理科教育学研究
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60 巻 , 2 号
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総説論文
  • ―理科教育を通して育成すべき資質・能力とは何か―
    鈴木 誠
    2019 年 60 巻 2 号 p. 235-250
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    OECD PISA2003の結果とDeSeCo Projectが示したキー・コンピテンシーは,世界の初等中等教育改革に大きな影響を与え続けている。その一つが,具備すべき知識やスキル,態度を含んだ概念であるコンピテンシーをあらかじめ明示し,それに対応して学習内容を配置し,効率的・合理的な育成を目指すコンピテンス基盤型教育の導入である。欧州やオセアニア諸国は,それに大きく舵を切った。その成功例と言われるフィンランドでは,7つのコンピテンシーを設定し,すべての学年と教科でその育成を目指す教育が進められている。日本でも,資質や能力の育成が重視されるようになってきたが,まだ抽象論の域を出ていない。試案として,どのようなコンピテンスを理科教育を通して育成すべきか,医学教育をモデルに整理・検討したところ,具体的な構成要素が明らかになった。教科の内容を教えるのではなく,教科を通して児童や生徒に求めるコンピテンスを育成するという,従来とは逆の視点がコンピテンス基盤型教育には必要である。そのためには,20世紀後半に向けて児童や生徒にどのような資質や能力を具備させるべきかといった議論が今後必要であろう。

原著論文
  • ―相互評価表を用いた授業実践を通して―
    飯田 寛志, 後藤 顕一
    2019 年 60 巻 2 号 p. 251-266
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,資質・能力を育成する観点から,相互評価表を用いる学習活動を取り入れた中学校理科の授業を実践し,実験結果の考察記述をアーギュメントの視点で分析することにより,相互評価活動と記述の論理的表現の変容との関係について検討することを目的として行った。相互評価表を用いる学習活動とは,授業における学習課題に対する記述について,一定の評価規準を用いて生徒それぞれが自己評価と相互評価を行い,評価結果とともに課題に対する記述を振り返る中で,主体的に学習に取り組みながら表現力等を育成することを目的とする学習活動である。分析の結果,考察記述の論理的表現の改善が見られたこと,アーギュメントの構成要素の一つである論拠に関する記述や評価について課題があることが明らかとなった。

  • ―誰が決定し,何を基準とするのか―
    磯﨑 哲夫
    2019 年 60 巻 2 号 p. 267-278
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本小論は,理科カリキュラムの内容構成論について,比較教育史的アプローチに基づき知識論を援用しながら,19世紀から現在までの3つの時代区分により,日本とイギリスを比較しながら論じた。そして,誰が学習内容を決定し,何を基準として学習内容が選定されるかについて考察した。その結果,両国の科学(理科)教育の史的展開を比較すると,まず,科学(理科)教育を完成した所与のものと見なすのではなく,社会的・歴史的産物と見なすべきことを指摘した。重要なのは,目的・目標論,別の表現をすれば,理科教育を通してどのような資質・能力を備えた人間を形成するかという前提条件のもとで,学習内容(科学(そのもの)の)知識と科学についての知識)を選択し決定するべきであり,そのためには社会や学界を十分に巻き込んだ議論を踏まえて,目標や内容等を決定する“noosphere”における議論が必要である,ということである。理科は自然科学を基盤としている教科である,という分離教科カリキュラムや学問中心カリキュラムの定義を,グローバル化の視点と現代的文脈で再解釈する必要に迫られていることを指摘した。

  • ―中学校理科での授業実践から―
    上野 宜久, 澤田 一彦, 岩堀 英晶, 多賀 優
    2019 年 60 巻 2 号 p. 279-289
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    様々な動植物の観察から生物の多様性や生命を体感することは理科教育の重要課題の一つである。しかし,土壌動物は,植物に比べて準備に必要な教員の知識が十分ではなく,現場でほとんど採用されていない。土壌動物観察授業が可能になると,身近な動物の観察の幅が飛躍的に拡がり,生物多様性に対する理解や生命観の醸成に資すると期待できる。そこで,土壌センチュウの採集方法を教育現場に最適化して開発し,教員に多くの知識や準備を要求しない観察授業の実践を試みた。授業前後に実施したコンセプトマップから,土壌動物の活発な運動を観察したことによる生物・生命に対する生徒の意識変化と経験値の積み上げが確認された。線虫という概念ラベルは,予め提示したにも関わらず授業前には限られた生徒にしか使用されなかったのに対し,授業後にはほとんどの生徒に土壌と関連づけて使用されていた。使用されたつなぎ言葉の変化等から,身近な土壌における生物多様性の認識や生命観の変化などが読み取れた。これらの結果から,センチュウの観察授業がこれまでの授業内容では代替えし難い独自性を有し,生物多様性の理解や生命観の醸成にその機会を提供するものと考えられた。

  • ―ものづくりの指導経験および学習経験を踏まえて―
    太田 和希, 内ノ倉 真吾
    2019 年 60 巻 2 号 p. 291-300
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校教師20名・中学校教師38名および教育系大学生148名・理学系大学生45名を対象として,理科におけるものづくりの指導経験および学習経験,ものづくりに対する認識を質問紙調査により探った。大学生および教師のものづくりの学習経験および指導経験として,第一に,大学生はものづくりを好きだと感じており,不得意というよりは得意であると認識していた。第二に,所属学部や性別によって,ものづくりの好き嫌いや有能感,実施頻度感には違いが見られなかった。第三に,中学校教師は,小学校教師と比べて,理科授業でものづくりを実施していなかった。教師や大学生のものづくりに対する認識として,第一に,大学生と教師は,観察・実験と比べて,ものづくりを取り入れた授業が望ましいとは思っていなかった。第二に,大学生と教師は,子どもは観察・実験とものづくりの双方が好きであるが,必ずしも得意ではないと認識していた。第三に,ものづくりの教育的な意義の内容について,大学生と教師は,創造性の伸長,知的好奇心の喚起,ものづくり技能の向上を,教育的な意義として共通に認識していた一方で,科学的な知識の定着の効果では,認識の違いが見られた。これらを踏まえ,ものづくりによる理科学習の促進に向けた示唆として,カリキュラム・マネジメントの推進,ものづくりを取り入れた授業モデルの開発と授業研究の充実を指摘した。

  • ―教科書の分析を通して―
    内海 志典
    2019 年 60 巻 2 号 p. 301-308
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,イギリス初等科学の化学的領域における概念形成について検討するために,科学教科書の化学的領域に関する内容の構成について分析した。その結果,次の4点が明らかとなった。(1)「物質の性質」から「粒子の保存性」,「粒子の結合」,「粒子のもつエネルギー」及び「粒子の存在」の粒子における4つの概念等へと接続が図られている。(2)「粒子の存在」では,粒子の存在を明示的にモデルで提示している。(3)「物質の性質」や「粒子のもつエネルギー」では,スパイラルカリキュラムとなっている。(4)「粒子の結合」と「粒子の保存性」では,物質の変化に着目した取り扱いになっている。

  • 加藤 伸明, 定本 嘉郎
    2019 年 60 巻 2 号 p. 309-316
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    生態系に関わる「自然界のつり合い」領域の学習において,学習者がどのような概念を保持しているのかを明らかにすることを目的とし,「自然界のつり合い」に関わる調査問題とNovakによって確立された概念地図法を用いてその実態を調査した。その結果,中学生の概念地図では,光合成概念に関わる「光合成」や「植物」ラベルを使用する割合は高くなっていたが,分解概念に関わる「菌類・細菌類」ラベルを使用する割合は低くなっていた。中学生の被験者において,地上における自然界のつながりの概念化は進んでいたが,地中における生物的な営みについての概念構成は不十分であった。また,概念地図で提示した概念ラベル中に存在する4種類の生物(「植物」「肉食動物」「菌類・細菌類」「草食動物」)ラベルと「二酸化炭素」ラベルとの結合順平均を確認すると,生態系で分解者として位置付いている「菌類・細菌類」は,他の生物と比較するとガス交換(呼吸)概念と密接に関わる「二酸化炭素」ラベルとの結合順平均が遅く,この2つの概念は結びつきにくいことが明らかとなった。

  • ―実験計画の立案を重視した授業を例に―
    田邊 裕子, 髙田 太樹, 宮内 卓也, 中野 幸夫, 鎌田 正裕
    2019 年 60 巻 2 号 p. 317-331
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,理科における教科固有の知識・技能の習得に加え,様々な資質・能力が授業の中でどのように発揮・活用・育成されているかを明らかにすることを目的としている。そのために,中学校1年生を対象に5種類の未知のプラスチックを区別する実験を取り入れた探究的な授業の実践を行い,実践した授業が「汎用的スキル」および「態度・価値」の資質・能力の向上に寄与する可能性を,録画した授業映像に基づき作成したトランスクリプトの分析,生徒へのインタビューの分析,アンケート調査を用いて検討した。実験計画から実験の考察に至るまでの生徒のトランスクリプトの分析,および授業後に行った抽出生徒のインタビューの分析から,「実験計画の立案」に焦点を置いた本授業は,「先を見通す力」などの汎用的スキルの向上につながる可能性が示された。また,日常的な素材を実験の中で取り上げることで,「好奇心・探究心」など態度・価値の育成につながる可能性が示された。さらに,単元開始前,本時授業終了後,および単元終了後に学習の様子を生徒が自己評価する質問紙調査を実施しそれぞれを分析したところ,汎用的スキルおよび態度・価値はそれぞれ相互に影響を与え合って発揮・活用・育成されていく可能性が示された。

  • 神山 真一, 俣野 源晃, 山本 智一
    2019 年 60 巻 2 号 p. 333-345
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    アーギュメントの指導には,アーギュメントに対する教師の信念が強く影響を及ぼすことが指摘され(Sampson & Blanchard, 2012),Katsh-Singer, McNeill, and Loper(2016)は,7つの信念のカテゴライズをしている。本研究の目的は,これに基づき,アーギュメント構成能力を育成するうえでの現職教師の信念を事例的に分析し,教師教育プログラム(神山・山本・俣野,2017)が教師の信念に与える影響を明らかにすることである。対象は,アーギュメントを授業に導入した経験が無い,国立大学附属小学校の理科専科教員M(小学校教員歴12年),1名であった。教師教育プログラムは,神山・山本・俣野(2017)に基づいて行い,受講後,対象教員Mに対して,質問紙調査と聞き取り調査を実施した。その結果,1)プログラムによって実感した論証の構成要素に着目した論理的であるというアーギュメントの特質,2)プログラムの中で考察した,論証の構成要素に着目した説明活動をするための児童の能力や意欲の状態,3)プログラム中の実際に授業を構想・実施するという活動が,教師の信念に影響を及ぼしていることが明らかになった。

  • ―小学校第4学年理科授業における検証授業を通して―
    小池 守, 髙橋 浩人, 松本 真利奈, 加美山 陸, 倉山 智春, 大日向 浩
    2019 年 60 巻 2 号 p. 347-359
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,対流概念を温度差と動きを関連づけて理解する教材の開発を行うと共に,授業実践を通して教材としての有効性を検証したものである。その結果,以下の3点が明らかとなった。1)熱気球教材は,加熱により周囲との温度差が増加すると上昇し,放熱して周囲との温度差が減少すると下降することを体験できる。2)熱気球教材を用いた児童は,対流概念を温度差と動きを関連づけて理解し,その理解は検証授業から約一ヶ月後も継続していた。3)児童の教材に対する有用感は高く,特に熱気球は児童が温度差と動きを関連づけて理解をする上で有効な教材である。以上のことから,本研究で開発した熱気球教材は,対流概念を温度差と動きを関連づけて理解するために有用であることが示唆された。

  • ―メタ認知的活動の顕在化と気づきの自覚化を促す理科学習プロセスシートの開発とその活用―
    佐藤 寛之, 松尾 健一, 小野瀬 倫也
    2019 年 60 巻 2 号 p. 361-374
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    理科学習場面におけるメタ認知的コントロールが子どもにとって難しいことであることが,これまでの理科教育に関する研究や国内の学習状況調査から明らかにされている。この理科学習における課題を改善し,理科学習で子どもが受容すべきと考えた情報とその選択の根拠を明らかにしていくために,本研究では,子ども自身によるメタ認知的活動の顕在化と学びのなかでの「気づき」の自覚化を促すための学習シート(理科学習プロセスシート)の開発を試みた。この理科学習プロセスシートを理科授業で活用した結果,次のことが明らかとなった。1)学習問題に対する予想場面での子どもの5つの思考過程の内実を見出すことができた。また,思考過程を顕在化し他者との対話を促すことで実験結果を基にした子どもの考えの更新が生じた。2)子どもが受容すべき情報の選択をする際には,まず,学習のキーワードに関連した生活経験を想起し,生活経験と学習問題との関連の有無をふまえて,以前の学習により理解したことや生活経験を付け加え,子どもは自分なりの予想の根拠を補足していた。3)考察を記述する際には,実験結果(現象)が生じた要因についての表現の「自由度」の高低が表現方法の差異となって現れる。この表現の「自由度」は,子ども自身の解釈で説明可能か否かで決定されており,説明に対する確信により変化する。

  • 長沼 武志, 森本 信也
    2019 年 60 巻 2 号 p. 375-384
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,フィードバック機能を軸とした①自己調整学習から②協同調整学習,③共有された調整学習への移行に伴う「社会化」の内実について事例的分析を行うことを目的とした。その内実として,子どもがフィードバック機能を自覚的に駆動できない段階では,教師が有能な他者として足場作りを実施し,相互アプロプリエーションによる「社会化」を促した。一方,子どもがフィードバック機能を自覚的に駆動できる段階になると子どもの主体的な学びとして,子ども同士が有能な他者として相互アプロプリエーションを繰り返して合意形成を図った。つまり,子どもがフィードバック機能を自覚的に駆動できるように学習を支援することで,子ども自身が①から③へ自己調整学習の移行に伴う「社会化」を図り,科学概念の社会的に構築することが明らかとなった。

  • 中村 大輝, 松浦 拓也
    2019 年 60 巻 2 号 p. 385-395
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,理科の問題解決における条件制御能力に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした。構造方程式モデリングによる量的分析と授業時の発話の質的分析を行い,因果関係を検討した結果,条件制御能力に直接的な影響を及ぼす変数として「科学的思考力」「教師との関わりによるメタ認知」が明らかになった。また,「認知欲求」はメタ認知を媒介して条件制御能力に間接的な影響を及ぼすことが明らかになった。このことから,条件制御を扱う授業において,認知欲求を高め,教師との関わりを通して自分自身の思考過程を振り返らせる指導が有効であることが示唆された。

  • ―「身近な生物」の観察における「分類・系統樹」思考を導入した学習指導を事例として―
    名倉 昌巳, 松本 伸示
    2019 年 60 巻 2 号 p. 397-407
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は中学校の新入生に「生物多様性」の理解と,その多様性の解析手法である「進化思考」の形成過程を探ることにある。現行(平成20年改訂学習指導要領準拠)の中学校第1学年理科教科書における「生命編」の最初には,近隣のいろいろな環境に生息する「身近な生物」を観察しながら,顕微鏡の使い方など基本的技能の習得が目的とされてきた。平成29年改訂の新学習指導要領では,そこに「分類」の記述が加わり,「生物多様性」の理解が重視されるように改訂された。しかし,中学校現場では「身近な生物の観察」も通り一遍で終えられることが多い。そこで,新入生による初めての観察実習として,科学的な見方・考え方という観点を踏まえた授業を展開した。一方,「生物多様性の理解には進化に関する知識の習得が重要」であり,かつ「分類思考と系統樹思考を柱とした進化思考が多様性の解析手法の基盤である」という2つの提言がある。そこで,本研究ではその2つの提言に基づいて,「身近な植物」としてのタンポポの「分類」を手始めに,雑種タンポポ出現による「多様化」や,水中の小さな生物の「系統的分類」を事例に,進化の入門編を意図した授業を開発した。ワークシートの記述分析や質問紙調査の結果から,「生物多様性」や「科学的進化概念」の理解を一定程度促進することが明らかになった。

  • ―因子分析による興味の構造分析を基礎として―
    原田 勇希, 中尾 友紀, 鈴木 達也, 草場 実
    2019 年 60 巻 2 号 p. 409-424
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,中学生の観察・実験に対する興味の構造を明らかにすることと,興味と学習方略との関連性について検討することを目的とした。確証的因子分析の結果,興味の構造として階層因子モデルが採択された。すなわち,観察・実験に対する興味は,“ポジティブな感情”の程度と,“観察・実験に対する価値の認知”の直交する2つの次元から捉えられることが示されたといえる。また,ポジティブな感情の程度と“思考活性志向”には観察・実験における深い学習方略(関連付け方略など)の使用を促進する効果が見出された。一方,“体験志向”は深い学習方略の使用を抑制する効果が見出された。さらに,本尺度の因子構造を反映した尺度得点の算出方法が検証され,分析用プログラムが作成された。

  • ―主体的で深い学びを目指して―
    比樂 憲一, 遠西 昭寿
    2019 年 60 巻 2 号 p. 425-432
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    自然界における水の循環の中で水蒸気概念を理解し,水蒸気概念の習得によって自然界における水の循環を理解するという,解釈学的循環を考慮した単元構成によって,水蒸気を思考の道具としてプラグマティックに理解させることを試みた,小学校4年生の実践的研究である。導入時に自然界における水の循環を図示し,説明させることで,合理性を維持するには降った雨が再び雲に戻らねばならないという「問題」を発見させることができた。そこから「空気中には見えない水があるはずだ」という仮説を得ることができた。水蒸気概念は,凝結と蒸発の実験を積極的に関係づけ,さらに日常生活上の諸経験をうまく説明できることから思考の「便利な道具」としてプラグマティックに理解され,はじめの理論枠組みに還元されて自然界における水の循環の理解をより確かにし,主体的で深い学びを実現できたと考えている。

  • ―態度測定調査問題の開発とその分析を通して―
    増居 将也, 古屋 光一
    2019 年 60 巻 2 号 p. 433-446
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,多様な学習環境における理科の好奇心 1)の態度測定調査問題「SCILE」の日本語版である「日本語版SCILE」を開発した。調査対象は小学生,中学生,高校生計989名である。その回答の分析を通して,以下の3点を明らかにした。1)探索的因子分析から,理科の好奇心は,理科の実践の中で理科の知識を追究する「理科実践型好奇心(Science practices:SC)」,予測不可能な事柄を受け入れる「包括型好奇心(Embracing:E)」,新しい情報や機会を探し求める「伸展型好奇心(Stretching:Str)」,の3因子17項目で説明できること。2)確認的因子分析から,得られた3因子に共分散があると仮定して作成したモデルと,回答データが適合したことにより,理科の好奇心は互いに共変関係がある3因子で説明できること。3)階層クラスター分析から,日本の児童生徒の理科の好奇心の実態は3群に類型化され,好奇心が平均より少し高い児童生徒(「第1群:好奇心中位群」)が58%,好奇心が高い児童生徒(「第2群:好奇心高位群」)が8%,好奇心が低い児童生徒(「第3群:好奇心低位群」)が34%であること。

  • 宮田 斉
    2019 年 60 巻 2 号 p. 447-454
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,中学校理科を履修後の3年生に残る誤概念を明らかにすることである。公立中学校の3年生97名を対象として質問紙法で調査した。その結果,斜面上に静止する力学台車の位置エネルギーの大きさや台車が斜面を下り終えた瞬間の速さは,「台車の重心の高さ」ではなく「斜面の傾き」に依存する等の誤概念を残すことが示唆された。

  • 向井 大喜, 村上 忠幸, 松本 伸示
    2019 年 60 巻 2 号 p. 455-464
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,高校生の探索的な科学的問題解決における,仮説形成の到達段階を評価する指標の開発を目指した。そこで,仮説形成プロセスのモデルを設定して評価指標を作成し,高校生に実践された探索的な科学的問題解決を実際に評価した。その結果,活動が進展している学習グループには以下の(1)~(3)が認められた。(1)実験素材への「操作」を通して「要素の抽出」が生じた。(2)要素に説明付けすることで「説明仮説の生成」が生じた。(3)説明仮説から演繹することで「作業仮説の生成」が生じた。しかし,停滞している学習グループでは,「要素の抽出」が繰り返され「説明仮説の形成」へ進まず,演繹的探究への移行が起こらなかった。このことより,本研究で提案する指標には,仮説形成の段階を評価できる可能性があることが明らかになった。

資料論文
  • ―密度の異なる色付き食塩水を使った「虹」の作り方のポイント―
    島村 裕子, 細谷 孝博, 増田 修一
    2019 年 60 巻 2 号 p. 465-471
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    これまで我々は,平成23~30年の8年間にわたり,小学3~6年生を対象に,身近にある食塩水を用いて,「水溶液の濃さ,重さおよび密度」の関係を気付かせる学習展開を追究することをテーマに出前実験教室を開催してきた。本稿では,出前実験教室の内容を紹介し,小学校などで容易に実施できるよう,密度の異なる色付き食塩水を使った「虹」の作り方の詳細について解説する。本出前実験教室の成果は,以下の三点に要約することができる。(1)身近な「食塩」を使った実験を体験することで,児童の驚きや関心を導くことができた。(2)学習指導要領(理科編)には掲載されていない「濃さ,重さおよび密度」の関係に気付かせる学習展開を提案できた。(3)密度の異なる色付き食塩水を使った「虹」の作り方の最適条件を検討し,誰もが実践できる方法を見出した。以上のことを総合して,食塩水を用いた本実験は,理科の楽しさを体験でき,「濃さ,重さおよび密度」の関係に気付かせる教材として活用できることが示唆された。「食塩」のような生活に身近な題材を理科学習に取り込むことによって引き出される「やってみたい・理解したい」という意欲や疑問が今後の「理科離れ」の解消に寄与すると考えられる。

  • ―小学校教師によるミニディベートの調査分析より―
    杉本 剛
    2019 年 60 巻 2 号 p. 473-481
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    第3期教育振興基本計画において,2030年以降の社会を展望した教育政策の重点事項として,Society 5.0の実現が,重要な教育政策課題のひとつとしてあげられた。Society 5.0は,2016年,第5期科学技術基本計画において,情報社会に続く新たな社会として提唱された。2016年以降,官界・学界・経済界あげて,Society 5.0の実現と,Society 5.0の実現に向けて科学技術イノベーション(以下,STI)が果たすべき役割の大きさが唱えられ,その実現のための人材育成の重要性が示されている。本研究は,Society 5.0の実現に向け,小学校教師を対象として調査した,理科授業における科学技術イノベーション人材育成教育についての見解・要望,理科指導方法についての見解・要望を考察し,次代のSTIを牽引する人材育成に貢献する今後の理科教育の方向を検討することを目的とした。調査の結果,小学校理科授業において,科学技術イノベーション人材育成教育の積極的な展開については,必要であると賛成である見解が,5グループ中3グループ,個人78.3%であった。また,どのような指導方法を行えば良いかについては,理科専科の教師・企業の研究員の活用などをあげる回答が多かったが,その他個別に,児童の関心に応じた学びの場の設定など,多岐な見解があげられた。今後の研究の方向の例として,多様なステークホルダーとの科学コミュニケーションスキル向上を課した理科教材開発研究などがあると考える。例示したような研究により,Society 5.0という新たな社会の創出を理科教育学が先導することを使命として,今後,研究・実践が充実されることが期待されると考える。

  • :短時間でできる魚類の輪くぐり実験
    高橋 宏司
    2019 年 60 巻 2 号 p. 483-488
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    動物の行動実験は学生が生き物の面白さを知る方法として効果的な教育手段である。魚類を用いた学習実験は,ヒトにも共通した心理機構である「学習」について学ぶ教材として利用できる。本研究は魚類の学習実験の教育現場への実用化を目指して,短時間での輪くぐり学習実験の成否について検討した。実験には入手・飼育が容易なアミメアギ,キンギョ,クモハゼおよびマダイが用いられた。訓練は,輪慣らし訓練,輪接近訓練および輪くぐり訓練に分けられ,試行間隔1分とする10試行を1セッションとし,30分間隔で最大8 セッションが行われた。その結果,各魚種について少なくとも1尾で8セッション以内に輪くぐり行動の学習が成立し,多様な魚種で短時間での学習実験が実施可能であることが明らかにされた。また,輪くぐり学習の達成に要した実験時間は19–317分であり,短時間の授業や実習などの理科教育に応用できる可能性が示された。

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