理科教育学研究
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原著論文
  • 伊藤 潤, 山下 修一
    2025 年66 巻2 号 p. 249-265
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,単元内自由進度学習を通じて,児童の主体的に学習に取り組む態度に関する意識や,思考・判断・表現がどのように変容するかを調査し,主体的に学習に取り組む態度の意識の変化が思考・判断・表現にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることである。公立小学校5年生を対象に,振り子の規則性の学習を自由進度学習群では単元内自由進度学習,通常授業群では一斉授業で行った。その結果,自由進度学習群では,主体的に学習に取り組む態度の意識が向上する児童が有意に多かった一方で,通常授業群では意識が低下する児童が有意に多かった。また,自由進度学習群と通常授業群で考察の質に大きな差は見られなかったが,自由進度学習群の全国学力・学習状況調査の事後および遅延調査での得点は,通常授業群よりも有意に高かった。さらに,自由進度学習群では主体的に学習に取り組む態度の意識が低下した児童でも遅延調査での得点が維持されたが,通常授業群では意識が低下した児童の遅延調査得点が有意に下がる結果となった。これらの結果から,単元内自由進度学習を行うことで主体的に学習に取り組む態度の意識が向上する人数が増え,思考・判断・表現の能力を一斉授業よりも高める可能性が示された。また,主体的に学習に取り組む態度の意識が低下した場合でも,思考・判断・表現の能力は維持されやすいことが明らかとなった。

  • ―意思決定のプロセスに着目して―
    内海 志典
    2025 年66 巻2 号 p. 267-279
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,大学生7名を対象として,科学技術に関連する社会的諸問題(SSI)である人工肉の賛否をテーマとして,二者択一の意思決定をする際の思考のプロセスについて検討した。その結果,次の5点が明らかとなった。(1)意思決定において,賛成,または反対のいずれかであっても,多くの場合,各学生個人が判断した賛否の割合は,100%の賛成,または反対ではなかった。(2)授業の最初と最終の段階での賛否の割合の変容は,多くの場合,10%~20%程度で大きく変化しなかった。(3)最初と最後の賛否の割合に変容が見られない学生でも,学習の途中段階において,多くの場合,賛否の割合の変容が見られたことから,意思決定の際に,心の中に相反する何らかの考えがあったと考えられる。(4)賛否の割合の変容に最も影響を与えているのは,自分が収集した資料の内容をグループ内で発表したり,他者の発表を聞いたりする活動であった。(5)意思決定において,合理的インフォーマル推論,感情的インフォーマル推論,直感的インフォーマル推論が用いられていた。

  • 鬼木 哲人, 山田 貴之
    2025 年66 巻2 号 p. 281-290
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,ブロック玩具を活用し,中学校理科の地層の問題に対する生徒の思考力を高める教材の開発とその効果の検証である。先行研究ではブロック玩具を積み重ね,立方体をつくることで地層を再現し,地層の広がりを推定する活動が行われている。本研究では,ブロック玩具で山の形を作製した。これにより,異なる地点の柱状図をその地点の標高に合わせて柱状図の高さを変え,地層の重なりや広がりを推定する活動を可能にした。開発した教材を用いて授業実践をした結果,生徒が柱状図を標高に合わせながら,生徒同士で考察することで地層の重なりや広がりを考える力が向上した。また,質問紙調査の結果,開発した教材を活用することで生徒の地層の問題に対しての苦手意識が軽減されることが分かった。

  • ―主体的に学習に取り組む態度の変容に着目して―
    川岸 嵩明, 後藤 顕一, 山田 貴之
    2025 年66 巻2 号 p. 291-307
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,中学校理科の仮説の設定,検証計画の立案場面に,相互評価活動を組み込んだ学習プログラムを開発すること。そして,この学習プログラムが,生徒の主体的に学習に取り組む態度に与える効果を検証することであった。目的を達成するために,中学校理科における仮説の設定や検証計画の立案場面で用いる相互評価表と評価規準及び中学校第1学年のフックの法則の学習を対象とした学習プログラムを開発し,授業実践及び主体的に学習に取り組む態度の変容を測定するための質問紙調査を行った。その結果,主体的に学習に取り組む態度を評価するための2つの側面である粘り強さと自己調整の向上に効果があることが明らかになった。また,相互評価活動における他者からの肯定的な評価が主体的に学習に取り組む態度を向上させる要因である可能性が示唆された。

  • ―中学校理科「化学変化とイオン」を題材にp-primsの視点から―
    木内 裕佑
    2025 年66 巻2 号 p. 309-323
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,説明による対話活動を取り入れた理科授業において,生徒がどのような科学的な知識を適用しながら根拠に基づいた叙述を行っているのかを,p-prims理論の視点から実践を通して明らかにすることである。この目的を達成するために,まず,中学生第3学年「化学変化とイオン」単元において,考察場面において他者への説明による対話活動を導入した理科の授業を実践した。その後,生徒の酸性・アルカリ性の正体に関する対話記録及び説明記述内容を,アーギュメントを構成する各要素の有無で5つの群に分け,さらにそれらを概念理解群と未理解群に分類した。分類後,各カテゴリーの生徒が,根拠に関する吟味をどのように行っているのかを聞き取り,酸・アルカリ概念に関する妥当な根拠の構築に必要となる知識をどのように表出し,活用しているのか,その構造について調査した。その結果,本実践の構造と酸・アルカリ概念の理解達成に関する要素として,以下のことが明らかとなった。①本実践の中で生徒は実験結果から「何かが陽極・陰極に引きつけられる」という根拠構築に関わるp-primsを表出していること,②酸・アルカリ概念の理解に至った生徒は,質疑応答を通してp-primsを特定の科学的な知識と統合することで根拠を構築していたこと,③根拠構築に関わるp-primsの表出に必要な知識が「電気の性質」であり,表出したp-primsの統合に必要となる知識が「塩酸の電離」,「水酸化ナトリウムの電離」,「化学式」であること。

  • 斉藤 優希, 山下 修一
    2025 年66 巻2 号 p. 325-337
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,粒子の保存性と水溶液の均一性を捉えることを中心とした粒子概念を深めるための手立てを明らかにするために,小学校5年生98名に「物の溶け方」の学習を展開し,児童の変容を調査した。授業では粒子モデルを用いて,水の粒子が溶質を取り囲むこと(以後,取り囲みモデル)で溶解を表現させた。実験結果に対して「なぜ,そうなるのか」と考察させ,マグネットによる操作型粒子モデルを使って班で練り上げ,全体共有することでより妥当な考えにまとめた。事後・遅延調査の結果,取り囲む水の粒の数に注目して考察したことで,食塩とミョウバンの溶解度の違いや水温に伴う溶解度の変化に納得し,学習内容の理解につながった。そして,溶解前後で水・溶質の粒の数や大きさが変わらないこと(粒子の保存性),時間が経過しても水溶液の下が濃くならないこと(水溶液の均一性)を捉えられるようになった。以上より,粒子による取り囲みモデルを手立てとすることは,粒子概念を深めることが明らかになった。

  • 榊原 保志
    2025 年66 巻2 号 p. 339-347
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,実験器具が不足しているカンボジアにおいてペットボトルによる簡易天秤とペットボトルキャップの分銅を利用した教材や授業プログラムの有効性を調べた。その結果,授業前後で興味・関心に変化があったとはいえないが,児童にとって楽しい授業であり,授業は難しすぎることはなかった。また,本教材は重さを量る技能の習得に有用であった。参観した教師の感想によれば,授業は明るく,児童に笑顔がみられ,積極的に測定し,喜んで勉強していた。さらに授業では量る前に重さを予想させていたことや役に立つ教材だったと指摘があった。

  • ―現職理科教員が授業で設定した「課題」の分析を通して―
    櫻井 康之
    2025 年66 巻2 号 p. 349-358
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    理科教育において,観察や実験を通じて科学的に探究する力を育成することが重視され,特に「問い」を立てる力の育成が強調されている。しかし,全国学力・学習状況調査報告書によれば,自然の事物・現象から「問題」を見いだし「課題」を設定する力には依然として課題がある。先行研究では,「問い」の類型化や探究的特徴の分析が進められてきた。例えば,英語の5W1Hや「手段」「変化・状態」などの観点から分類する方法が提案されている。一方で,実際の授業で設定された「課題」を具体的に分析した研究はまだない。本研究は,中学校理科授業で設定された「課題」を分析し,それらが「何」を探究しているかを明らかにすることを目的としている。具体的には,国立A大学附属中学校の理科授業で扱われた220件の課題を対象に,「要因型」「変化の様子型」「関係型」「方法型」「特徴型」「分類型」「同定型」に分類した。また,課題の型や表現には学年や領域ごとの違いがみられる。結論として,理科教育における「課題」の類型化を行ったことで,「問題を見いだし,課題を設定する過程」の「課題」の分類が明らかになり,今後「問題を見いだし,課題を設定する過程」を具体化していくための基礎的な知見が得られた。

  • ―小学校段階における防災・減災に関する意識向上への取組―
    佐藤 真太郎, 堀 道雄, 藤岡 達也
    2025 年66 巻2 号 p. 359-367
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,小学校段階時における「地盤による揺れの違い」に着目した地震教材を開発し,理科授業の探究の過程を踏まえ,その教育効果を検討することである。方法として小学校第6学年「(4)大地のつくりと変化」の単元における授業実践を通して,地震の揺れ発生時における地盤の違いによる揺れが引き起こす被害について探究し,防災・減災への意識を高める活動を行った。児童は,「レゴWeDo2.0」のソフトウェアと連動した「災害学習セットLT(株式会社ナリカ製,以下同製品)」の「基礎プロジェクト 7.頑丈な建物」で作成した,プログラミングにより揺れを発生させる装置を使い異なった材料を用いて想定された地盤上に,自ら組み合わせたブロックの建物を建てた。その結果,地盤の状態の違いと地震の揺れが引き起こす被害との関係についての考えを持ち,防災・減災の学びにつなげることが可能であった。

  • ―川の流れによる地層形成実験を目指した教材開発と教育的効果の検討―
    佐藤 真太郎, 横山 光
    2025 年66 巻2 号 p. 369-378
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校第5学年「(3)流れる水の働きと土地の変化」での学習内容との関連性を踏まえて,小学校第6学年「B(4)土地のつくりと変化」で学習する,河川流堆積物の形成過程も観察可能な地層の形成実験器について検討した。地層の形成実験器は,地層の形成実験器「ち・そうなんです」の基本的な設計を残しながら,装置のサイズを修正し,使用する砂の種類や組み合わせ,水の流量等について改良したものである。そして,小学校第6学年児童を対象に,改良した教材を使用した授業を実践し,その教育的効果を検討した。その結果,川と海に堆積する粒子の大きさが異なることに気付いたり,砂が運搬され,堆積したものが層になり地層が形成されたりすることについて理解を深めるなど,小学校第5学年「(3)流れる水の働きと土地の変化」での学習で得た知識と関連させながら考えることができる教材としての可能性が示された。

  • ―教科書を活用した粒子概念による物質の三態変化の指導―
    佐野 嘉昭, 遠西 昭寿
    2025 年66 巻2 号 p. 379-386
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,直接観察不可能な粒子概念によって物質の三態変化を指導した実践研究である。生徒が粒子概念を経験からアブダクティブに得ることは困難であるから,教科書から読み取り,粒子概念から観察事実を解釈的に見ることで理解を促し,粒子概念へのコミットメントの形成を目指した。教科書のテクストを解釈的に読むために,国語教育の読みの指導法である三読法が使用された。三読法は通読・精読・味読の3回の読みからなるが,初めの通読において粒子概念が示されたので,続く精読での学習では粒子概念はアプリオリなものとなった。実験はテクストの一部であり,テクストの文脈において成立しており,テクスト理解の手段である。仮説や実験の方法は粒子概念から得られ,実験結果も粒子概念によって説明できるので,テクスト理解が促進された。味読におけるコンセプトマップの作成では,分節ごとの精読において断片的に理解された知識が粒子概念によって相互に関係づけられ,粒子概念によって教科書の当該のテクスト全体を一貫して説明できることを実感させ,粒子概念へのコミットメントが促進された。

  • ―IQWSTの枠組みを視点として―
    西井 陽一
    2025 年66 巻2 号 p. 387-396
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,高等学校生物基礎におけるPBLのデザインを通じて,生徒のエージェンシーを育成することを目的とする。現代社会では,変化に対応し主体的に問題解決する能力が求められ,日本の教育現場でも探究的な学びへの転換が進められている。本研究では,エージェンシーの育成を目指す一手段としてPBLを導入し,IQWSTのPBLの枠組みを参考に生物基礎のカリキュラムを再編成した。研究の成果は以下の2点である。(1)単元全体を貫く文脈を駆動質問によって設定するというIQWSTの考え方を踏まえた上で,新たに授業内の問いを「素朴な問い」「生物学的な問い」「つなぐ問い」の3種類に分類し,カリキュラムマップを作成した。これにより,問いの体系化を図り,探究を通じた学びが促される構造をデザインした。(2)実践においては,IQWSTの枠組みに基づく駆動質問ボードに加え,振り返りのためのOPPシートを導入した。この2つを組み合わせることで,生徒の個性や思考を可視化しながら,自ら学びを深める生物基礎の新しい指導の枠組みと方法をデザインした。

  • ~単元「エネルギーと代謝」の事例分析を通して~
    林田 知子, 和田 一郎
    2025 年66 巻2 号 p. 397-407
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    高等学校理科の生命領域の学習内容では,生命現象を分子レベルで扱い,分子レベルの物質が複雑に相互作用することで現象が成立することを学習する。これらの現象を理解するために,教材として外部表象(ER),つまり,モデル図,顕微鏡写真,アニメーションなどが使われ,その有効性と同時にERの不適切な解釈や未熟な使用が,学習者の認知プロセスに問題を引き起こしていることが指摘されている。本研究では,Schönborn and Anderson(2009)が提唱したCRMモデル(conceptual-reasoning-mode Model)を援用し,ERの解釈と構築に関連する認知プロセスの実態を検討した。その結果,生徒によって働かせる認知プロセスの種類は異なる一方で,ER構築時は解釈時に比べ,より多くの生徒が,概念的知識を伴う認知プロセスにおいて,高次なタイプの認知プロセスを働かせているという傾向が明らかとなった。

  • ―中学校における明示的な指導実践を通して―
    平澤 傑, 久坂 哲也
    2025 年66 巻2 号 p. 409-417
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,中学校における理科の見方・考え方と資質・能力の関係を明らかにすることを目的とした。生徒が理科の見方・考え方を知識として保有することは,1)生徒が科学的な探究場面で見方・考え方を働かせること,2)知識・技能及び思考力・判断力・表現力等の2つの資質・能力を高めること,に有意な正の影響を与える可能性が示された。また,科学的な探究場面で理科の見方・考え方を働かせることは,資質・能力に弱い正の影響を与える可能性も示された。さらに,理科の見方・考え方の明示的指導に関して,実験群と統制群では見方・考え方の知識保有に一定程度の有意差が見られたが,科学的な探究場面での見方・考え方の働きに有意差は認められなかった。これらのことから,見方・考え方を明示的に指導することは,短期間の条件下において,概念理解にはつながるが,探究の過程で生きて働くまでの効果には課題が見られた。また,見方・考え方の種類によっては効果が異なることが示唆された。

  • 前田 優, 内田 大貴, 鮫島 朋美, 山田 道夫
    2025 年66 巻2 号 p. 419-426
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    高校化学において主体的かつ探究的に実験を行うための教材として,エステル化反応を活用し,生徒自身が実験の目的を設定し,実験方法を計画,実施する学習活動が行える教材を開発し,高等学校の生徒を対象に実践した。本教材では,基本となるエステル合成や精製の実験方法を指導した後に,生徒自身が目的となる合成物質を決め,物質の性質に基づく実験方法を判断した上で合成実験を実施する活動を通じて,主体的に実験に取り組む姿勢および科学的な探究スキルを身につけられるようにした。

  • 丸吉 利明, 山下 修一
    2025 年66 巻2 号 p. 427-435
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    第6学年「てこのはたらき」において,学習したことが他教科(本研究では体育)に生かすことができることを経験し,学びを深めていくことをねらいとした。人間の身体の中にはたくさんのてこがあり,関節の動きのてこをスムーズに連動させながら,日常生活の行動や運動につなげている。そこで,理科で学んだてこの原理を使って,新体力テストの種目の一つであるソフトボール投げにつなげた。てこの3点(「支点を股関節と逆手」「力点を投げ手側の肩」「作用点を投げ手」)について考え,意識することで,遠投距離が変わる事を実感することができた。また,遠投フォームの意識も高まり,フォームにも変化が現れた。また,「理科で学んだことが,他教科に役立つ経験ができた」という回答に有意な差が見られた。

  • ―マイクロスケール実験を活用した個別実験「化学変化とイオン」の実践―
    宮本 由香, 小倉 康
    2025 年66 巻2 号 p. 437-451
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,「学びに向かう力,人間性等」を高めるために,科学的探究過程 1)において個別実験を導入した授業に協働的な学びを取り入れることによって,生徒が他者や教材と豊かに関わり合いながら自らの課題を粘り強く解決していく指導法を開発した。手立てIでは,従来の年間指導計画の範囲内で,学習者主体の「探究の程度」を,[全体][一部]または[教師主導]とし,授業時数の不足を防ぐカリキュラムマネジメントを行うことで,授業に個別学習と協働学習の時間を意図的に設定した。手立てIIでは,中学校第3学年の単元「化学変化とイオン」において,マイクロスケール実験を活用した個別実験用の教材を開発した。手立てIIIでは,生徒が協働的に問題を見通し,振り返ることができるワークシートを開発し,毎時間使用した。本指導法の効果を検証するために,手立てI~IIIを講じた授業を調査校で実施し,協力校で標準的な授業を行った結果を比較した。質問紙調査において調査校の生徒は協力校の生徒に比べて,「学びに向かう力,人間性等」の全項目において有意に意識が高いことが分かった。対話のプロトコル調査,ワークシート分析,インタビュー調査から,「豊かな関わり合い」の実践によって,対話による思考の変容,対話に対しての価値観の変容を促す効果があることが示唆された。また,従来の年間指導計画の範囲内で,小単元ごとに科学的探究過程に沿った授業を行うことが可能であることが示された。

  • 山際 清史, 小池 守, 北村 一浩, 小畑 直輝
    2025 年66 巻2 号 p. 453-467
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,糖類の還元性を利用して金コロイドを生成し,生成過程の観察やその後の実験を通して,コロイドの性質を学習できる実験教材を開発した。本教材の教育的有用性を評価するために,授業計画の策定と実験結果の分析を行った。その結果,以下の7点が明らかになった。1)金箔はヨウ素溶液に溶解し,「金は王水にしか溶けない」という一般的な認識を修正できる可能性がある。2)金を溶解したヨウ素溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加すると,少量のコロイドの生成が確認された。3)2)の水溶液にグルコースを加えると金コロイドの生成反応は進行し,それは水溶液の着色により視覚的に確認された。4)金コロイドの生成反応は,温度に依存し,温度が高いほど速かった。5)金コロイドの生成速度は還元糖の種類により異なり,還元糖の還元力に差があることが確認できた。6)生成した金コロイドを用いて,チンダル現象,ブラウン運動,凝析及び保護コロイドの効果などコロイドの性質を学習することが可能である。7)本教材は,化学の授業だけでなく,化学の多様な分野や内容を含むことから,総合的な探究の時間にも活用できる可能性がある。以上の結果より,本研究で開発した教材は,金コロイドの生成過程を視覚的に観察し,コロイドの性質を探究的に学習できる実験教材であることが示唆された。

資料論文
  • ―タマネギの細胞に対する影響からの考察―
    小長谷 幸史, 村上 聡, 寺木 秀一
    2025 年66 巻2 号 p. 469-476
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    日本での放射線教育は福島第一原子力発電所の事故以来その重要さが高まっている。物理分野ではいくつかの放射線教育の教材が報告されているが,生物に対する影響を学ぶ教材は知見に乏しい。クルックス管は真空放電を学ぶ教材としてよく知られている。このクルックス管からは電圧を印加することでX線が漏洩することも知られている。そのため,クルックス管は放射線源として用いることができる可能性が考えられる。そこで本研究では冷陰極クルックス管を用いた植物種子への照射を行い,教材としてのデータの収集を行った。クルックス管は7,000 Vの印加により陰極線が見られるようになったが,放射線の漏洩は見られなかった。クルックス管は15,000 Vおよび29,000 Vを印加することで,クルックス管から約20 cmの位置でそれぞれ18および40 μGy/hの線量率が計測された。5種の植物の種に対して,29,000 Vの電圧を印加した状態で,30分間および150分間照射することで,それぞれ20および100 μGyの線量の照射を行った。照射の影響が見られたのはタマネギの種子のみ,発芽後の根の伸長の促進が観察された。さらに,根端分裂組織の細胞を観察すると,細胞分裂の促進と,核が長円状になっていたことが観察された。これらのことから,クルックス管は生徒実験で放射線を扱う際の線源として用いる事ができる可能性が示された。

  • ―研究活動における不正事案を用いた授業実践―
    農野 将功
    2025 年66 巻2 号 p. 477-485
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    近年,高等学校において「探究」科目を中心に研究活動を行う機会が増加している。そうした状況においては,探究に取り組む生徒に対し,研究倫理に関する知識を理解した上で主体的に判断・行動する力を育成する必要があると考えられるが,大学等の研究機関と比較して高等学校における研究倫理教育の実践例は少ない状況にある。そこで,本研究では「研究活動における特定不正行為」に焦点を当て,文部科学省が公開する研究不正事案の実例を教材とした研究倫理教育の実践を行った。さらに,授業を踏まえて生徒たちが自身の課題研究を行う上で注意するべきことを考え,それらを集約することで,課題研究における研究不正を防ぐチェックリストの作成を試みた。

  • 松浦 紀之, 松岡 雅忠
    2025 年66 巻2 号 p. 487-496
    発行日: 2025/11/30
    公開日: 2025/11/30
    ジャーナル フリー

    物質の性質を比較することは科学の基盤であり,共通点を見いだして同定したり,反応性をもとに分類することは中等教育においても重要な位置を占める。たとえば,物体の密度から物質を区別したり,水への溶けやすさで試料を分類したりする実験を通じて,知識を活用して課題を解決し,概念的な理解を深めていく。本研究は,メスシリンダーの液面の変化に着目して金属結晶やイオン結晶の密度を求める実験に焦点を当て,単位格子の構造をもとに金属結合半径やイオン半径を算出する授業展開を提示することを主眼とする。本論文では,学生実験の結果をもとに密度の測定値,金属結合半径やイオン半径の計算値を評価し,授業実践の際に想定される数値の目安を示した。教育現場で活用する際のメリットとして,簡単な器具で実践できるだけでなく,岩塩をへき開する従来法と同程度に正確であることがあげられる。本実験を含む授業を通じて,生徒は巨視的な結晶と微視的な原子やイオンを関連付けて考察し,目に見えない原子やイオンの配列(結晶格子)への理解を深めることができる。

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