理科教育学研究
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58 巻 , 1 号
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総説論文
  • ―高大接続・大学入試改革と連動した高等学校化学教育の質確保・向上, 大学のリメディアル教育への対応を目的として―
    杉本 剛
    2017 年 58 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2017/07/18
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー

    物質量は, 国際単位系(SI)基本単位の1つであり, 高等学校化学の導入段階における最も重要な概念の1つである。本研究は, 物質量を対象とした理科教育学の研究をレビューすることを目的とし, 1978年以降の日本における高等学校化学教育を対象とした研究をレビューした。これまでの研究では, 1. 教科書内容の分析, 2. 生徒の実態調査, 3. 指導の実態調査, 4. 学習の理解検討, 5. 学習指導, 6. 教材・教具開発, 7. 実験, 8. 大学入学試験, 9. 教師教育の観点でまとめられる研究が行われてきた。だが, 高等学校化学教育には現状課題として, 教育再生実行会議第四次提言(2013年), 中央教育審議会答申(2014年)などが示す要請から, 1. 高大接続・大学入試改革と連動した高等学校教育の質の確保・向上への対応, また, 大学入学後の学習課題の要請から, 2. 大学のリメディアル教育の逼迫化への対応があげられる。研究の今後の方向性には例として, 1. 科学的な概念を使用して考え説明する学習活動を充実させる過程における, 生徒の考えを表現させ評価することを追究する学習指導法・評価法研究の進展, 大学入学後の学修に必要な関連他分野との円滑な接続を意図した, 中等教育カリキュラム開発の進展, 2. 必履修科目に初歩的な物質量の学習を加え, 学習内容自体の多様性を持たせながら必修化し, 高等学校までの理科の必要最低限の知識・技能や教養を確保させる科目開発が必要であると考えられた。

原著論文
  • ―教員養成系大学生に対する調査―
    佐藤 綾, 栗原 淳一
    2017 年 58 巻 1 号 p. 13-26
    発行日: 2017/07/18
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー

    小学校理科においては身近な自然体験の充実が求められており, 第3学年と第4学年で生物と環境との関わり合いを野外での観察を通じて学習する。一方, 多くの教員が野外での生物観察の指導に不安を感じており, 教員養成における大学での知識の獲得が求められている。そこで, 教員養成系の大学生を対象に, 将来教員になった際に小学校の理科で野外での生物観察を指導する自信の程度とその理由について調査するとともに, 以下に示す6つの要因が「野外での生物観察を指導する自信」に与える影響について因果モデルを作成した。その結果, 9割以上の学生が野外での生物観察の指導に不安を感じており, その理由として, 名称などの生物の知識の不足が最も多いことが示された。また, 「動植物名の認知度」, 「小・中学時の生物に関する学び」, 「小・中学時の自然体験」, 「生物の知識に関わる現在の活動」, 「身の回りの生物への興味・関心」, 「大学での生物の学び」の6つの要因について, (1)「動植物名の認知度」は「野外での生物観察を指導する自信」に直接影響を与える, (2)「小・中学時の自然体験」, 「小・中学時の生物に関する学び」, 「生物の知識に関わる現在の活動」, 「身の回りの生物への興味・関心」が「動植物名の認知度」に直接影響を与える, (3)「野外での生物観察を指導する自信」へ直接影響を与える要因のうち, 特に「生物の知識に関わる現在の活動」の影響が大きい, ことが明らかとなった。これらのことから, 野外にいる動植物の名称に関する知識は学生が将来教員になった際に野外での生物観察を指導する自信に影響を及ぼすものの, 博物館や動植物園を訪れたり, 生物に関するニュースや書籍を読むなど, 生物についての知識獲得に関わる活動を学生が行うための支援をすることで, 将来教員になった際の野外での生物観察を指導する自信を高めることができる可能性が示唆された。

  • ―中学校理科「化学変化」の単元における授業実践を通して―
    髙見 健太, 木下 博義
    2017 年 58 巻 1 号 p. 27-40
    発行日: 2017/07/18
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー

    本研究では, 中学校理科において批判的思考を働かせることができるようにするために, 他者との関わりを契機として批判的思考を働かせることを促す指導法を考案し, 授業実践を通してその効果を検証することを目的とした。この目的を達成するため, クリティカル・ファシリテーションという, グループ活動におけるファシリテーターに批判的思考を促す役割を与えて議論を進めさせる指導法を考案した。そして, 考案した指導法の効果を検証するため, 広島県内の国立大学附属中学校第2学年の生徒41名を対象に, 「化学変化」の単元において授業実践を行った。質問紙による分析, ワークシートの記述分析および発話記録の分析の結果, 考案した指導法は, 他者との関わりを通じて, 自身の仮説を反省的に振り返って考えたり, 合理的に考えたりする力の育成に寄与することが示唆された。

  • ―中学校理科教員の意識調査の日米比較研究―
    土佐 幸子
    2017 年 58 巻 1 号 p. 41-53
    発行日: 2017/07/18
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー

    米国においては1996年に全米科学教育スタンダードが発行されて以来, 探究を通しての理科学習は理科教育の大きな柱である。しかし, 2006年のTIMSS理科授業ビデオ研究において, 米国の中学校理科授業は事実や定義の伝達を基に展開される場合が多く, 日本の授業に比べて探究的ではないことが指摘された。本研究は日本と米国の中学校理科教員が, 探究的指導法に関してどのような意識をもっているかということを質問紙によって調査した(N=191)。「理科の探究的指導法に関する意識調査[STAIB]」という質問紙の内容を開発するにあたり, 複数の計量心理学的要素を考慮した。因子分析を行ったところ, 10個の因子が特定され, これらの因子を従属変数とする多変量解析では, 日米の違いに統計的有意差が見られた。また, 個々の因子における日米の違いを調べたところ, 日本の中学校理科教員は米国の教員よりも探究的指導に賛成する度合いが低く, 生徒の活動や質問を積極的に助けることを躊躇する傾向があることが明らかになった。得られた知見が教員養成を含め, 日米の理科教育に関して示唆することを議論する。

  • ―フィリピン小学校理科教員の授業観察に基づいて―
    畑中 敏伸
    2017 年 58 巻 1 号 p. 55-64
    発行日: 2017/07/18
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー

    開発途上国の教育の質的な向上のため学習者中心の教育が重視されること, 国際教育協力で日本の教育経験が重視されること, フィリピンの教育での探究学習の重視を考慮し, 本研究では教師が構造化された探究学習を指導する際に必要な教師の知識の解明を目的とした。調査分析の枠組みは, 授業に必要な知識であるPCKに関する文献レビューより設定した。フィールド調査は, フィリピン小学校理科教員を対象として, 理科の実験を含む教授学習内容に関する研修を行った後に, 研修参加者の行う理科授業を観察し分析した。その結果, 構造化された探究授業を教師が行うために, PCKの構成要素である, 児童・生徒の理解に関する知識, 指導方法に関する知識, 評価に関する知識, について教師に必要とされる知識を明らかにした。それらの知識は, 実験で探るべき問いの提示, 実験方法の提示, 実験結果から結論を導く, という探究授業の3つそれぞれの場面に分けて具体的に示した。

  • 原田 勇希, 坂本 一真, 鈴木 誠
    2017 年 58 巻 1 号 p. 65-80
    発行日: 2017/07/18
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー

    物理分野の学習では, 現象を心的にイメージし, それを適切に図示することが問題解答に促進的に働く。近年, 空間を視覚化する心的イメージ能力の個人差が, あらゆる科学・技術分野における学習達成の重要な因子であることがわかってきており, 物理分野でも同様の報告がある。本研究では, 高校1年生(n=173)を対象とし, 物理分野における作図スキルと学習意欲の側面である期待信念との関係の分析を行った。調査の実施にあたって, 演算などの数的処理を要求しない作図スキルテストを作成した。その結果, 与えられた文章から現象をイメージし, 状況を描く「可視化」が苦手な子どもは, 手段保有感(努力)低下のリスクがあることが示された。また, 図の中に物理学的概念を書き加える「物理学的描写」スキルが高いレベルで身についてはじめて, 高い統制感, 手段保有感(能力), 手段保有感(教師)が獲得されることが示唆された。また, 性差において, 客観的に測定されるテストと比べ, 特に統制感と手段保有感(能力)で大きな差があった。この結果から, 女子の方が物理分野の学習達成に対して, 自らの能力を低く査定しやすい傾向があることが示された。

資料論文
  • 島村 裕子, 増田 修一
    2017 年 58 巻 1 号 p. 81-88
    発行日: 2017/07/18
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー

    本研究では, 理科教育における花粉管の伸長を観察できる植物およびその最適条件を明らかにするために, 花粉管の伸長観察に適した植物の探索を行った。その結果, ホウセンカの花粉は, ショ糖濃度10%で最も発芽率が高かった。一方, サルスベリ, モクセンナおよびチャノキにおいては, ショ糖濃度15%において最も花粉管の伸長が認められ, いずれの植物においても0.5%のエタノールを加えることで花粉管の発芽率が高くなる傾向が認められた。また, 薬包紙に包んだ花粉をシリカゲルとともに密封容器に入れ, 乾燥条件下で家庭用冷蔵庫にて, 6ヶ月間冷凍保存したところ, ホウセンカおよびモクセンナの花粉は, 寒天培地に付着10分後に発芽を開始し, 冷凍前と同程度の花粉管の伸長速度が保たれていた。チャノキおよびサルスベリでは, 発芽までに30分から1時間を要したが, 授業の前に花粉を培地につけておけば, 授業時間内に花粉管の伸長を観察できることが示唆された。マリーゴールド, ジニアリネアリス, ヒャクニチソウ, センニチコウおよびヒオウギスイセンは, 花粉管の伸長観察には適していなかったが, 花粉が学校でよく扱われる植物とは異なる形状をしていることから, 理科教材として興味深く観察することができると考えられた。これら本研究で明らかにした花粉管の観察およびその伸長に適した植物およびその条件に関する情報は, 花粉管の観察・実験への利用・応用に資することが期待される。

  • ―脊椎動物の前肢の骨格標本を利用した授業の実践―
    山野井 貴浩
    2017 年 58 巻 1 号 p. 89-97
    発行日: 2017/07/18
    公開日: 2017/08/04
    ジャーナル フリー

    中学校理科や高等学校生物基礎では, 脊椎動物の前肢の骨格に注目し, 両生類, 鳥類, 爬虫類, 哺乳類は異なるグループに分類されるものの, 基本的な骨格は共通していることから, 共通の祖先から進化してきたことを扱う。現行の中学校理科や高等学校生物基礎の教科書を見ると, 脊椎動物の前肢の基本的な骨格が共通していることを説明する図や写真は掲載されているものの, 観察・実験の例は掲載されていない。生徒はこの図や写真を見ることで, 脊椎動物は祖先を共有していることを実感できるのだろうか。そこで, 本研究では脊椎動物の骨格標本を用いた授業を実践し, 生徒の進化に関する実感や理解が授業により変化するかを質問紙調査により検討した。授業前後に行った質問紙調査の結果, 生徒はこの授業を通して「祖先の共有と進化」, 「生物の共通性と多様性」, 「退化」の実感や理解が深まることが示唆された。また, 脊椎動物の進化に対する興味も増すことが示唆された。現職の中学校理科の教員対象の研修会においても, この授業を紹介し, 「中学生に進化を教えるうえで有効な教材と思うかどうか」を尋ねたところ, ほとんどの教員が「そう思う」と肯定的な回答をした。

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