毛は皮膚の付属器で、生涯を通して成長と退縮を繰り返す。近年、毛周期の研究が急速に進展し、毛形成に関与する多くの細胞系やシグナル伝達系が明らかになってきた。毛形成と毛周期に脂質の関与が示唆される報告があいついでいる。特に、スフィンゴ脂質は細胞膜の主成分であり、シグナル伝達分子であることから関心が持たれているが、毛の生化学的分析はなされていない。
今回、我々は、スフィンゴ脂質を中心としたマウス毛の脂質分析を行った。マウス毛にはセラミド、グルコシルセラミド、スフィンゴミエリンが存在していた。毛セラミドにはジヒドロスフィンゴシンを持つ分子が多く、表皮バリアの必須分子であるアシルセラミドは認められなかった。毛セラミドの主要分子は炭素鎖20の飽和脂肪酸ジヒドロスフィンゴシンであった。グルコシルセラミドには炭素鎖18の飽和および不飽和脂肪酸を含む分子が多く、長鎖アルファヒドロキシ脂肪酸も認められたが、毛幹ではヒドロキシ脂肪酸を含む分子が少なかった。アシルグルコシルセラミドは殆ど認められなかった。セラミドとグルコシルセラミドが毛包と毛幹のいずれにも存在するのに対し、毛幹にスフィンゴミエリンは殆ど認められなかった。スフィンゴミエリンの脂肪酸は炭素鎖16、18および24の飽和脂肪酸が主成分で、少量の炭素鎖16アルファヒドロキシ脂肪酸も含まれていた。
毛におけるセラミドとグルコシルセラミドおよびスフィンゴミエリンは、代謝過程も機能も異なっていると考えられる。
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