バイオメカニズム学会誌
Print ISSN : 0285-0885
33 巻, 1 号
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解説
  • 持丸 正明
    2009 年 33 巻 1 号 p. 2-7
    発行日: 2009年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    子どもの死亡原因の第1位である不慮の事故を低減するための工学的アプローチの必要性について述べる.事故の中でも,危険が潜在的であり,かつ,命に関わる重篤な傷害を引き起こす恐れのある「ハザード」をいかに発見して,いかにして取り除くかについて,病院を基点に網羅的に事故情報を集め,それらを知識化して,環境や製品の改善につなげるという「安全知識循環型社会」の考え方について述べる.これを形づくる工学的研究として,病院を基点にした事故サーベイランス技術,子どもの体形・行動の計測,子どもシミュレータによる事故原因究明の研究について概要を紹介する.また,これらの知識を,安全規格,商品開発,子どもや両親への啓蒙というかたちで社会に循環させる取り組みについて紹介する.
  • 八藤後 猛
    2009 年 33 巻 1 号 p. 8-15
    発行日: 2009年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    社会的経験が少なく,身体機能・認知判断能力の低い乳幼児の住宅内事故の多くは,建築や設備のいわゆる「物的的環境の配慮」によって,その多くは防止できる.しかし,設計計画の基本となる子どもの人体寸法や,実際にとどく高さ,押し引きの力といった基本情報はほとんどない.これらの計測を行ったうえで,幼児の年齢別住宅内安全に関する知見を得た.これまでいわれていた基準や寸法で妥当なものもある一方,これからの課題となる事項も多数存在した.
  • 西田 佳史, 本村 陽一, 北村 光司, 山中 龍宏
    2009 年 33 巻 1 号 p. 16-22
    発行日: 2009年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    その時代の科学技術の発展は,観察技術によって制約される.近年のセンシング技術や情報処理技術の発展によって,日常生活空間に埋め込まれたセンサからの大規模な日常生活データを取得したり,収集したデータを用いて日常生活の説明・再現モデルを構築するモデル構築のパラダイムが可能になりつつあり,日常生活インフォマティクスとでも呼べる新たな科学技術領域が始まろうとしている.子どもや高齢者の住宅内の製品安全といった社会問題は,日常生活インフォマティクスの応用が期待されている典型例である.本稿では,子どもの事故予防の新たなアプローチとして日常生活インフォマティクスを取り上げ,子どもの日常生活行動のセンシング技術,モデリング技術や,それらの応用事例を例示したい.
  • 多田 充徳
    2009 年 33 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2009年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    ここ数年,子供の指はさみ事故に関する報道を耳にすることが多くなってきた.指はさみ事故の特徴として,原因となる製品が我々の身の回りに当たり前のように存在すること,そしてそれにも関わらず安全性に関する指針や基準が必ずしも確立されていないことを挙げることができる.このような背景もあり,近年では指はさみ事故の検証や予防を目的としたダミー実験や数値シミュレーションが行われている.本稿では,国内外の消費者機関で行われたベビーカーやシュレッダーに関する調査研究の内容と,それらから得られた知見を概説する.また,我々が現在進めている指はさみ事故の検証・予防のための取り組みを解説すると共に,それを建具による指はさみ事故の分析へと応用した事例を紹介する.
  • 宮崎 祐介
    2009 年 33 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2009年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    子どもの転倒・転落事故に対する対策は,頻度,重症度の観点から非常に重要である.子どもの転倒・転落事故被害予防を検討する上で重要な点は,実事故に基づいた事故再現を行うことにより,徹底した事故原因究明を行うとともに,それに基づく的確かつ最小限の対策を講じることで,できるだけその環境を保全することである.また,実際に発生した事故は,氷山の一角に過ぎず,それ以外の致命的なハザードを発見し,除去することも必要である.これらの課題を解決する上で子どものデジタル・ヒューマンモデルを活用した事故再現シミュレーションが有効である.本稿では転倒・転落事故解析のための子どものデジタル・ヒューマンモデルの開発およびそれを活用した転倒・転落事故の事故原因究明と対策法の検討について実解析例を交えて紹介する.
  • 水野 幸治
    2008 年 33 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2008年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    子どもは人体計測や解剖学的構造が大人とは異なるため,自動車衝突時に子どもに特徴的な傷害が発生する.子どもの生体力学データは限られているため,大人からのスケーリングによって子どもの傷害基準値が求められている.衝突時に子どもを保護するための拘束装置としてチャイルドシートが用いられており,事故データからもその有効性が確認されている.最近はチャイルドシートの車体への取付方法として誤使用の頻度の少ないISOFIXが普及し始めている.
  • 松本 浩司
    2009 年 33 巻 1 号 p. 42-47
    発行日: 2009年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    折りたたみ式ベビーカーで開閉時に乳幼児が手指を挟みあわや切断という事故が2件相次いで寄せられた.一方,現在販売されているベビーカーの多くはフレームが交差する構造などを有した折りたたみ式のものがほとんどであるが,その折りたたみ可動部分は手指挟み等の危害を招きやすい部分でもある.しかし,危険を回避できない乳幼児が手指をあわや切断するなどの重篤な事故が発生していることから,可能な限り製品自体の安全対策が必要と考えられた.そこで,構造を工夫することで手指挟みを防止できるのか,また,万が一挟まれても傷害の程度を軽減させることができるのかなどを調べ防止策を提案し公表した1).なお,本報は,公表資料をもとに挟んだときの力に応じて変形する模擬指を用いて検討した部分を抜粋したものである.
  • 高柳 敦
    2009 年 33 巻 1 号 p. 48-49
    発行日: 2009年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    近年,遊具による事故が社会問題化している.子どもの遊育を支える,楽しくて安全な遊具を実現するためのアプローチとして,遊具をセンサ化し,子どもが遊んでいる最中にデータ取得できるセンサ型遊具ノボレオンについて述べる.
研究
  • 浅井 康次, 伊藤 聡, 佐々木 実
    2009 年 33 巻 1 号 p. 50-56
    発行日: 2009年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    立位平衡では,不確かな環境条件の下では環境から得られる情報を利用することが必要である.我々は環境変化の情報として床反力を利用するような歩行運動パターンの学習法を提案してきた.そこでは,運動パターンとしてのトルク軌道は基底関数の重み付け和で記述され,その重みの決定が運動パターンの学習と位置づけている.その基底関数としてどのような基底関数を選ぶかは検討すべき課題であった.本研究では三角関数,べき関数,RBF (Radial basis function)を基底関数と考え,それぞれを用いた場合の学習結果を歩行シミュレーションに基づいて比較した.結果として,三角関数とRBFにおいて基底関数としての有効性を確認することができた.
  • 蜂谷 正泰, 鈴木 聡一郎
    2009 年 33 巻 1 号 p. 57-63
    発行日: 2009年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    近年,実用化が進められているヒューマノイドの多くはフィードバック閉回路により制御されている.このような制御手法は軌道計画が複雑なうえ,エネルギ効率や任意環境への適応性等に多くの問題を抱えている.これらの問題の解決策として受動歩行が注目されているが,その歩行の安定化理論は未だ明らかにされていない.本研究では,ヒトの歩行解析結果を基にヒトと同様に三次元的な体重移動が可能な足部を有する受動歩行ロボットを実際に設計・製作し,実験的に歩行の安定化条件を検討した.さらに,歩行路性状が変化する任意の環境下においても常に安定した歩容を獲得するため,強制引き込み現象を利用した準受動歩行ロボットをモデル化し,その制御手法について解析的に検討した.
  • 大西 明宏, 江原 義弘
    2009 年 33 巻 1 号 p. 64-72
    発行日: 2009年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    階段の降段時の転倒・転落事故が高齢者に多く,階段事故の予防のためにも高齢者に対応した安全な階段に関する研究が重要といえる.そこで,高齢者を対象としてモーションキャプチャ装置により階段降段の3次元動作分析をおこなった.速いケイデンスで降段するとヒールクリアランスが短縮し,踵軌跡が直線的になりやすいことがわかった.そこで,既報で用いた平均的な歩行と平均から逸脱した歩行を考慮した足の置き方のパラメータによって説明することができる関数からなる数式モデルにより高齢者に対応した安全な階段寸法を算出した.ハートビル法の最低基準の階段寸法についても検証したところ,踏面30cm以上,蹴上げ10cm以下の階段寸法を建築物の容積に許容のある範囲内で採用することが望ましいと考えられた.ただし,長寿社会対応住宅設計指針が住宅内の基準として推奨する階段寸法を検討したところ,容積の許容の面から一般的な住宅に適用するのは困難であると考えられた.
  • 酒井 利奈, 佐藤 祐輔, 糸満 盛憲, 馬渕 清資
    2009 年 33 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2009年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    コンピュータシミュレーションを用いて術前に初期安定性を評価する目的でAI-Hip cementless stemの有限要素モデルを構築した.
    初期条件として(i)大腿骨遠位端を完全拘束,(ii)股関節周囲部における関節合力としてステム近位端に1800Nのステップ荷重を負荷,(iii)大転筋力として大転子より1440Nの荷重を牽引,(iv)捻転を想定し18.9Nmのモーメントを負荷した.
    結果として,AI-Hip cementless stemのマイクロモーションは比較対照ステムのマイクロモーションと同等の低値を示した.AI-Hip cementless stemの応力値は疲労破壊を起こす限界点よりも低値を認めた.
    相対的マイクロモーションと応力値に基づいて判断するとAI-Hip cementless stemは初期安定性が得られている.しかしながら,ステムの安定性の評価を有限要素解析結果のみで判断するのは危険であるので短期の臨床報告を待ち,今後,耐久性試験等の実験結果と併せて比較を行うべきである.
  • 中園 嘉巳, 尾関 広明, 水澤 純一
    2009 年 33 巻 1 号 p. 80-84
    発行日: 2009年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
    マウスに組み込んだPPG(光電脈波計)を製作し,被験者にストレス負荷を与えた場合の循環系指標を計測した.被験者(N = 7)に,暗算試験(MSt: Mental Stress),バルサルバ試験,寒冷刺激 (PSt: Physical Stress)を与え,末梢血流変動に伴うPPG信号を記録し,同時にECG(心電図)も記録した.さらに3)運動負荷後の回復過程 (pEx: post Exercise)も記録した.心拍毎に出現するPPGの陰極大(N: negative peak)を検出して隣接するN-N間隔を測定した.同時にECGのR-R間隔を測定し,両者を1対1対応で比較したところ高い相関(決定係数:R2 = 0.962)が得られた.また,PPGのN波の振幅はMStおよびPStで相対的に減少し,逆にpExでは増加した.結果から,本装置の単独使用でストレス反応のモニタリングが可能であることが示された.
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