皮膚の科学
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症例
  • 大桑 槙子, 木谷 美湖野, 菅島 裕美, 平野 亨, 前田 倫, 西岡 美南
    2025 年 24 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    症例1は51歳,男性。30年間の喫煙歴がある。3年前から冬季に両手指の疼痛を繰り返し,近医で加療されるも改善せず当院を受診した。CT angiography で特徴的所見を認め,Buerger 病と診断した。血管拡張薬などの薬物療法には抵抗性であったが,星状神経節ブロックにより改善傾向となり,脊髄刺激療法に移行して寛解状態を維持できた。症例2は71歳,女性。受動喫煙を含め喫煙歴はなく, 2年前から深部静脈血栓症に対してリバーロキサバンを内服中であった。2ヶ月前から右母指,示指,中指の色調不良と疼痛が出現し来院した。抗リン脂質抗体症候群が背景にあると思われたが確定診断には至らず,「非動脈硬化性の慢性動脈閉塞症」と診断した。硬膜下血腫発症のため抗血栓療法は中止せざるを得ず,症例1同様,星状神経節ブロック後の脊髄刺激療法により寛解状態を維持できた。慢性動脈閉塞症は,閉塞性動脈硬化症と糖尿病性足病変がその大部分を占め,その他の非動脈硬化性疾患を診療する機会は比較的少ない。Buerger 病をはじめとするこれらは治療選択肢が限られる,難治性,再発性であるなどの理由により治療に難渋することが多い。脊髄刺激療法は比較的新しい治療法であり,間接的に交感神経の緊張を緩和することで持続的な微小循環の改善作用を有するとされる。交感神経節切除や焼灼術に比べると低侵襲であり,可逆的であるため,薬物療法に抵抗性の虚血性四肢病変では治療選択肢の一つとして有用である。(皮膚の科学,24 : 1-8, 2025)
  • 岡田 一真, 山本 文平, 藤本 徳毅
    2025 年 24 巻 1 号 p. 9-13
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    33歳,女性。初診の約1年前より右側胸部に皮下結節を自覚していた。徐々に増大し疼痛を伴うようになったため,当院を受診した。初診時,側胸部に圧痛を伴う約 2 cm 大の弾性軟,可動性のある皮下結節を認めた。超音波画像検査,MRI 画像では診断確定には至らず,全摘出した。病理組織学的診断ではリンパ濾胞を伴った黄色肉芽腫であった。切除病変内に壊死はなかった。免疫組織化学染色の結果やリンパ濾胞の形態から反応性のリンパ濾胞過形成と考え,何らかの慢性炎症が原因と推測した。壊死を伴わずリンパ濾胞を伴う皮下の黄色肉芽腫は報告が極めて少なく,極めてまれな1例であったと考える。若干の考察を加えて報告する。(皮膚の科学,24 : 9-13, 2025)

  • 一ノ瀬 里紗, 川村 真実, 有吉 綾香, 竹内 千尋, 後藤 典子
    2025 年 24 巻 1 号 p. 14-19
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    51歳,男性。初診の半年前,不安神経症増悪により1ヶ月程度長時間臥床していた。初診の3ヶ月前,仙骨部の圧痛を伴う軟らかい皮下腫瘤を自覚し,徐々に増大してきたため当科に紹介受診となった。仙骨部に直径 4 cm 大,弾性軟,下床との可動性はやや不良の皮下腫瘤を認めた。MRI では,仙骨部筋膜上に T1 強調像および T2 強調像で低信号,脂肪抑制変化のない皮下腫瘤を認めた。全摘切除時の病理組織学的検査では,真皮深層から皮下に結節性病変が存在した。結節の中心部では細胞成分が乏しくフィブリノイド変性を伴う壊死像,辺縁部では血管増生,浮腫状間質,線維化を伴う肉芽組織があり,細胞の多形性がみられた。免疫組織化学および特殊染色では,結節辺縁部の紡錘形細胞は,ビメンチンがびまん性に細胞質に陽性,α-SMA が一部で細胞質に陽性,S-100 と CD34 は陰性,浮腫状の間質部で alcian blue が陽性であり,虚血性筋膜炎と診断した。本疾患は,高齢者や寝たきり患者に多く健常成人にはまれであるが,近年若年者での報告例が散見されている。本疾患の診断には,慢性的な圧負荷のエピソードがないか問診時に注意することと,病理組織学的検査が重要である。(皮膚の科学,24 : 14-19, 2025)

  • ~関西医科大学総合医療センターにおける15例の検討~
    小林 里佳, 岡本 千明, 山科 茉由, 津田 真里, 四十万谷 貴子, 寺井 沙也加, 槇村 馨, 谷村 裕嗣, 志賀 淑子, 清原 隆宏
    2025 年 24 巻 1 号 p. 20-26
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    乳房外パジェット病の標準治療は十分な切除マージンによる外科的切除であるが,肛門や尿道の切除に伴う人工肛門や尿路変更などにより,著しく QOL を損なうことも多い。手術不能の乳房外パジェット病に対して放射線治療が選択されることがあるが,まとまった報告は少なく,根治的放射線照射の意義は確立していない。本人希望や認知症などの理由で放射線照射を選択した15例について報告する。平均年齢は80.1歳で,男女比は 4 : 11 であった。平均放射線照射量は 55.4 Gy で,照射後の平均観察期間は31.1ヶ月であった。全例において, 6ヶ月後には病変は肉眼的に消退した。経過中の再発は5例で,平均16.8ヶ月時であった。3例は局所再発に対する放射線照射や切除で,その後再発なく経過している。その他の2例のうち,1例は経過中に肝転移・腹部リンパ節転移を認め,死亡した。もう1例は尿道浸潤があり,膀胱尿道全摘術を施行後,術後腹膜炎で死亡した。根治切除が困難な乳房外パジェット病に対して,QOL 維持の観点から放射線照射は有用である。しかしながら,相応の再発リスクはあり,長期間の経過観察を要すると考える。(皮膚の科学,24 : 20-26, 2025)

  • 森川 和音, 金田 一真, 芳川 た江子, 森脇 真一
    2025 年 24 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    28歳,女性。腹痛で近医外科を受診し,腹部単純 CT で虫垂炎と診断された。その際に右腎の結節影を指摘され当院腎泌尿器外科に紹介受診となり,腹部造影 CT にて右腎細胞癌が疑われ右腎摘出術を施行する方針となった。同時に,以前から上肢や胸部に皮疹があると患者本人の訴えがあり,精査加療目的に当科紹介となった。初診時,前胸部と前腕部に小紅斑が多発していた。病理組織学的に真皮浅層に紡錘形細胞の不規則な増殖を認め,免疫組織学的染色で α-SMA,desmin ともに陽性であったことから,皮膚平滑筋腫(多発性立毛筋性平滑筋腫)と診断した。また,腎腫瘍と多発皮膚平滑筋腫の合併から遺伝性平滑筋腫症腎細胞癌(hereditary leiomyomatosis and renal cell cancer : 以下 HLRCC)1) が疑われた。その後,腎泌尿器科にて右腎摘出術が施行され,右腎腫瘍は病理組織学的に淡明細胞が胞巣を形成し管腔構造を呈しており,免疫組織学的染色で TFE3(+)であることから,腎細胞癌(Xp11.2 転座型)と診断された。遺伝学的検査では HLRCC の原因となるフマル酸ヒドラターゼ(fumarate hydratase ; 以下 FH)をコードする FH 遺伝子変異は同定できなかった。HLRCC は,多発性立毛筋性平滑筋腫に子宮筋腫や腎細胞癌を合併する疾患で,FH 遺伝子に変異が同定されているが,遺伝学的検査で変異が確認できない症例も報告されている。自験例では HLRCC を否定しきれず,当科・腎泌尿器外科にて経過観察中である。HLRCC は稀な疾患であり,今後の症例の集積と詳細な解析が待たれる。(皮膚の科学,24 : 27-32, 2025)

  • 小林 颯太, 速水 拓真, 加藤 美和, 高橋 聡文, 藤本 徳毅
    2025 年 24 巻 1 号 p. 33-39
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    74歳,男性。初診の4ヶ月前より頭頸部と両大腿の紅斑が出現し,前医より皮膚筋炎を疑われ当科を受診した。Gottron 徴候,近位筋の筋力低下,血清CK 値上昇,筋電図変化,抗 TIF1-γ 抗体陽性,筋生検で筋炎の病理所見を認めたため,抗 TIF1-γ 抗体陽性皮膚筋炎と診断した。下部消化管内視鏡検査で直腸部に2型進行癌を認め,嗄声も併発したため,早期の治療介入が必要と判断しプレドニゾロン(PSL)を 80 mg/日で開始した。PSL 内服約2週間後に,直腸癌の手術に合わせて1週間で 20 mg/日まで急速に漸減した。術後は PSL 80 mg/日へ戻す予定をしていたが,血清 CK やアルドラーゼ値が改善したため,手術後の PSL 増量は要さなかった。悪性腫瘍合併皮膚筋炎では一般的に,筋炎の治療を待てる場合は,悪性腫瘍の治療を優先することが推奨されている。悪性腫瘍合併の抗 TIF-1γ 抗体陽性皮膚筋炎の報告例のうち,腫瘍切除前に 投与を開始した報告は2例のみであった。本症例の経過を踏まえると,PSL を導入せずに悪性腫瘍切除を待てるかどうかの一つの指標として,嚥下障害あるいはその予兆としての嗄声の出現を目安とすることが検討されるものと考える。しかしながら,腫瘍切除前に PSL 投与を開始した例は報告が少なく,悪性腫瘍合併皮膚筋炎に関する治療のプロトコールやタイミングについて,今後もさらなる症例の蓄積が必要と考える。(皮膚の科学,24 : 33-39, 2025)

  • 力武 里菜, 山田 昌弘, 塚本 雄大, 高橋 聡文, 森谷 鈴子, 藤本 徳毅
    2025 年 24 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    62歳,男性。左頬部に一部発赤と熱感を伴う皮下結節を認めた。超音波検査では,境界明瞭で内部モザイク状の低エコー領域を認め,後方エコーの増強と側方陰影がみられた。MRI 検査では,腫瘤内部の性状が二分しており,深部は T1,T2 強調画像で共に低信号,浅部は T1 強調画像でやや低信号と等信号の領域に分かれており,T2 強調画像で高信号を示した。粉瘤と診断し,感染徴候が軽快した後,全切除術を施行した。病理組織学的には,異型上皮細胞が篩状構造や微小乳頭構造を形成して増殖し,一部で著明な粘液貯留の中に腫瘍細胞が浮遊していた。他臓器に原発巣を認めず,皮膚粘液癌と診断した。その後,拡大切除とセンチネルリンパ節生検を施行したが,拡大切除範囲に腫瘍の残存はなく,センチネルリンパ節への転移もなかった。術後,約3年間で局所再発および遠隔転移を認めていない。皮膚粘液癌の鑑別診断の一つに endocrine mucin-producing sweat gland carcinoma(EMPSGC)があるが,近年 EMPSGC が皮膚粘液癌の前駆病変であるという考えが提唱されている。自験例は,HE 染色と免疫組織化学染色の結果より EMPSGC から発生した皮膚粘液癌である可能性を考えた。超音波検査や MRI といった画像検査は,切除前に腫瘍の大きさや深さ,内部の性状などが観察できるため有用である。皮膚粘液癌は粉瘤などと誤診されやすく,自験例のように MRI において腫瘍内部の性状が不均一であるなど矛盾点があれば,切除前に皮膚生検を行ってもよいと考える。(皮膚の科学,24 : 40-46, 2025)

  • 西田 美央, 古川 福実, 島本 純子, 深田 寛子, 安齋 尚之, 深野 華子, 宮本 友司, 石井 則久
    2025 年 24 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    76歳,男性。高槻赤十字病院血液腫瘍内科でキャッスルマン病と溶血性貧血の加療を長年にわたり受けていた。主たる治療はステロイド内服,トシリズマブ点滴であった。また,循環器内科では胸部大動脈瘤も指摘されていた。初診1ヶ月前より出現した左上肢の浮腫の経過フォロー中に,左肘部,右肩部に出現時期不明の発赤を伴う皮膚潰瘍がみられた。皮膚感染症やリンパ腫を疑い右肩部の病変部の皮膚生検を行った。病理組織学的には,壊死性類上皮肉芽腫とともに,Ziehl-Neelsen 染色で多量の抗酸菌が認められ,Mycobacterium shigaense が分離・同定された。本菌は2009年に滋賀県にて初めて報告された,比較的新しく稀な非結核性抗酸菌であり,本症例で10例目の報告となる。系統学的に M. simiae に近いため,今まで誤認されていた可能性がある。自験例を含めて今まで10症例が報告されている中で, 5症例において,患者の居住地が滋賀県であると確認されており,地域特性が非常に高い。大阪府での報告例も3例あり,琵琶湖唯一の流出河川である,淀川の河川水からも本菌が分離されている。病原性は明らかではないが,本例では免疫抑制状態や生物学的製剤の使用が発症リスクとして考えられる。本菌は M. simiae とは抗菌薬感受性が異なるために,分類不能な非結核性抗酸菌症を念頭に置く必要がある。(皮膚の科学,24 : 47-51, 2025)

  • 加藤 美和, 高橋 聡文, 内山 和之, 力武 里菜, 藤本 徳毅
    2025 年 24 巻 1 号 p. 52-55
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    53歳,女性。以前から頭頂部右側を搔破する癖があり,同部位に境界明瞭な隆起性病変を自覚していた。病変の結節内部に硬結を触知し,圧痛があったが感染徴候はなかった。切除術および全層植皮術を施行した。病理組織学的所見では好塩基性に染色される石灰沈着がみられ,その周囲には著明な膠原線維の増生が認められた。血清カルシウム,リンが高値でないこと,副甲状腺機能異常や膠原病などの基礎疾患がないこと,病理組織所見で石灰化を認めたことより瘢痕内に生じた dystrophic calcinosis cutis と診断した。熱傷,褥瘡,外傷から発生した例は報告されているが,自験例ではこれらを示唆する病歴はなく,数年間に及ぶ嗜癖的掻破により惹起されたと考えた。(皮膚の科学,24 : 52-55, 2025)

  • 大迫 彩乃, 宇田 絵美, 角田 佳純, 猿喰 浩子
    2025 年 24 巻 1 号 p. 56-60
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    77歳,女性。左頬部の腫脹を主訴に近医歯科を受診した。左耳下腺炎が疑われ抗菌薬加療が開始されたが改善がみられず,当院口腔外科に紹介受診となった。CT 画像で左耳下腺は著明に腫大しており,入院加療となった。化膿性耳下腺炎として抗菌薬加療およびドレナージがおこなわれた。ドレーン挿入部より皮膚潰瘍が徐々に拡大したために,頸部のデブリードマンが連日おこなわれたが,さらに壊死範囲が拡大し当科に紹介となった。当科初診時,左頸部に 11.5×8 cm 大の辺縁が堤防状に隆起した不整形潰瘍を認め,細菌培養では Klebsiella pneumoniae ssp pneumoiae が検出された。潰瘍辺縁からの病理組織では真皮から皮下にかけて高度の好中球浸潤が認められた。壊疽性膿皮症と診断しプレドニゾロン 30 mg およびミノサイクリン 200 mg 内服を開始したところ,潰瘍はすみやかに縮小を認めた。耳下腺部および頸部に生じる壊疽性膿皮症は稀であり,拡大する潰瘍には早期から皮膚科医の介入が必要であると考えた。(皮膚の科学,24 : 56-60, 2025)

  • 冨尾 颯生, 藤本 萌, 吉村 亜紀, 藤森 なぎさ, 小澤 健太郎
    2025 年 24 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    77歳,女性。初診3ヶ月前より左頬部に結節が出現し,増大したため当科を紹介受診した。初診時,左頬部に 11 mm 大の表面平滑で毛細血管拡張を伴う淡紅色結節を認めた。皮膚生検では,真皮に小型の好塩基性の腫瘍細胞が密に増殖していた。免疫染色で CK20,Chromogranin A,Merkel 細胞ポリオーマウイルスが陽性,TTF-1 が陰性であり,Merkel 細胞癌と診断した。全身検索で明らかな転移は認めなかった。高齢で認知症を有しており,センチネルリンパ節生検や拡大切除術は施行できなかった。5 mm マージンで切除を行い,原発巣周囲と左頚部リンパ節領域に対して,術後放射線療法を施行した。術後3年が経過したが転移や再発を認めない。Merkel 細胞癌は一般に予後不良であり拡大切除術及びセンチネルリンパ節生検が推奨されているが,放射線感受性が高いため術後放射線療法を併用することで,本症例のように十分な切除マージンが確保できない例でも再発リスクを低下させることができる可能性がある。(皮膚の科学,24 : 61-65, 2025)

  • 藤島 智慧子, 小倉 香奈子, 武田 有生, 藤井 洋介, 長尾 愛, 田井 忠正, 長野 徹, 川端 智也, 池田 実香
    2025 年 24 巻 1 号 p. 66-73
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    37歳の女性。初診の6年前と3年前に,非吸収性フィラーである AQUAlift○R の挿入による乳房増大術を受けた。AQUAlift○R に感染をきたし,加療している経過中に,低アルブミン血症,全身性浮腫と両側性胸水を呈した。感染症が軽快していると思われる中で低アルブミン血症が増悪したことや,AQUAlift○R と思われる異物を取り囲む被膜の病理組織像で強い肉芽腫性変化がみられたことから,ヒトアジュバント病ないしアジュバント誘発自己免疫/自己炎症症候群が疑われた。非吸収性フィラーはコポリアミドと食塩水からなる親水性ジェルとされ,体内移動や感染,腫瘤形成といった難治性の合併症の報告が相次いでいる。非吸収性フィラーに含まれるコポリアミドがアジュバント活性を有する可能性が考えられる。また,非吸収性フィラーにおいてヒトアジュバント病ないしアジュバント誘発自己免疫/自己炎症症候群を発症した場合は,周囲の組織に浸潤・移動していくという特性から除去が困難であり,治療に難渋すると想定される。(皮膚の科学,24 : 66-73, 2025)

  • 川島 晴菜, 種村 篤, 井上 栄美, 松村 裕, 外村 香子, 清原 英司, 石塚 洋典, 越智 沙織, 武田 力, 藤本 学
    2025 年 24 巻 1 号 p. 74-79
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
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    粘膜に 2 cm 大の一部潰瘍を伴う腫瘤を生検し悪性黒色腫と診断した。拡大切除とセンチネルリンパ節生検を施行し,外陰粘膜原発悪性黒色腫 pT4bN2aM0 Stage IIIC(AJCC 第8版),PD-L1>90%,BRAF 野生型と診断した。術後補助療法としてペムブロリズマブ(400 mg/回)点滴静注を4コース施行したが多発リンパ節転移が出現した。ニボルマブ(80 mg/回)点滴静注・イピリムマブ(135 mg/回)点滴静注の併用療法を4コース完遂したが肝転移の出現とリンパ節転移の増悪を認め,一次無効例と考えた。肝転移病変に対し肝動注化学塞栓療法,リンパ節病変に対し放射線治療(80 Gy/20 Fr)を行いながらカルボプラチン(563 mg/回)点滴静注・パクリタキセル(298 mg/回)点滴静注を4コース施行し,一旦転移巣は縮小したが肝転移が増大した。がん遺伝子パネル検査で,KIT L576P 変異と KIT の増幅を同定したため,イマチニブ(400 mg/日)内服を導入した。イマチニブ投与開始後,13ヶ月間肝転移巣は増大せず,一定の予後延長効果があった。原発巣の免疫染色により Cold tumor 状態であることが示唆された。免疫チェックポイント阻害剤(Immune- checkpoint inhibitor : ICI)が一次無効の場合,KIT 遺伝子変異の有無及び変異部位を解析することは,KIT 阻害剤の導入を考慮する上で重要と考える。(皮膚の科学,24 : 74-79, 2025)

本邦皮膚科学の足跡を辿る会 第2回例会プロシーディング
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