理科教育学研究
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58 巻, 4 号
特集号  理科授業と評価
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巻頭言
原著論文
  • ―中学生の地学分野における進化概念形成を事例として―
    名倉 昌巳, 松本 伸示
    2018 年 58 巻 4 号 p. 355-365
    発行日: 2018/06/22
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    中学校1年理科教科書における地学分野には, 古生代から新生代に至る進化の証拠である化石資料が登場する。ここでは「どのようにして進化してきたか」の解説がないまま, 事実だけが列挙されている。一方, 「進化」に関する誤解は多く, 根強く保持される誤概念を指摘する先行研究も多い。本研究では開発した授業によって, 中学生の科学的進化概念がどの程度形成されたかを検討することを目的とした。具体的には, 進化に関する「本質的な問い」を毎時の授業に設定し, その総括的評価として「絵」と「文」で表現する「パフォーマンス課題」を準備した。さらにパフォーマンス課題の作成前後に, 対話的な学びによる再考と修正の機会, すなわち相互評価などの形成的評価の要素を教授・学習過程に加味した。パフォーマンス課題や質問紙調査の結果から分析を加えたところ, 中学生の科学的進化概念の理解に一定の効果がみとめられた。

  • ―評価指標の開発と位置づけを通して―
    藤森 詩穂, 小野瀬 倫也
    2018 年 58 巻 4 号 p. 367-379
    発行日: 2018/06/22
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    子どもの科学概念は既有の経験や解釈を通して構築されるものであり, このことは理科教育において大変重要な視点である。本研究では, 理科学習が始まる前段階である生活科に焦点を当てた。また, 学習指導要領で期待されている生活科の役割や課題を踏まえ, 理科学習へと発展させるための生活科学習の在り方を明らかにした。そのために, 以下の二つの視点から授業をデザインし, 教授・学習モデル及び, そこに位置づけた評価指標を実証した。(1)理科への発展を志向した生活科授業における教授・学習モデルの開発。(2)理科からみた子どもの資質・能力を育てる視点としての生活科の評価指標の開発。以上の教授・学習モデルの開発と授業実践による実証から, 教師の意図的な場の設定のもとで科学につながる子どもの気付きが生まれることが分かった。また, 教師が子どもの気付きを見とり, 価値づける視点としての評価指標を持つことにより, 子どもの気付きを科学概念へと伸長させる視点を明確にできることが分かった。

  • 渡辺 理文, 野原 博人, 森本 信也
    2018 年 58 巻 4 号 p. 381-392
    発行日: 2018/06/22
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    本研究では, 教師と子どもをともに評価者として捉える「統合的評価」を実践するために, Crispの提案を援用し, 理科授業を計画・実践した。Crispの提案する統合的評価を実践するための枠組みは, (1)自分の学習や表現の判断, (2)評価規準の明確化, (3)方法と履歴の分析, (4)フィードバックの取り入れ, (5)意味のある課題に従事, (6)メタ認知活動, の六つである。実践した授業は, 小学校第4学年「空気と水の性質」の空気の性質についてである。この枠組みを援用した授業を分析した結果, 教師は診断的評価と形成的評価, 総括的評価を行うことで, 子どもの学習を支援していた。また, 子どもは, 自己評価1)と相互評価2)を行うことで, 問題の解決を図っていた。教師と子どもがともに評価活動を行うことによって, 子どもは空気の性質に関する知識を構築していた。Crispの提案する統合的評価の六つの枠組みを機能させることは有効であり, 日本の理科教育にも援用可能であることが明らかになった。

資料論文
  • ―科学系博物館の展示物である人体模型の見学を通して―
    佐々木 智謙, 佐藤 寛之, 北原 美遥, 松森 靖夫
    2018 年 58 巻 4 号 p. 393-402
    発行日: 2018/06/22
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    本研究では, 科学系博物館の常設展示物の一つである人体模型に着目し, その見学前後の心臓の位置に対する小学生の認識状態の変容を把握するための評価シートを考案して試行した。その結果, 得られた主な知見は以下の通りである。①見学前, 評価シートに回答した計263人の小学生のうち, 約40%が「心臓は胸の左側に位置する」という誤概念を保持していた。②見学後, この誤概念を保持している小学生は10%未満に減少した。③見学前に心臓の位置を正しく認識できた小学生は約20%であったが, 見学後は約60%に増加した。そして, 評価シートの試行結果や表出した問題を踏まえながら, 評価シートのさらなる活用を目指して, 計5点(評価シートの構成と内容, 見学方法, 展示物の展示方法, 人体模型, 及び学校理科などの教科との連関)から検討を加えた。

  • ―自由記述法と描画法を併用して―
    佐々木 智謙, 佐藤 寛之, 塚原 健将, 松森 靖夫
    2018 年 58 巻 4 号 p. 403-410
    発行日: 2018/06/22
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    本研究の主目的は, 自由記述法と描画法を評価ツールとして併用し, 「昆虫の体のつくり」の学習前の小学校第2学年児童と, 学習後の第3学年児童の認識状態を評価することにある。得られた知見は, 以下の4点である。1)「昆虫の体のつくり」について, 命題A(昆虫の体は, あたま・むね・はらの3つの部分に分かれていること)及び命題B(昆虫のむねには, 6本のあしがあること)に依拠した科学的な説明ABを行えた小学校第2学年児童は皆無であり, 第3学年児童においても約30%にとどまっていること, 2)小学校第2学年の場合, 昆虫概念の内包と外延に対するいずれの認識も乏しいため, 特定の昆虫や生き物を事例にして非科学的説明を行った児童が約95%にも及んだこと, 3)小学校第3学年の場合, 命題Aのみに依拠した科学的な説明Aが約40%存在する一方, 命題Bのみに依拠した科学的な説明Bはわずかに約1%のみであったこと, 及び4)両学年のうち, 数%の児童が人の体のつくりとの比較・照合を通して説明していた。得られた評価結果に基づき, 我が国の現行の「昆虫の体のつくり」の学習指導を再構成するための視点を提案した。

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