我々ヒトを含む霊長類は中心窩(fovea)と呼ばれる超高解像度の部分を持ち,両眼視することによって詳細な情報を得る事ができる.中心窩に投影される光軸方向を視線と呼び,両眼で視覚対象を捕らえる時,無限遠の対象を見る時には視線はほぼ並行となり,それより近い視覚対象を見る時には左右の視線がお互い内向き(鼻向き)に調節される.これを輻湊眼球運動と呼び,この時の内向きの角度を輻湊角という.ヒトにおける両眼中心距離(Inter ocular distance:IOD)は,個人差があるものの成人でおよそ6.5 cm 程度であることから,数 m より遠方の距離に対する輻湊角の変化はとても小さい値となりその差を検出する事ができなくなる.ヒトの奥行や距離の認知は,主に視覚的な情報を手掛かりにしていると考えられており,心理物理実験からも,視覚的手掛かりが優先されて処理されていることが示唆されている.一方で,空間移動を感じさせる視覚や前庭刺激を与えると,輻湊眼球運動が誘発されることから,輻湊眼球運動は,脳内における空間移動の認知を客観的に知る手掛かりになるのではないかと考えられる.
我々の身体運動制御は,視覚をはじめとする種々の感覚フィードバックにより高い精度を実現する.しかし,感覚フィー
ドバックの遅れ時間は150 ms 以上に及び,スポーツや楽器演奏など,迅速な運動の遂行時には有効に機能しえない.そのため,様々な運動制御系は感覚フィードバックに頼らない予測性制御も行っている.本稿では,そうした生体における予測性制御の中でも,スポーツ選手のパフォーマンスにも大きく寄与することが示唆されている眼球運動制御系と,それに付随して機能する焦点調節制御系および瞳孔制御系について解説する.