鶴ヶ島市の2地点で得られた花粉分析資料を再検討し,推定される古植生変遷から約2万年前以降の花粉生層序を設定し,古植生から推定される古気候変遷とグローバルな気候変動と対応を考察した.
IK-F帯は亜寒帯針葉樹林が優勢な寒冷気候を示すが,冷温帯落葉広葉樹の一定の拡大が認められ,下位のIK-E帯よりは寒冷の程度が低い.このことは,約19,000年前の最終氷期最盛期以降,最初の融氷水増加イベント(19kaイベント)に対応する.IK-E帯では,亜寒帯針葉樹林が優勢で,冷温帯の落葉広葉樹は極めて少ない.古気候はもっとも寒冷だった.この帯の中にハインリッヒイベント1と呼ばれる,寒冷化イベントに相当する層準が,含まれる可能性がある.IK-D帯はコナラ亜属を主とする冷温帯落葉広葉樹林が拡大し,ベーリング期~アレレード期にあたる.IK-E帯とIK-D帯の境界での急激な温暖化は,融氷水パルス1A(MWP-1A)と呼ばれる約1,4万年前の温暖化イベントに対応する.IK-B帯,TS-B帯では中間温帯のモミ・ツガ林が拡大する.特にTS-B-2亜帯は,約3.5~2千年前の,いわゆる弥生の小海退に対応する気候変動が認められる.
このように,中部日本の後期更新世から完新世の内陸部の古植生変遷は,グローバルな古気候変動に応答している.
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