本研究の目的は,これまでに日本国内で行われた理科教育におけるアーギュメント指導に関する研究の対象を分類・整理して再提示・概説し,その傾向と今後の研究の展望を明らかにすることである。2023年9月時点で,発刊時期を定めない形で検索した『理科教育学研究』,『科学教育研究』,『教育心理学研究』,『教材学研究』,『エネルギー環境教育研究』の他,大学紀要,センター紀要,附属学校紀要に掲載された論文50件を対象とした。このうち,アーギュメントの指導実践に関する研究34件については,構成されたもの(プロダクト)またはやりとりの過程(プロセス)を対象としていることによって分類するとともに,それぞれが記述または口述の指導であるかによって類型化し,それぞれの件数や研究内容の傾向を調べた。その結果,主張,証拠,理由付けを主な構成要素とするプロダクトとしての記述のアーギュメントが6割を占めることが明らかになり,アーギュメントの構成要素による構造(ストラクチャ)の段階的な指導の必要性が指摘された。一方,プロセスとしての口述や記述のアーギュメンテーションについては,現在の状況では実践数が少なく,今後の研究が求められることが示唆された。また,指導実践以外の研究16件については,教師の信念,学習者の意識,及び先行研究の分析といった観点から研究内容を分類できた。アーギュメントを指導する教師の信念と学習者のアーギュメント構成や意識が互いに影響を及ぼすことから,アーギュメントの意義や指導法について実践的に確かめられるような活動を教師教育に積極的に取り入れることが提言された。
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