存在が推定される。こうした状況の改善には教科書教材を上手に用いて理科の学習内容に関する専門的知識の確かな定着と教えるための知識の両方を教員志望学生に具備させることが必要である。

  • 渡辺 理文, 森本 信也, 小湊 清隆
    2017 年 57 巻 4 号 p. 423-434
    発行日: 2017/03/18
    公開日: 2017/07/08
    ジャーナル フリー

    本研究では, 心理的・社会文化的な学習環境をデザインすることで, 新しい時代に必要となる資質・能力1)の育成に関わる教授・学習方略を実現することを目指した。そのために, Cunninghamらの提案した構成主義的な学習環境を構築する七つの枠組みに基づいて, 理科授業を計画・実践した。七つの枠組みは, (1)知識構築のプロセスを経験させる, (2)多様な視点を認識させる, (3)学習課題が真正である, (4)学習者中心の学習である, (5)協働的である, (6)多様な方法で表現させる, (7)メタ認知活動を促す, である。この枠組みを援用した授業を分析した結果, 資質・能力の育成に関わる理科授業を計画・実践する枠組みとして, Cunninghamらの枠組みが有用であることが明らかになった。

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