今後の理科を教える教師教育を展望するための一助とすべく,昭和時代の日本理科教育学会における理科を教える教師教育研究を概観するために,昭和時代に刊行された『日本理科教育学会研究紀要』に掲載された理科を教える教師教育に関する論考を整理した。通読した48冊中,理科を教える教師教育に関する情報が記載された論文が55編掲載されており,1977年以降は毎年採録されていた。この55編を,①教員志望学生の現状に関する調査研究(26編),②現職教員の現状や実際に行われていた理科授業の実態に関する調査研究(12編),③教員志望学生への実践に関する研究(10編),④現職教員への実践に関する研究(2編),⑤諸外国に関する調査研究(14編),⑥その他(2編)に区分した(同一論文で複数の内容を含む場合は重複計数)。掲載論文以外の特徴として,第21巻~第27巻の各第3号に「理科教育文献抄録集」が収録され,その中に理科を教える教師教育に関する文献情報もあった。昭和時代の理科を教える教師教育研究の特徴として,平成時代と同様に,その大半が教員志望学生や現職教員の実状を研究したものであり,小学校が関係する論文が合計34編と相対的に多かった点がある。その一方で,内容的には物理に関するものが14編と目立つ点が平成時代とは異なる。この他に,第二次世界大戦前の状況に関する研究があったこと,諸外国に関する研究ではアメリカが関係するものが相対的に多く,特別支援教育や才能児教育,ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の活用に繋がる研究も確認できた。昭和時代の研究成果に理科を教える教師教育が今後解決すべき問題への魁となる報告が確認できたことから,「その後」の研究が期待される。
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