日本女性科学者の会学術誌
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9 巻, 1 号
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総説
  • 佐藤 久子
    原稿種別: 総説
    2008 年 9 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/10/06
    ジャーナル フリー
    有機物や無機物を用いた透明薄膜型電子デバイス(ダイオード、トランジスタ、太陽電池など)をめざした研究が最近大いに注目を集めている。我々はラングミュア・ブロジェット(LB)膜法を用いて、剥離した層状無機化合物(粘土鉱物、層状ニオブ酸など)の厚さ数ナノメートルの超薄膜を製造する方法を開発してきた。それを用いて修飾電極、湿度センサーなどへの機能開発を行ってきた。その研究の発展として、層状無機化合物を用いた薄膜状ダイオード、トランジスターの製作に成功した。第一段階として、剥離したペロブスカイト型ニオブ酸化物(TMASrsub>2Nbsub>3Osub>10)のキャスト膜が永続的光伝導性を示し、これらはn型半導体として働くことを明らかにした。つぎに第二段階として、p型半導体性を示す層状酸化物の探索を行い、最近人工合成された亜鉛金属を含む粘土鉱物(Na0.96[Si7.18Al0.64]Zn6.20O20(OH)2)がその条件を満足することを見出した。このような地球上に豊富に存在し、人体にも無害な粘土鉱物やニオブ酸などの半導体を電子デバイス材料として利用することができれば、今までにない環境にやさしい材料となることが期待された。その結果、剥離した粘土鉱物とニオブ酸のキャスト膜を用いてテロ接合界面を構築し、初めて無機ナノシートを用いた光ダイオード性を実現した。
  • 本間 美和子
    原稿種別: 総説
    2008 年 9 巻 1 号 p. 8-12
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/10/06
    ジャーナル フリー
    種を超えて広範に分布するセリン・スレオニンキナーゼの一種であるcasein kinase 2 (CK2) は生存と増殖に必須であり、多くの細胞内基質を有することが知られている。癌抑制遺伝子産物adenomatous polyposis coli (APC) と相互作用するキナーゼとして見出したCK2について、本研究では細胞周期進行という観点から、特定の時間軸においてCK2によりリン酸化される生体タンパクについて機能制御の仕組みを明らかにすることを目的とした。CK2は真核生物翻訳開始因子eIF5をリン酸化することで、厳密にコントロールされた細胞周期進行に関与する事を明らかにした。
  • 近藤 科江
    原稿種別: 総説
    2008 年 9 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/10/06
    ジャーナル フリー
    がんの種類は多様であるが、生命を脅かすがんは転移・浸潤能を獲得した「悪性度の高いがん」である。がんを早期に画像化することが、早期診断の要であり、早期治療にとって重要である。現在の画像診断は、「位置と大きさ」という物理的情報に重点が置かれているが、がんの質的情報を得ることができれば、治療方針を立てる上で有用である。固形腫瘍に共通して存在する『低酸素』は、正常組織には存在せず、悪性度の高いがんでより多く存在する。この『低酸素』を感度良くイメージングすることができれば、初期のがんや転移がんの早期発見に貢献できるのみでなく、的確な治療のための情報を提供することができる。我々は、低酸素を標的としたイメージング・ターゲティング研究を行い、早期診断・早期治療に繋げるプローブ開発を行っている。
  • 玄番 央恵
    原稿種別: 総説
    2008 年 9 巻 1 号 p. 20-45
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/10/06
    ジャーナル フリー
    ヒトの認知機能の発現と制御に関する中枢神経機序を明らかにするため、サルに多くの随意運動課題を訓練し、種々の大脳皮質に埋め込んだ対電極(表面電極と深部電極から構成)を用いて大脳皮質フィールド電位を測定し、種々の認知機能と関連づけて検討した。得られた研究成果の中、本論文では主に前頭葉と頭頂葉がどんな認知機能の発現と制御に関与するかにつき述べた。さらに種々の認知機能への小脳の関与、及び小脳切除により低下した運動野の運動機能の頭頂葉による代償機能について述べ、リハビリなど臨床応用にも言及した。さらに、高次脳機能への長期間運動の影響を研究するため、「さる運動装置」を民間企業と共同開発した。本装置で2匹のサルに下肢運動を長期間行わせた後、外部刺激始動性上肢運動の学習中に大脳皮質フィールド電位の計測と行動学的観察を行って対照群と比較検討し、学習能力向上への長期間運動の有用性を明らかにした。
  • 村田 三奈子, 増子 佳世
    原稿種別: 総説
    2008 年 9 巻 1 号 p. 46-50
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/10/06
    ジャーナル フリー
    関節軟骨は無血管組織であるが、軟骨の分化や骨化において、あるいは関節疾患における組織変性において、vascular endothelial growth factor (VEGF)などの血管新生因子の関わりが最近示唆されている。これらの因子は、軟骨組織における低酸素環境によって発現が誘導されることが知られており、病変関節においては、炎症による酸素分圧の低下が、VEGF発現誘導などを介して関節破壊を悪化させる可能性がある。今後、軟骨における低酸素の制御、および血管新生因子の発現抑制を介した、新たな関節疾患の治療戦略の確立も期待される。
原著論文
  • 天沼 崇, 大須賀 壮, 大嶋 恵理子, 田口 良, 平林 義雄, 尾崎 美和子
    原稿種別: 原著論文
    2008 年 9 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/10/06
    ジャーナル フリー
    ニューレグリン1-β1(NRG)は、統合失調症リスク遺伝子の一つであり、その受容体は、チロシンキナーゼファミリーの一つであり、膜貫通ドメインをもつErbB(ErbB2, 3, 4)である。NRG-ErbB情報伝達の異常が神経変性疾患や精神疾患を引き起こす。また、NRG-ErbB情報伝達は神経活動(神経の電気的活動)との関わりも強い。そこで、電気刺激の代替的刺激方法であるKCl刺激を用い、膜脱分極の程度を変えることにより,膜成分中のラフトの構成脂質や蛋白がどのように変動し、NRG-ErbB情報伝達にどのように影響を与える可能性があるかを調べた。脱分極具合が強いと思われる高濃度KCl刺激では、ラフト画分で、飽和脂肪酸を含むフォスファチジリルコリン(PC)が増加し、不飽和脂肪酸を含むPCが減少した。蛋白の構成としては、ErbB2, B4や、ErbB4と結合していると報告されているPSD95やNMDA受容体NR1サブニュトがラフト画分へ移動した。また、スフィンゴ脂質やコレステロールを枯渇した実験では、脱分極の度合いが小さい低濃度KCl刺激の時と似た現象が観察された。このことから、神経活動の度合いとラフト内脂質成分変化には何らかの関係があり、ラフト内の構成蛋白を変化させることにより情報伝達系に影響を与えている可能性が示唆された。
  • 桐谷 佳惠, 上田 太規, 織田 万波, 越山 豪, 山崎 一矢, 赤瀬 達三
    原稿種別: 原著論文
    2008 年 9 巻 1 号 p. 59-66
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/10/06
    ジャーナル フリー
    本研究は、首都高速道路案内標識デザイン提案の一環で行われたフルスケールでのフォント視認性測定実験である。使用フォントは新ゴMとVialogLT Mで、「永環」、「Cerija」、「B08」の文字列を対象にした。和文の文字高は、500、450、400、350、300mm、アルファベットと英数は400、350、300、250、200mmの5段階に変化させた。距離は、「おそらくこうであろう」と思ったところ(視認性判断)と、「確実に文字が読めた」ところ(認知度判断)の2カ所を測定した。結果として、視認性判断の距離は認知度判断の距離より、どの条件でも有意に大きくなったが、約半数の実験参加者が、視認性判断では間違った文字列を報告した。また、和文500mmと450mmでは、どちらの判断距離も有意な差が出なかった。アルファベットは和文より視認距離が大きく、和文の約70%の文字高で和文と同程度の視認・認知距離を得られることがわかった。さらに、視認性測定の意味など、方法論上の問題も議論された。
レポート
  • アルヴェリウス 幸子
    原稿種別: レポート
    2008 年 9 巻 1 号 p. 67-76
    発行日: 2008年
    公開日: 2011/10/06
    ジャーナル フリー
    本レポートでは、スウェーデンの主要大学の2校の学内機会均等化委員会が作成した企画・計画書から、当国における女性物理研究者の実態を統計的に眺めてみた。そして、機会均等化委員会が提言する女性(物理)研究者のためのネットワーク構築支援プロジェクトに関わってくると思われるWIPSやNorWIP について紹介した。日本における同様の統計が手元にないために比較できないが、日本と異なって政治・経済の分野で女性進出がかなり進んでいるスウェーデンにおいても、女性物理研究者のPh.D. 取得率、大学・研究機関における教員比率は共に20%に至っていないのが現状である。しかし組織的に状況監視を行い、一定期間毎に現状を定量把握し、それをもとにそこから具体的に数値目標を掲げて、その達成のための計画・アクションを行う努力は(遅くとも)90年代後半から行われている。
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