動機づけの期待×価値理論(Expectancy×Value Theory)に関する古典的研究では,期待概念と価値概念の乗算的関係が想定されていたが,現代的理論では主に加算的関係のみに焦点が当てられていた。しかし最近,両者の乗算的関係が再発見された(Nagengast et al., 2011)。これまでの研究では,理科の中核的学習活動である観察・実験場面での学習方略に対する期待と価値の影響について,加算的関係を想定したモデルしか検討されていなかったため,両者の乗算的関係の有無は明らかでない。また,価値の指標として頻繁に取り上げられる興味について,興味の“強さ”と“深さ”を弁別して捉えたうえで期待との乗算的関係性を検討した先行研究はない。そこで,本研究では理科の中核的な学習活動である観察・実験に焦点を当て,観察・実験に対する自己効力感(期待)と興味(価値)が学習方略の使用に及ぼす効果を表現する統計モデルを検討した。研究の結果,深い学習方略である問題解決方略に対して,期待×価値理論と整合的な交互作用パターンと,興味の強さ(ポジティブ感情)×興味の深さ(思考活性志向)×自己効力感の2次の交互作用が認められた。考察では,この結果をもとに“×”が持つ理科教育的意味の解釈をおこない,自己効力感の重要性を強調した。
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