理科教育学研究
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特集「将来を切り拓く若手研究者による理科教育学研究」
巻頭言
原著論文
  • 小倉 正嗣, 辻 健, 渡辺 理文
    2026 年67 巻1 号 p. 3-18
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校理科の授業を事例として,ウェルビーイングの実現に資する中核的概念として育成の重要性が指摘されている「エージェンシー(Student agency)」を発揮した子どもの様相について示した。また,エージェンシーの発揮・育成にあたって,重要な基盤を担う「共同エージェンシー(Co-agency)」としての関係性の実態を捉えるため,「共に科学概念を構築する」一連の過程への認識を明らかにした。これらを相互に関連付けて示すことで,小学校理科におけるエージェンシーおよび共同エージェンシーを一体的に捉えた実態を質的に記述した。なお,調査にあたっては,小学校第4学年「空気と水の性質」に関する授業を事例とした参与観察を実施し,質的な分析を行った。分析の結果として,協働的な科学概念構築に向けて,相互にエージェンシーを発揮する子どもの様相が明らかとなった。また子どもは,学級において表出される多様な表現のもと,学級の全員が合意可能な理解を実現するために,他者や共同体の認知・行動を相互に調整することで協働的な科学概念構築過程が成立すると認識していた。このような認識が,共同エージェンシーとしての関係性の実態の一側面として示され,対象学級の子どもによるエージェンシーの発揮を支援していたと解釈された。

  • 春日 光, 名倉 昌巳
    2026 年67 巻1 号 p. 19-29
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    平成29年告示の小学校学習指導要領では,観察・実験における事故防止について記載されており,安全への配慮が強調されている。また,教師による安全管理に重点が置かれていた安全教育から,児童自らが危険を予想し,危険を回避する力を身に付ける安全学習への転換が求められている。本研究では,小学生を対象に理科実験の危険性を示すピクトグラムを開発し,児童への意味伝達力調査と,授業実践後の児童の理解度調査によって,ピクトグラムの有効性を検証することを目的とした。調査結果の分析から,開発したピクトグラム(切傷・亀裂)の改善を図ることで,改善後には第3・第4・第5学年すべてにおいて正答率が有意に上昇し,意味伝達力の向上が示唆された。特に,第4学年以降の正答率の上昇が顕著であり,学年による差が見られた。また,第4学年を対象にピクトグラムを用いた「理科室の使い方」の授業を実践したところ,授業後には「亀裂」の場面において正答率が有意に上昇し,危険性を把握できる児童が増加した。以上の成果は,授業後の児童の回答記述や質問紙調査からも支持された。

  • ―中学校第3学年理科「自然環境の保全と科学技術の利用」を対象にして―
    西尾 祐哉, 山田 貴之
    2026 年67 巻1 号 p. 31-40
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    課題設定や問題解決のプロセスにおける有用な方法論としてデザイン思考が挙げられている。また,デザイン思考のプロセスを適用した授業デザインの事例も見られるようになった。しかし,デザイン思考に着目した教材開発の事例は少なく,中学校理科で活用できるものは見受けられない。よって,デザイン思考のプロセスのうち,「プロトタイプ」と「テスト」に着目し中学校の理科授業に活用できるシミュレーションアプリ教材を開発した。この教材は,太陽光発電を通じて持続可能な社会を実現するための最適な土地利用の在り方を検討させることを可能にした。また,景観を検討するためのAR機能,配置した太陽光パネルから発電量を算出する機能,土地利用の割合を算出する機能の計3種を実装した。さらに,理科教育を学ぶ大学生および大学院生を対象に質問紙調査を行った結果,授業者から見て,学習者の興味や理解を支援し得る教材として評価された。

  • ―1人1台端末を活用した授業実践による探索的検証―
    平澤 傑
    2026 年67 巻1 号 p. 41-50
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,中学校理科において科学的議論を支える社会的側面を測定する尺度の開発と妥当性の検討を目的とした。学習集団の社会的機能とは,中学校理科の科学的議論において,学習者が他者との相互作用の中で,自らの発言や理解,参加を調整しながら議論に参入し,協働的に探究を前進させようとする個人レベルの傾向を指す。中学生376名を対象に質問紙調査を実施し,探索的および確認的因子分析を行った結果,13項目からなる2因子構造が確認された。第1因子は他者との相互作用の中で発言や思考を調整する「協同的調整機能」,第2因子は議論への積極的参加を示す「主体的発信機能」と解釈された。信頼性係数はそれぞれα=.92,α=.75であり,理科の学業成績との間に小~中程度の有意な正の相関が認められた。さらに,1人1台端末を活用した協働的探究授業を用いて変容を探索的に検証したが,短期的介入による有意な変化は確認されなかった。このことから,本尺度は学習経験の蓄積を通して形成される比較的安定した傾向を反映している可能性が示唆された。

  • ―2021~2024年度の標準学力検査による分析から―
    山田 一幸, 木原 義季, 山田 貴之
    2026 年67 巻1 号 p. 51-65
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,肢体不自由領域のA特別支援学校中学部に在籍する生徒を対象に,2021~2024年度に実施された教研式標準学力検査(CRT)の個票データを二次分析し,数学・理科の学習到達度の特徴を学年内の領域差および疾患群差の観点から数量的に明らかにすることを目的とした。対象疾患群は脳性麻痺群,二分脊椎群,筋疾患系群の3群である。CRTは学年ごとに問題構成と出題範囲が異なるため,学年間の直接比較は行わず,各学年内での相対的な到達度に焦点を当てた。各学年の領域別平均正答率と信頼性係数αを算出し,領域を被験者内要因とした反復測定分散分析,さらに学年×領域ごとに疾患群を要因とする一元配置分散分析を実施した。数学では第1・2学年で領域差が有意となり「図形」が相対的に高い一方,第3学年では領域差は統計的に有意ではなかった。理科では第1学年で領域差は有意でなく,第2学年では「粒子」と「地球」,第3学年では「エネルギー」が相対的に低い領域となった。疾患群別には,多くの領域で二分脊椎群が低く,脳性麻痺群が中間,筋疾患系群が高い傾向がみられ,群間差は第3学年の数学「図形」,第1学年理科「生命」と「地球」で顕在化した。以上の結果は,肢体不自由のある生徒の理数学習における到達度の差が,教科一般や疾患一般として一様に現れるのではなく,学年と領域の文脈に応じて異なる形で現れる可能性を示唆する。これらの知見は,今後,課題特性や支援方法との関連を検討するための基礎資料となる。

一般
総説論文
  • 雲財 寛
    2026 年67 巻1 号 p. 67-77
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,モデルを基盤とした理科教育論の主要な概念に焦点を当てて整理するとともに,それらの研究動向と課題について解説することを目的とした。モデルを基盤とした理科教育論では,科学理論を「自然現象を説明・予測するモデル」と捉え,モデルの構築,評価,修正(モデリング)を学習活動の中心とすることで,学習者の科学概念の変容,科学の性質の理解,科学の方法の習得などを目指している。本稿では,モデルを基盤とした理科教育論の動向として,モデルベースビュー,モデルベース学習,メタモデリング知識,モデリングコンピテンスに関する研究領域の展開について整理し,それらの動向と課題を解説した。

  • ―粒子概念の構成要素の整理と分析を中心として―
    栃堀 亮, 宮本 直樹
    2026 年67 巻1 号 p. 79-94
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,国内で報告されている,小・中・高等学校理科における粒子概念の文献をレビューし,粒子概念の構成要素を整理,分析することによって研究の動向を探り,我が国における粒子概念育成に関する基礎的知見を得ることである。「研究目的」,「研究対象者」,「測定手法」,「測定時期」,「構成要素」の5つのカテゴリーごとに文献調査を行った結果,それぞれのカテゴリーについて研究動向を明らかにすることができた。「研究目的」では,粒子概念に関する構想や提案について,授業実践を通してその効果を検証する位置づけの研究が多い傾向が見られた。「研究対象者」では,小学生及び中学生を対象とした義務教育段階における粒子概念研究が多く行われている一方で,高校生では10%程度しか粒子概念に関する研究が行われていない現状が明らかとなった。「測定手法」では,質問紙を用いた調査が多い一方で,面接による調査はほとんど行われておらず,こうした現状を踏まえ,面接調査のさらなる導入の推進や,複数の測定手法を組み合わせた調査の実施における必要性が指摘できた。「測定時期」では,質問紙調査を採用している研究の多くが授業終了後に調査を実施していることや,1か月以上経ってから調査を実施している研究も一定数存在することが確認できた。研究の主とした「構成要素」においては,81件の粒子概念の構成要素が抽出され,「構成・構造」「隙間」「数」「運動・力・エネルギー」「質量」「大きさ」「相互作用」というラベルによる分類が可能であることが確認できた。特に,「運動・力・エネルギー」のラベルに含まれる「粒子」に関する構成要素の数は,81件の内18件(22.2%)該当し最も多かった。また,これら18件の構成要素同士の関係性に着目し分析したところ,フェーズ1からフェーズ4までの4段階に分類することができ,粒子概念の構成要素には階層性が存在することが明らかとなった。

  • ―実践研究の分析に基づいて―
    日髙 翼, 渡辺 亮真
    2026 年67 巻1 号 p. 95-109
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,日本国内で実践された理科教育における演劇的手法に関する研究について,動向と特色を明らかにすることにより,今後の理科教育を検討するための論点を整理することを目的とした。実践的研究に関する論文や報告を分析した結果,現象理解・理解深化をねらいとして実践しているものが多かったこと,学習者が肉眼で見ることのできない小さなものを学習対象として設定する場合が多かったこと,学んだことをさらに深めたり応用したりする段階に演劇的手法が多く用いられていたこと,演劇自体は評価されていないこと,「誰かまたは何かになること」は実践家によって多種多様な語で多種多様な意味に用いられている現状にあること等が明らかになった。それを踏まえ,知識及び技能のみならず思考力・判断力・表現力等,学びに向かう力・人間性等に関するねらいとする実践,生物・非生物問わず様々な事物・現象に対する実践,校種を問わず即興劇も含めた多様な方法による実践に関する研究の蓄積が求められること,そして,演劇をどう評価するか・そもそも評価すべきなのかといった議論を行うこと,「誰かまたは何かになること」を意味する語を統一し,定義を定めることを検討する必要性等に関する指摘がなされた。

原著論文
  • 飯田 和也, 堀 道雄
    2026 年67 巻1 号 p. 111-122
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    地層観察はさまざまな要因から現地での観察が難しく,小学校の理科授業において実施が難しい。このような中で,VR教材を利用した地層観察が実施されるようになった。特に,実寸大でのAR表示が可能な地層の3DCG教材は,従来の写真教材に比べて実際の地層に近い観察が可能であるものの,地層の観察に与える影響に関して定量的な評価はなされてこなかった。そこで,本研究では,地層の3DCG教材と地層の写真教材を比較することにより,3DCG教材の有用性を検証することを目的とした。授業実践時に児童が記入したワークシートや授業後に実施した質問紙調査の結果から,地層の3DCG教材は写真教材に比べて興味・関心などが有意に高いことが明らかになった。一方で,「地層の構成物の認識」に関しては3DCG群と写真群で有意な差が認められなかったものの,「地層の観察に基づく推測」に関しては,3DCG群の評価が有意に高かった。

  • ―小学校5年生「電流がつくる磁力」を通じて―
    伊藤 潤, 山下 修一
    2026 年67 巻1 号 p. 123-132
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校理科における単元内自由進度学習の学習形態の違いが児童の主体性および思考力に与える影響を検討した。5年生3学級を対象に,個人群・班群・個人班群の3つの学習形態で実践した結果,個人群では主体性が向上した一方,考察の質は他群と比べて低かった。これに対し,個人班群では考察得点が高く,特に学力上位層の主体性と思考力の双方に効果が認められた。以上より,単元内自由進度学習においては,「個別最適な学び」の利点を生かしつつ,「協働的な学び」を組み合わせることが,主体性と思考力の育成に寄与する可能性が示唆された。

  • 猪口 達也, 和田 一郎
    2026 年67 巻1 号 p. 133-146
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    第3学年からはじまる理科学習では,自己の有する知識・経験やイメージを適用し,言語やイメージなどの多様な情報を接続・統合することで知識の構築がなされる。それらの適用には,自然事象に関わるそれまでの子どもの経験や生活科における学習が重要な役割を担っており,理科学習が生活科の学習の接続から発展していくと考えられる。本研究では,理科の知識構築に関わる情報の接続へとつながる,質の高い気づきを促す生活科の授業デザイン方略の開発を志向した。具体的には,Rau(2018)が指摘する,情報の接続過程に関わる認知機能である「意味形成」と「知覚流暢性」に着目した。子どもがどのような活動から情報の解釈・接続をすることで,高い質の気づきが促されるのかについて事例的分析を行った。事例的分析の結果として,質の高い気づきを促すことは,知覚流暢性の機能の高まりによる必要な知覚情報の抽出や,意味形成による情報の解釈が視覚的なイメージの形成に伴って情報の統合を促進させ,理科学習における科学知識の構築につながることが示唆された。

  • ―導電シートと液晶サーモグラフシートを用いて―
    大久保 博和, 新鶴田 道也, 岩山 勉
    2026 年67 巻1 号 p. 147-158
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    「電熱線と水を用いた電流による発熱量」の実験で用いられる発熱体である電熱線のかわりに,写真用光沢紙(A4サイズ)に導電性塗料を一定の厚さでシルクスクリーン印刷したシート(以下導電シート)を発熱体として用い,より簡易な発熱教材を作製した。また,導電シートの上に液晶サーモグラフシート(以下液晶シート)を貼り付け発熱を視覚的に観察できる機能を付加し,導電シートに電流が流れたときの発熱による温度変化を温度計の数値計測だけでなく液晶シートの色変化として視覚的に捉えることを可能にした。2022年から2024年の3年間中学校で実施した実践から,作製した教材を用いた実験では実験の準備や実験装置の設定が簡単で準備や実験時間が削減できること,導電シート上で測定した発熱による上昇温度を用いて上昇温度が電流を流した時間に,上昇温度が電力に比例する関係を見出すことができること,導電シートにかける電圧の違いに応じて液晶シートが違った色変化をしていく様子は生徒に発熱への興味・関心を持たせることができることが明らかになった。

  • ―個別実験による知識・技能の定着に焦点を当てて―
    鬼木 哲人, 山田 貴之
    2026 年67 巻1 号 p. 159-169
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,中学校理科「電流」の授業において,ブレッドボードを活用し,生徒の個別実験を可能にすることで,「知識・技能」の定着を促すことであった。ミニブレッドボードとベースプレートを活用することで,従来の実験のように,LEDや抵抗,導線を実験内容に合わせて配置を考え,個別に実験をすることが可能になった。調査問題の分析結果から,ブレッドボードを用いた教材で学習することで,電流や電圧の規則性の理解や実験の技能の習得に有効であることが分かった。

  • ―化学的風化に着目して―
    亀田 直記, 瀧本 家康, 安倍 啓貴
    2026 年67 巻1 号 p. 171-179
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    岩石の風化現象は土壌の形成において重要な自然現象であり,岩石サイクルの概念を理解するための基礎となる。岩石の風化の過程を学ぶための物理的風化は実験教材があるが,自然界で反応前後の様子を観察することが困難な化学的風化の教材開発が期待される。本研究では中学校段階の知識で,花崗岩に水が作用することで物理的風化と化学的風化が複合的に進むことを理解する教材を開発した。炭酸水素ナトリウム,硫酸ナトリウム,石英砂,鉄粉を混ぜ合わせて固形化させた疑似花崗岩を作製し,それに水を吹きかけることで構成成分のうち水溶性の物質の一部が溶解することによって,水が作用して花崗岩に変化が起こることを理解できる教材とした。本教材を用いて高等学校で風化を取り扱う4単位の「地学」を履修していないことが多い教育学部理科専攻の大学生に授業実践を行った。その結果,6割以上が水が作用して物理的風化と化学的風化が複合的に進むことについて理解した。

  • ―小学校理科「すがたを変える水」の単元を事例に―
    齊藤 徳明, 和田 一郎
    2026 年67 巻1 号 p. 181-192
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    子どもが自己の科学的説明をよりよいものとしていくためには,子どもが自己の考えの課題点を的確に把握しなければならない。そのために必要な力として,「自分自身や他者の作品(work)のクオリティを判断する能力」である評価判断力(evaluative judgement)の働きが重要であると考えられる。評価判断力は,自己の考えを客観的に捉えることが重要であり,メタ認知との関連性が強く指摘されている(Lodge et al., 2018)。特に,評価活動においてはメタ認知的知識が重要な機能を有する(Issacson & Fujita, 2006)。以上のことから,本研究では,「科学的説明の構築に関わる評価判断力において,子どもはどのようなメタ認知的知識を働かせているか」をリサーチ・クエスチョンとし,小学校理科授業の事例的分析を通して明らかにすることを目的とした。事例的分析の結果,以下の諸点が明らかとなった。第一に,科学的説明の構築における評価判断力を機能させる際に子どもが働かせる条件的知識は多様に出現した。それらを分類すると,「理科の問題解決活動に関する理解」,「理科学習における他者の納得や合意形成の重要性」,「知識や情報の関連性への気付き」,「人の認知特性や情意的傾向への理解」の4つに整理できた。第二に,その際に子どもが働かせる宣言的知識,手続き的知識も多様に出現した。それらを分類すると,「内容的知識」,「問題設定」,「科学的説明の構造」,「理科の見方・考え方」,「表現」の5つに整理することができた。第三に,科学的説明の構築における評価判断力の構成要素,特に「クオリティとスタンダード」と「評価規準」におけるメタ認知的知識の関係性が示唆された。

  • 杉山 雅俊, 山岸 彩香
    2026 年67 巻1 号 p. 193-203
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,授業経験の再評価を促すための方法を考案し,その適用過程を分析することを通して,当該方法が授業経験の再評価をどのように促すのかという観点から,その特徴と課題を明らかにすることにあった。この目的を達成するために,Boud et al.(1985)が示した理論的枠組を参照した「授業再評価法」を考案し,教職大学院生1名の事例を通じて探索的に検討した。分析の結果,授業の再評価によって,授業経験に含まれる情動の再検討や実践的知識の形成を促す可能性を示唆する結果を得た。本研究は,授業経験の再評価に注目することの意味を示し,そのための方法を提示したという2つの意義を持つ。さらに,本研究の特徴に基づき,今後の研究の方向性を明らかにした。

  • 大工廻 朝晴, 小倉 康
    2026 年67 巻1 号 p. 205-217
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,小学校理科において,探究の過程の見通しと振り返りの力を高め,理科学習の有用感を高める指導法を開発することを目的とした。第1段階として,理科の探究の過程とその過程で必要となる力を認識させる授業。第2段階として,見通しをもって実験を行い,結果から予想・計画を振り返り評価・改善する過程を繰り返す授業。第3段階として,見通しをもち,振り返り評価・改善する力が使える日常の場面を考え,児童自らの問題の探究について見通しをもつ授業。これら3つの段階からなる指導法を設計した。小学校第5学年「流れる水と土地・川と災害」,第6学年「てこ」において,各学年,設計した指導法を用いる実験群2学級,統制群2学級を設定し,検証授業を実施した。検証授業の結果,統制群と比較して実験群の児童において,探究の過程の見通しと振り返りの力の一部と理科学習の有用感が有意に高まり,本指導法の有効性が示唆された。

  • ―手回し遠心分離機と実粒子拡散実験機を用いて―
    田中 玄伯, 高原 周一, 徳田 陽明
    2026 年67 巻1 号 p. 219-230
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    「溶解」の単元では,「透明性」「均一性」「保存性」という3つの基本概念が重要であるが,日常生活での経験に基づく誤った理解を形成していることが多い。この研究では,溶解現象に対する誤った理解を解消し,科学的な理解へとつなぐことを目的とし,粒子の熱運動を視覚的かつ操作的に理解できる新たな教具を開発した。1つは,溶解の重要概念の一つである「透明性」を示すために開発した手回し遠心分離機であり,もう1つは「均一性」や「保存性」の理解のために開発した粒子の運動を再現する実粒子を用いた粒子拡散実験機である。これらの教具を用いた教材を開発し,中学生を対象に授業実践を行った。その結果,誤った理解の是正と科学的概念の定着が見られた。授業の2か月後に実施した追跡テストでも,有意な改善を伴う効果の持続が確認された。特に,事前段階で科学的に誤った理解をしていた生徒において顕著に改善した。本教材は,溶解現象のマクロな観察結果と「透明性」「均一性」「保存性」の三性質および粒子の熱運動に基づくミクロな理解とを,具体的な体験を通して結びつけることができるため,教育的効果が高いといえる。

  • ―ディベート活動とジグソー法を取り入れて―
    花岡 大輔, 小倉 康
    2026 年67 巻1 号 p. 231-241
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,中学校理科において,1単位時間程度で科学的根拠に基づいて意思決定する力を育成し,生徒が科学的根拠に基づく意思決定の重要性を実感できる指導法の開発を目的とした。その指導法は,導入では単元で学習してきた内容に関連のある社会的諸問題を用いた課題を提示して意思決定させる。展開では,ディベート活動を目的とした知識構成型ジグソー法を行い,意思決定のための情報を収集し,ディベートを行う。終末では活動を通して得られた科学的根拠を基に「自分だったらどのように行動するか」の意思決定を行った後,自らの思考過程を振り返るものである。中学校第1学年で検証授業を行った結果,生徒が科学的根拠に基づいて意思決定する力が高まる可能性が示唆されたが,能力としての定着は確認できなかった。そして,科学的根拠に基づく意思決定の重要性の意識,理科学習の有用性の意識,及び学習への主体性が高まる可能性が示唆された。

  • :燃焼の仕組みを題材とした理科授業を通して
    村津 啓太
    2026 年67 巻1 号 p. 243-257
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,Argument Driven Inquiryプロジェクトによって提案されたアーギュメントの教授方略を小学校の理科授業に導入し,燃焼を題材とした理科授業を事例として,「科学の性質」としての創造性および暫定性に対する理解を促進する上での有効性について検証することであった。そのために,中村(2021)によって見出されたArgument Driven Inquiryプロジェクトの指導法の主要な特質を踏まえ,教授方略「理解」「批評」「査読」「内省」を反映させた実験授業を行った。授業前後に実施した創造性と暫定性の理解度を測定するアンケートならびに授業終盤に実施したアーギュメントの構築課題を分析した結果,アーギュメントの構築活動に十分に従事できた学習者は,授業前から授業後にかけて創造性と暫定性に対する理解度が向上した。これらの結果から,Argument Driven Inquiryプロジェクトの教授方略は,「科学の性質」としての創造性および暫定性に対する小学生の理解を促進する上で,一定の有効性があったと結論付けることができる。

  • ―事前登録研究を含む実験的検討―
    山田 一輝, 明平 和駿, 原田 勇希
    2026 年67 巻1 号 p. 259-274
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    Nature of Science(NOS)の評価方法は数多く提案されてきたが,評価の妥当性と研究知見の一般化可能性の両側面を両立することは難しい。そこで本研究では,既存の評価方法の課題を克服した新たな方法として,生成AIが半構造化面接の面接官を担える可能性に着目し,面接の第一質問に対する回答を想定した自由記述(仮想的回答・実際の大学生の回答)から,参加者の理解の適切性を正確に判断する能力を有するのかを検討した。さらに,回答の情報量が不足している場合,理解の適切性に関する判断を保留し,さらなる情報を引き出す追加の質問を生成できるのかを分析した。その結果,(1)仮想的回答では高い精度で回答者の理解の適切性を正確に判断できること,(2)大学生の回答では人間の評価者と同等の判断ができること,(3)情報量が不足している回答に対し,回答者の思考過程を可視化するための妥当な追加質問が生成できることの3点が明らかになった。

  • ―学習方略,メタ認知,自己効力感の関連構造の解明から―
    山田 一幸, 木原 義季, 山田 貴之
    2026 年67 巻1 号 p. 275-292
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,肢体不自由のある中高生を対象に,理科の観察・実験における学習方略・メタ認知・自己効力感の関連構造を質問紙で検討した。先行研究が指摘する運動・感覚・経験の制約により,生徒主体の実験や概念形成が阻害され得るという問題の所在を踏まえ,現代の合理的配慮環境下での心理的結合構造を数量的に明らかにすることを目的とした。分析は,記述統計,確証的因子分析,6因子の相関分析,重回帰分析,構造方程式モデリングの順で実施した。確証的因子分析,6因子モデルの妥当性を支持し,学習方略4因子間には一貫した正の相関が認められた。重回帰分析では,自己効力感に対し手順遵守方略が独立に正の寄与を示し,協働的方略は統制後に負へ転じた。構造方程式モデリングは,手順遵守方略→協働的方略→関連付け方略→メタ認知という方略の階層連鎖と,学習方略から自己効力感への直接効果を支持し,メタ認知→自己効力感の直接パスは有意でなかった。以上より,自己効力感の強化には,手順の視覚化・工程分割・操作支援具による安全な小成功の累積を起点に,関連付け方略・モニタリング方略を意図的に組み込む授業が有効である。協働的方略は役割の明確化と個人内達成の可視化により自律感と両立し得る。観察・測定のアクセシビリティ確保とプロセス評価・達成ポートフォリオの活用も推奨される。本研究の独自性は,古典的実態記述を更新し,学習方略―メタ認知―自己効力感の結合構造を量的に検証した点,およびメタ認知から自己効力感への直接路の不在を示し,成功体験を媒介とする設計原理を提示した点にある。これらの知見は,教材開発と授業設計に直結する実践的示唆を持つ。

資料論文
  • 瀧本 家康, 亀田 直記
    2026 年67 巻1 号 p. 293-300
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,理科教員を志望する大学生が「飽和水蒸気量」「飽和」「気液平衡」といった基礎的概念をどの程度正しく理解しているのか明らかにすることを目的とした。調査は国立大学教育学部1年生39名を対象に質問紙調査で行った。あわせて,中学校理科教科書5社の記述分析を行い,教科書記述と学生の誤概念形成との関連を検討した。教科書分析の結果,5社すべてが飽和水蒸気量を「空気がふくむことのできる水蒸気の最大量」と表現しており,「空気」を主体とした収容モデルが一貫して用いられていた。また,97%の学生にその内容が定着していた。質問紙調査からは,約7割が密閉容器内の水面から蒸発と凝結の両方が起こると正答した一方で,約3割は飽和を静的な状態と捉え,真空の空間には空気がないため水蒸気が存在しないと考えるなど,教科書表現に基づく収容モデルを保持していることが明らかとなった。以上より,理科教員志望学生においても水蒸気の扱いに関する誤概念が見られ,教科書の表現がその形成に寄与している可能性があることが示唆された。飽和を「空気の容量」によって決まる現象ではなく気液平衡として捉える指導の必要性が示された。

  • ―動物実験における「3Rの理念」に着目して―
    農野 将功
    2026 年67 巻1 号 p. 301-307
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    近年,探究科目を中心に高等学校において生徒が研究活動をする機会が増加しており,特に生物を扱う実験においては,動物実験を適切に実施するための知識を教授する研究倫理教育が必要であると考えられる。しかし高等学校において,動物の適切な扱い方などの生命倫理にかかわる教育実践は,大学等の研究機関と比較して少ない。そこで本研究では,「実験動物の扱い方に関する生命倫理」に焦点を当て,動物実験を適切に実施するための指針である「3Rの理念」に基づき,実験動物に対する配慮事項を理解させるためのグループディスカッションを含む授業を実践した結果,多くの生徒が「3Rの理念」とその配慮事項に理解を示した。

  • ―「活用」関連見出しの抽出に基づく学習活動の内容分析―
    堀田 晃毅
    2026 年67 巻1 号 p. 309-319
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,政策文書や学力調査の枠組み等において多義的な解釈が存在する「活用」について,中学校理科教科書における記述を分析し,教科書が学習者に対してどの文脈でどの知識の使用を期待しているかを明らかにすることを目的とした。令和7年度使用教科書のうち,「活用」あるいはそれに準ずる語句が見出しとして示され,学習者の活動を促す意図が読み取れた3社を対象に記述内容を分析した。分析の結果,計317件の活動が確認された。扱われている文脈は「学習内容の延長」と「日常生活」の2種類に大別され,特に日常生活の具体的事例を扱うものが多かった。生徒に求めている活動は14種類に分類され,「予想を立てる」,「表現する」,「理由を考える」が最も多く確認された。また,「調査する」も比較的多く,教科書における「活用」が学習内容の見識を深める活動として位置付けられていることが示唆された。使用する知識・技能は主として内容に関するものであったが,教科書内の資料や学習者の経験・制作物を基に考えさせるものも見られた。本研究は教科書の記述における特徴を整理した資料的な役割を果たす一方で,分類基準の妥当性の検証や分析対象の範囲を教科書内の「活用」に関連する見出し以外の記述にも拡大していくことが今後の課題である。

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