皮膚疾患と糖代謝との関係については古くより注目されて, いろいろの分野にわたつて追求され, 学野に多くの文献報告を得ている。
私は湿疹様疾患を中心として, その他外因性皮膚炎, 急性および慢性蕁麻疹, 皮膚騒痒症, 中毒疹, および薬疹に就いて, 血糖値を測定し, 同時に肝機能状態を検査した。また餅過敏症の症例に遭遇したので, それ等にも, 血糖値および肝機能状態を検索すると同時に, 古来皮膚病に禁忌とされている餅の何による現象なるかを究明せんとして, 餅およびその抽出液にて, 種々実験を行つたが, 結論づける事は出来なかつた。動物実験は上記疾患になぞらえて, 家兎に, Arthus反応, Croton油皮膚炎, および肝障碍をおこさせ, 皮膚病的所見を観察しながら, 血糖値および肝機能状態を検した。成績は次の様である。
1. 急性湿疹群は, 低血糖例が多く, 慢性湿疹群には, 肝機能障碍例が比較的多く, 血糖値は, 高血糖を示す例が多かつた。
2. 外因性皮膚炎群は, 血糖値は高く, 肝機能障碍を合併している例が多かつた。
3. 蕁麻疹では, 急性型は肝機能障碍をともなうものは少なく, 血糖値も比較的高い例が多かつたが, 慢性型にあつては, 肝機能状態わるく, 実質性反応陽性を示す例を多くみた。また血糖値は, 低血糖例が主であつた。
4. 皮膚騒痒症は, 血糖値高く, 中毒疹および薬疹は肝機能状態わるく, 血糖値も過血糖値を多く示した。
5. 動物実験に於いては, Arthus反応は, 反応度および抗体価の高いもの程低血糖の傾向を示したが, それ等には, 著しい肝機能障碍は見られなかつた。
6. これに反し, Croton油皮膚炎は, 肝障碍を伴なう例多く, 比較的高い血糖値を示した。
7. 肝障碍例は, Arthus反応は抑制され, 血糖値の動揺は少なかつたが, Croton油皮膚炎の場合は非障碍群より皮膚所見および肝機能状態は増悪し, 更に高血糖値を示し, 皮膚所見の恢復も緩慢であつた。
8. 餅過敏症の3名, 過血糖を示し同時に肝機能障碍を伴なう患者3名, 餅により何等の変化も見ない常人8名に就いて, 血糖値および肝機能検査を施行してみたが, 騒痒発現との間には, 一定の関係を見出し得なかつた。
9. 水およびエーテル抽出液を投与して試験してみたが, 騒痒発現物質は水抽出液中にある事を知つた。
10. 餅の水抽出液を使用, Prausnitz-Küstner反応を検したが, 陰性であつた。
11. 餅の騒痒物質は, アレルギー反応でなく, コリン, アミン等の化学物質に依る, 薬物作用によるものではないかと憶測した。
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