理科教育学研究
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65 巻, 1 号
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特集「将来を切り拓く若手研究者による理科教育学研究」
巻頭言
原著論文
  • 森川 大地, 中村 大輝
    2024 年 65 巻 1 号 p. 3-19
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は学習としての評価論(Assessment as Learning)に基づく授業を通して,児童の科学観(実証性・再現性・客観性)がどのように変容するのか明らかにすることを目的とした。研究の目的を達成するために,アクション・リサーチの手法を用いて,各フェーズにおける児童の科学観の変容を見取り,授業改善を行った。そして事後調査として,科学観に関する半構造化インタビューを行い,児童の科学観の実態や変容を詳細に検討した。アクション・リサーチによる実践・分析結果から,(1)科学観(実証性・再現性・客観性の捉え方)の変容の困難さの違い,(2)観点間の関連性,(3)学習の文脈への依存性が明らかとなった。また事後調査の結果から,当該観点の概念形成には個人差が生じていることや,前述の実践から得られた解釈の妥当性が確認された。

資料論文
  • 諸岡 史哉, 宮本 直樹
    2024 年 65 巻 1 号 p. 21-31
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    学校教育では,どのような実践が学習者の資質・能力を育成しうるのかに大きな関心が寄せられ,研究が行われている。これらの実践研究で得られた知見について,メタ分析を行うことで異なる条件で測定されたデータでも同一の尺度で比較し,検討することが可能となる。しかし,理科教育でメタ分析を行った研究例は少なく,地域に着目してメタ分析を行った例はない。さらに,教育活動の内容は学習指導要領で定められた内容を基礎とするが,各自治体は教育活動を充実すべくさまざまな独自の教育政策を実施している(田中,2020)。そこで,本研究では,茨城県内の理科教育実践についての研究論文を対象に効果量のメタ分析を行った。その結果,平均効果量は全体でg=0.640,二値データでg=0.780,多値データでg=0.617と推定された。これは,全国を対象とした中村ら(2020)の同様の分析と比較して,同程度からやや大きな効果であった。資質・能力を測定する際の調査方法の違いで効果量の大きさが有意に異なり,特に記述分析で思考力を測定するとg=1.272と推定され,相対的に大きな値を示した。本研究は,教育実践の平均効果量についてメタ分析を通して推定し,地域においてどのような教育実践が資質・能力の育成に有効であり,授業改善につながるか重要な知見を提供する。

一般
総説論文
  • ―VUCAの時代に「生きる力」を育むSDGs・ESD,STEAM教育からの再構築―
    佐藤 真太郎, 藤岡 達也
    2024 年 65 巻 1 号 p. 33-44
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本論文では,VUCA(ブーカ)の時代に「生きる力」の育成を考え,明治以降,従来の理科教育で,火成岩の種類や性質など,自然の事物・現象面を中心とした取扱いに留められてきた火山に関する学習内容,方法等を今日的な教育現場の現状や動向から検討した。まず,近年突然の噴火による火山災害では,予知の限界を踏まえながらも噴火警戒レベルの意味を認識するなど,防災にも役立つような知識が求められ,そのためには理科を核とし,カリキュラム・マネジメントを意図した教育内容の再構築を行う必要性を示した。火山災害への対応に関する教育の在り方として,噴火予知のための防災システムを理解するためには,技術的,工学的な取り扱いも不可欠である。さらに,火山活動には,宗教・文化的な背景が含まれるなどESDの視点,災害から誰一人取り残さないというSDGsの概念とも関連させた教育活動も期待される。それら教育の場として,地域の独自性を持つジオパーク等と,それと連動したそれぞれの地元の火山博物館等があり,学習指導要領に基づいた「生きる力」を育む学校外での新たな学びを創出できる可能性を指摘した。これらのことから,火山を取扱った教育は,現代的な諸課題に関する教科等を横断的に学べる教育内容として,カリキュラム・マネジメントの視点から取扱う具体的な教育内容となる。同時にSTEAM教育における文理融合的な視点から,教材として火山活動を取扱うことは,VUCAの時代,義務教育段階から「生きる力」の育成に貢献可能である。

  • ―研究対象の分類と今後の展望―
    山本 智一
    2024 年 65 巻 1 号 p. 45-58
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,これまでに日本国内で行われた理科教育におけるアーギュメント指導に関する研究の対象を分類・整理して再提示・概説し,その傾向と今後の研究の展望を明らかにすることである。2023年9月時点で,発刊時期を定めない形で検索した『理科教育学研究』,『科学教育研究』,『教育心理学研究』,『教材学研究』,『エネルギー環境教育研究』の他,大学紀要,センター紀要,附属学校紀要に掲載された論文50件を対象とした。このうち,アーギュメントの指導実践に関する研究34件については,構成されたもの(プロダクト)またはやりとりの過程(プロセス)を対象としていることによって分類するとともに,それぞれが記述または口述の指導であるかによって類型化し,それぞれの件数や研究内容の傾向を調べた。その結果,主張,証拠,理由付けを主な構成要素とするプロダクトとしての記述のアーギュメントが6割を占めることが明らかになり,アーギュメントの構成要素による構造(ストラクチャ)の段階的な指導の必要性が指摘された。一方,プロセスとしての口述や記述のアーギュメンテーションについては,現在の状況では実践数が少なく,今後の研究が求められることが示唆された。また,指導実践以外の研究16件については,教師の信念,学習者の意識,及び先行研究の分析といった観点から研究内容を分類できた。アーギュメントを指導する教師の信念と学習者のアーギュメント構成や意識が互いに影響を及ぼすことから,アーギュメントの意義や指導法について実践的に確かめられるような活動を教師教育に積極的に取り入れることが提言された。

原著論文
  • 飯田 和也
    2024 年 65 巻 1 号 p. 59-71
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,火成岩の観察における双眼実体顕微鏡と偏光顕微鏡の使用が,生徒にどのような影響を与えるのか評価することを目的とした。本研究では,中学生219人を対象とした授業実践の結果から,以下の3点が明らかになった。1点目は,「興味・関心」に与える影響である。双眼実体顕微鏡観察と偏光顕微鏡観察を比較すると,火成岩の顕微鏡観察における興味・関心は同程度であることが明らかとなった。2点目は,「肉眼観察と顕微鏡観察の関連」に対する生徒の意識である。本授業実践においては,どちらの顕微鏡を使用しても,肉眼観察で得られない情報を得られたと感じていた。3点目は,「肉眼観察における理解度」への影響である。授業実践の結果から,偏光顕微鏡よりも双眼実体顕微鏡を利用した方が,火山岩と深成岩の分類において組織に着目する傾向が高かった。

  • ―2020年検定済教科書3社の比較を通して―
    江林 義照, 濱田 和那, 田中 元, 柳瀬 堅司, 山田 貴之
    2024 年 65 巻 1 号 p. 73-92
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,2020年検定済のX社,Z社の中学校理科教科書に掲載されている全観察・実験等を対象に,長谷川ら(2013)が開発した「探究の技能」の含有率の傾向から類型化し,導出された各群の探究的特徴を明らかにすることを目的としてクラスター分析を行った。また山田ら(2021)が分析・解釈したY社を含めた3社間で比較を行い,その結果,以下のことが明らかになった。(1)2020年検定済のX社,Z社の中学校理科教科書に掲載されている観察・実験等は「探究の技能」の傾向によってX社は5つ,Z社は6つに類型化することができた。(2)X社,Z社の各クラスターの探究的特徴に基づき,各学年の観察・実験等の傾向を分析・解釈することで学年ごとの特性を明らかにすることができた。(3)3社間で比較を行ったところ,「仮説設定」においてX社とZ社がY社よりも有意に多いことが明らかになった。

  • ―光源の移動に伴って光の道筋が変化する装置とシミュレーションを用いて―
    鬼木 哲人, 山田 貴之
    2024 年 65 巻 1 号 p. 93-105
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,中学校の凸レンズによってできる像についての規則性の理解と光の道筋を作図することで実像ができる位置や大きさを求める技能の向上を目的に教材開発を行った。開発した教材は2つある。1つ目は光源の位置に合わせて変化する光の道筋を観察できる装置である。光学台の実験では観察することができなかった光の道筋を観察できるようになった。2つ目は,光の道筋の変化をシミュレーションで観察できるものである。生徒の端末で操作できること,授業者によって変更できることを重視した。2つの教材を用いることにより,規則の理解や作図の技能の向上が見られた。特に光の道筋が見える装置は,作図の技能の向上に有効であった。

  • ―中学校第3学年「化学変化とイオン」を題材として―
    木内 裕佑
    2024 年 65 巻 1 号 p. 107-118
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,中学校第3学年「化学変化とイオン」単元で説明活動を取り入れた理科授業を設計し,実践を通して,その教育的効果を検証することである。この目的を達成するために,まず,考察場面において他者への説明による対話活動を導入した理科の指導方略を中学生第3学年「化学変化とイオン」単元において設計し,実践した。そして,説明による対話活動が酸・アルカリの概念の理解に及ぼす効果を,生徒の酸・アルカリの正体に関する記述内容から分析した。また,説明による対話活動の記録と生徒の授業への感想文の分析を行い,説明による対話活動の中で,どのような学びが展開されたのかを考察した。その結果,考察場面における説明による対話活動が以下のような特徴を持った手立てであることが明らかとなった。①他者への説明を想定することで学習者は根拠の表出やそれらと主張,結果を関連付けた文脈の構成が促されること,②対話活動を通して,科学的とは言えない根拠を用いていた生徒に自己の認識の曖昧な部分を自覚させるとともに,他者の説明を聞くことで自己の説明を見直し,より妥当性を持った根拠による論理の構築を促す効果があること,③学習者の酸・アルカリの正体に関して主張,根拠,結果を踏まえた叙述を促し,概念の理解につながる活動であること。

  • 北村 一浩, 小池 守, 倉山 智春, 山際 清史
    2024 年 65 巻 1 号 p. 119-131
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,運動エネルギーを熱エネルギーに直接変換するエネルギー変換教材の開発を行い,検証授業を通して教材の有用性を検証したものである。その結果,以下の3点が明らかになった。1)SMAばねは,引き戻すとマルテンサイト変態により,付荷・除荷過程が異なるため発熱する。2)生徒は,検証授業を通して実感の伴う理解が得られ,その理解は一ヵ月後も保たれた。3)生徒は,SMAばねを実験操作が工夫できる上,新たな発見のある教材と考えていた。これらのことから,SMAばねを用いた引き戻し教材は,エネルギー変換を体験的に学ぶ教材として有用であることが示唆された。

  • ―小学校第3学年のエネルギー領域「磁石の性質」を通じた事例的研究―
    鈴木 進, 峯田 武典, 和田 一郎
    2024 年 65 巻 1 号 p. 133-146
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    小学校理科では問題解決学習が志向されており,その最初の段階では子どもが対象と関わる中で表象を形成する。この際,対象がもつアフォーダンスを子どもが知覚することで活動が生起し,活動に応じた表象が形成されると考えられる。そこで本研究では,小学校第3学年「磁石の性質」に関する学習を事例に,子どもが対象のもつアフォーダンスを知覚し,活動が誘発される過程に焦点を当てながら,問題解決における表象が形成される実態を明らかにすることを目的とした。そこで鈴木ら(2022)が提唱する,問題解決における活動を通じた表象の形成及び変換のモデルに着目した。さらに,子どもがどのようにアフォーダンスを知覚するのかを捉えるため,分散認知の観点からモデルの拡張を図った。事例的分析の結果,子どものアフォーダンスの知覚は4つのパターンに分類された。具体的には「異極を近づけて,引き合わせる」と「同極を近づけて,退け合わせる」というアフォーダンスを知覚したパターン,「同極を近づけて,退け合わせる」と「磁石の赤色や黒色からN極・S極を判別する」というアフォーダンスを知覚したパターン,「鉄を磁石に引き合わせる」というアフォーダンスを知覚したパターン,「鉄を磁石に着けて磁化させる」というアフォーダンスを知覚したパターンの4つであり,対象によって可能となる活動である許容活動の知覚に起因することが示唆された。さらに,知覚したアフォーダンスに伴い,形成される表象が異なることが明らかとなった。

  • ―交差遅延効果モデルによる分析―
    須藤 よしの, 原田 勇希
    2024 年 65 巻 1 号 p. 147-161
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    批判的思考(CT)を扱った理科教育学領域における先行研究の多くでは,批判的思考態度(CTA)を育成するために,CTを働かせることを学習者に要求する授業実践を行っている。しかしCTAの定義がCTを働かせようとする態度や傾向であることを考えると,CTを働かせることを要求する授業に対して大きなエフォートを投じる学習者は,元々CTAが高い学習者なのではないかという疑問が生じる。そこで本研究ではCTAと理科の学習場面に対するエフォートの因果関係を,交差遅延効果モデルを用いて検討した。分析の結果,CTAから各学習場面への正の交差遅延効果が認められた。また,各学習場面からCTAへの正の交差遅延効果も認められた。この結果は,本研究が指摘した疑問が真であることを示唆する。また,教師による教育上の仕掛けが学習者のCTAを変動させる効果を持つことを追認するとともに,さらに個人差に関して知見を拡大したものと位置づけられる。

  • ―批判的思考との関係に着目して―
    根津 元, 栗原 淳一, 山野井 貴浩, 山田 貴之
    2024 年 65 巻 1 号 p. 163-181
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,検証計画立案力の育成のために批判的思考プロセスを組み込んだ学習プログラムを開発し,批判的思考の5因子と検証計画立案力の4要素の関係性に対する知見を得ることであった。その結果,批判的思考の5因子のうち,「1.他者との関わりによる批判的な気づき」や「2.探究的・合理的な思考」,そして「4.反省的な思考」が促されたことにより,検証計画立案力の4要素である「Ⅰ.変数設定能力」,「Ⅱ.仮説設定力」,「Ⅲ.実験方法立案力」,「Ⅳ.結果の予想設定力」がそれぞれ身についた可能性が示唆された。また,「2.探究的・合理的な思考」と「Ⅲ.実験方法立案力」には強い対応関係が見られることや,「Ⅰ.変数設定能力」と「Ⅱ.仮説設定力」の向上の際には,「2.探究的・合理的な思考」は働かず,「4.反省的な思考」が働いている可能性があることが示唆された。

  • ―好光性種子を用いた考察場面を通して―
    古石 卓也, 山中 真悟, 中山 貴司, 木下 博義
    2024 年 65 巻 1 号 p. 183-195
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校理科授業において,合意点を見つける力(科学的根拠に基づいたグループの構成員全員の納得解を見つける力)を児童に獲得させるための指導法の考案,及び効果検証を行うことを目的とした。この目的を達成するために,アーギュメント構造に基づいてグループの考察を決定する話合いに,ファシリテーターを導入する指導法を考案した。また,合意形成の必然性を生起させるために,好光性種子であるレタスの種子(フリンジーグリーン)を教材として選定することにした。考案した指導法の効果を検証するため,小学校5年生58名を対象に授業を行った。質問紙と評価問題による分析の結果,合意点を見つける力を育成するためには,教材選定の工夫によって合意形成の必然性を生起させるだけではなく,考案した指導法を通して,科学的根拠に基づいた納得解を見出す話合いを促進することの必要性が示唆された。

  • ―3社の比較・分析及び中学校理科教科書との関連に着目して―
    柳瀬 堅司, 畠山 佳奈子, 本田 勇輝, 山田 健人, 山田 貴之
    2024 年 65 巻 1 号 p. 197-210
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,平成29年告示小学校学習指導要領に伴った理科の目標や問題解決活動に適した「問い」とその特徴を,本田ら(2022)が対象としたY社に,X,Z社を含めた3社の平成29年告示学習指導要領に準拠した小学校理科教科書に記載されている全ての問いとみなせるものを「問い」とし,分類を行い,各観点での「問い」の傾向から見られる特徴を,「問い」の特徴とし,明らかにすることであった。分析の結果,理科の目標や問題解決活動に適した「問い」について,以下の4点が明らかになった。(1)領域間では,「どうしたら(would手段)」がエネルギー及び粒子で多い傾向にあり,実験の操作や制御に着目させて追究することに適した「問い」であること。「どこ(where)」は生命において多い傾向にあり,生物の共通性や多様性を捉えることに適した「問い」であること。(2)学年間では,「手段」が第6学年において多い傾向にあり,学習指導要領改訂に伴った第6学年の考え方を働かせることに適した「問い」であること。(3)出版社間では,有意な差が見られなかったことから,どの教科書においても同一に,学習指導要領改訂に伴った「問い」が反映されていること。(4)柳瀬ら(2023)との比較では,小学校教科書において,「はい・いいえ(yes/no)」が多い傾向にあり,科学的に問題を解決することを促す,発達段階が考慮された「問い」であること。

  • ―小学校第4学年「空気の温度変化に伴う体積の変化」を事例にして―
    渡辺 理文, 杉野 さち子
    2024 年 65 巻 1 号 p. 211-227
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,米国学術研究会議が提唱する評価のモデルである「評価の三角形」に基づいて,理科授業を計画・実践し,その実践した授業を事例として示した。事例を示すために,質的研究のエスノグラフィーを方法論的枠組みとし,参与観察を選択した。計画・実践した授業は,小学校第4学年「空気の温度変化に伴う体積の変化」とした。分析の結果,「評価の三角形」の要素である「認知」「観察」「解釈」を実現することができた。具体的には「認知」で達成目標を決定し,「観察」ではノートの記述内容や発表内容,実験中の活動の様子などからデータを収集した。そのデータの「解釈」を座席表に整理することで「認知」で決定した目標の達成状況を捉え,さらなる達成に向けて次時の計画をした。「評価の三角形」は,日本の理科教育に援用可能な評価のモデルであることを示すことができた。

資料論文
  • ―学生自身による撮影動画を活用する授業実践とその有効性の検証―
    瀧本 家康
    2024 年 65 巻 1 号 p. 229-239
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,理科教員を目指す大学生を対象に,雲のタイムラプス動画を撮影させ,そこから雲の流れの多様性を捉えることができるか分析した。その結果,96.2%の動画に雲の流れが映っており,そのうちの28.3%には高度による雲の流れの多様性が捉えられていた。得られた動画について,自身の動画と全員分の動画から見いだせることを段階的に分析させた。その結果,個人の動画からは雲の流れがその高度によって方向や速さが異なることについて20%以下しか見いだすことができなかったが,全員分の動画を閲覧した場合,それらについて30–50%が見いだすことができた。このことから,雲の動きの多様性を見いだすためには,できるだけ多くの事例について分析することが有効であることが示唆された。最終的に雲の流れの考察から大気の流れが高度によって異なっている場合がある点に40.7%が言及できた。実践後に実施した学生自身の自己評価においても肯定的な評価が得られ,雲のタイムラプス動画を分析することが,特に雲の流れる方向が高度によって異なることを見いだす点において有用であることが示唆された。

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