社会技術研究論文集
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1 巻
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研究論文
  • 吉川 肇子, 白戸 智, 藤井 聡, 竹村 和久
    2003 年 1 巻 p. 1-8
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本稿では,社会技術研究で重要となる安全と安心の概念について,以下の4つの視点から論じた.第1に,安心と安全について,日常的にどのような文脈で使われているかを主に新聞記事をもとに検討した.第2に,それぞれの概念について専門家はどのように考えているのかについて,各分野の安全基準を参照しながら検討した.第3に,以上の検討をもとに筆者らは,安全は技術的に達成できる問題であり,安心とは,安全と大いに関連があるものの,それだけでは達成できない心理的な要素を含むものであると考えた.第4に,安心と安全を能動型と無知型に分類し,社会技術研究で目指すべき能動型安心を達成するあり方を議論した.
  • 山口 健太郎, 船戸 康徳, 藤代 一成, 堀井 秀之
    2003 年 1 巻 p. 9-15
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    現代社会に顕在化する社会問題は,多様な価値基準が複雑に入り組んでいるため,その実効的な解決策を設計するにあたっては,問題を取り巻く多様な価値基準を,適切かつ公正に取り扱うことのできる技術が必要となる.以上より筆者らは,社会問題を3次元構造で表示し,かつ様々な価値基準に基づいた視点から眺めることを可能とさせる「知識構造ビューア」を開発した.知識構造ビューアの開発により,社会問題の階層性や分野ごとの情報の多寡,様々な価値基準によって異なって見える社会問題の構造を一目瞭然に示すことが可能となり,書籍やインターネットの利用時とは異なった形での事実の明示化が可能となった.また本ビューアは,インターネットを通じて誰でも簡単に利用可能であるという特徴がある.
  • 原子力発電所トラブル隠しを題材に
    豊田 武俊, 堀井 秀之
    2003 年 1 巻 p. 16-24
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    著者らは、昨年発覚した原子力発電所トラブル隠し等の信頼失墜に至った不祥事の背景・要因の分析を実施している。調査では、問題の全体像を把握し、本質的な要因を抽出することを目指している。本稿では、研究開始時に、方針や方向性を検討するために実施した問題の全体像の把握手法について紹介する。分析の材料としては、原子力発電所トラブル隠しに関する新聞記事を用い、分析手法としては構造モデル化手法を採用した。この手法により、問題の構造を表わす図を描くことができ、問題分析の方向定め、またインタビュー調査において情報を抽出する上で有用であることが確認できた。
  • 事故調査の問題点を中心に
    中島 貴子
    2003 年 1 巻 p. 25-37
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    1968年に発覚した「カネミ油症事件」は,現在も多様な被害が続いている歴史的な大型食中毒事件である.しかし,社会技術的な視点からの研究はほとんどなされてこなかった.本稿では,本件事故調査の問題点は限られた資料だけからも指摘しうることを示し,事故調査の限界が調査体制の制度的問題と関連していたことを示唆する.そして,食品分野の重大事故における事故調査体制の分析や一次資料の保存の必要性について述べる.
  • 中川 善典
    2003 年 1 巻 p. 38-47
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    審議会や委員会等の議事録に自然言語処理を施し、議事録で扱われている諸論点や、各々の論点において委員会の各メンバーが持つ信念を抽出することにより、意見の対立構造を分析する手法を提案する。こうして得られる情報は世論形成の支援に役立てることができる。
  • 西田 豊明
    2003 年 1 巻 p. 48-58
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本論文では,会話型知識プロセス支援技術の概念的枠組みとそれを実現するための技術について述べる.社会技術研究をネットワーク時代を象徴する動的で複雑な知識創造として位置づけ,現代社会における知識創造に伴う種々の困難を克服するための概念的枠組みとしてコミュニティ知識プロセスを提案し,その要件を示す.次に,社会における相互理解・知識共有・合意形成をシームレスに支援し,運用するための基本コンポーネントとして,映像コミュニケーションツールVMIS,会話エージェントシステムEgoChat,参加型自動放送システムPOC,政策論議支援システムCRANES,及び,それらを統合する枠組みとしての統合的コミュニケーションツールS-POCの概要を述べ,今後の展望を示す.
  • Public Opinion Channelのリスクコミュニケーションへの応用
    福原 知宏, 久保田 秀和, 近間 正樹, 西田 豊明
    2003 年 1 巻 p. 59-66
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    放送型コミュニティ支援システムPublic Opinion Channel (POC) のリスクコミュニケーションへの応用について述べる. リスクコミュニケーションでは市民と企業及び行政との間での円滑な対話と情報共有が重要である. POCはコミュニティ参加者の意見を集め,テレビ番組としてコミュニティに放送することでコミュニティ内の情報共有を促進する.筆者らはこれまでPOCの評価実験を行い教育や社会心理学実験においてPOCの効果を確認した.リスクコミュニケーションにおけるPOCの効果に(1) エピソード共有支援,(2)オンラインリスクコミュニケーション支援,(3)リスクコミュニケーション過程の解明が挙げられる. POCの概念と実装システム, リスクコミュニケーションにおけるPOCの効果について述べる.
  • 社会技術としての政策論議支援
    堀田 昌英, 榎戸 輝揚, 岩橋 伸卓
    2003 年 1 巻 p. 67-76
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本論文は多元主義的アプローチに基づいた政策論議の構造化手法を提案する. 議論の論理的及び言語学的構造を視覚的に表すことで議論の支援を行うシステムはこれまでも社会問題に適用されてきた. しかし議論支援システムを複雑な社会問題の理解に役立てるためには, 互いに対立する事実認識や価値観を抽出し, それらが同時に説得的であり得るような議論を既存の情報から再構築することが必要になる. 本研究で提案する手法は, 多数の議論や情報資源の中から特に複雑でかつ注目に値する一連の議論を抽出するための指針を与えるものである. 本手法は情報システムとして実用化され, 公共的な議論の支援に適用された. 本論文では事例研究の結果と社会技術システム論への含意について述べる.
  • インタフェースエージェントの利用
    中野 有紀子
    2003 年 1 巻 p. 77-84
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    インタフェースエージェントとは,音声言語とキャラクターアニメーションとが統合されたユーザインタフェースであり,擬人化された表現を持つために,人とのインタラクションにおいてさまざまな効果を生み出す可能性を秘めている.本論文では,情報化社会における知識流通をサポートするメディア技術として,インタフェースエージェントを取り上げ,その機能やリスクコミュニケーションへの適用可能性について議論する.さらに,リスクコミュニケーションを目的としたコミュニケーション支援システム,S-POCを紹介し,それに組み込まれているインタフェースエージェントシステムCAST-RISAについて詳しく述べる.
  • 村山 敏泰
    2003 年 1 巻 p. 85-90
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    SPOCシステムは会話エージェントによるマルチメディア, 議論の趨勢, 情報処理・分析などを織り交ぜた会話型コンテンツの作成・提供を目指したシステムである. 会話型コンテンツの作成・提供を目指したシステムにはPOCシステム・EgoChatがありSPOCのコンセプトは基本的に両システムを継承する. POCシステム・EgoChatのコンテンツは画像と100文字程度のテキストからなるPOCカードと呼ばれるカードによって構成される。本論文では会話型コンテンツを構成するカードの要素にWebサービスを導入することによってシームレスに情報処理・分析を織り交ぜた会話型コンテンツの作成, 提供を行うSPOCシステムの提案を行う.
  • 中村 裕一
    2003 年 1 巻 p. 91-99
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本論文では,知識流通を支援するための映像の自動取得と,それを用いた質問応答システムについて紹介する.映像メディアを幅広い分野で知識流通の手段として用いるためには,まだまだ解決すべき課題が多い.映像メディアの取得,その利用の両面から種々の自動処理技術を開発する必要がある.我々は,これらの問題に対し,(1)教示番組の映像撮影・編集,(2)対話的に映像内容を提示するためのデータ構成やそのQA手法について研究を行っており,本論文では,その具体的な内容について紹介する.(1)に関しては,自動撮影のためのマルチカメラ環境とそれを用いてインデックスが高度に付加された映像を得る技術,(2)に関しては,映像に対する利用者の多様な質問に対して応答するQA手法について紹介する.
  • 山田 剛一, 大熊 耕平, 増田 英孝, 中川 裕志
    2003 年 1 巻 p. 100-105
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本研究では,あるトピックについての文書群から,そのトピックに関連する別のトピックの文書群へとユーザを連続的にナビゲートするシステムを開発した.本システムでは複数の新聞記事サイトの横断検索を行い,その結果得られる同一トピックの記事間の差異をユーザに提示することによりナビゲーションを行う.本システムの適用範囲は同一トピックの新聞記事群に限らず,同一トピックについて議論しているドキュメント群一般に適用することができる.例えばある問題について議論しているドキュメント群が存在したとき,本システムを用いることにより,その問題に関連のある情報や,その問題への異なる視点を見つけることができる.
  • 渡辺 光一
    2003 年 1 巻 p. 106-115
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本研究は、会話型知識プロセスに関する広範なニーズとシーズを網羅した実証分析を行う必要があるという問題意識から行なわれた。そのため、インターネットユーザの情報・知識ニーズと利用シーズの傾向を把握するとともに、会話型知識プロセスを指向する層の特徴を調べた。分析結果は、会話型知識プロセス技術の狙いに対応するニーズ構造を裏付けるものとなり、我々の基本的なニーズ仮説が有機的に絡みあっていることを示した。会話型知識プロセス技術の中でも比較的先進的といえる分野についても、普及率が現状まだ低いにも係わらず、潜在的なニーズ構造を抽出することができた。また、実証実験を行なう際には、「業務的会話指向者」を主ターゲットとしつつも、「業務的会話指向者」と「生活・趣味的会話指向者」というユーザ層のニーズ構造の違いに留意しつつ進めるべきことを示した。
  • 星野 准一
    2003 年 1 巻 p. 116-122
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本稿では,没入環境において利用者と仮想人物が会話することによって,事故や災害などの安全に関する知識を体験的に得ることができるシステムについて述べる.本システムでは,利用者が大地震などの災害が起こった都市空間に参加して,仮想的な住人と会話することで,災害時に苦労した体験や,どのような教訓が得られたかを聞くことができる.本稿では,没入型会話空間の概念を説明すると共に,システムを構築するために必要となる対話生成技術について述べる.
  • 炉心シュラウド問題が住民意識に及ぼした影響分析
    藤井 聡, 吉川 肇子, 竹村 和久
    2003 年 1 巻 p. 123-132
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    原子力発電や災害等の様々な社会的リスクに対する人々の認識や態度についての諸研究の中で,近年ではリスク管理者に対する "信頼" の重要性が繰り返し指摘されている.この背景から本研究ではリスク管理者に対する信頼に関わる仮説を提案し,それを,2002年9月に発覚した原子力発電所の炉心シュラウドのひび割れ隠蔽問題の前後に,当該電力会社の電力供給地域の世帯を対象に実施したパネルデータ(n = 200)を用いて検証した.分析より,シュラウド問題によってリスク管理者に対する信頼が低下する,それに伴って原子力発電所を政府がより強く管理することを求める傾向が向上する,ただし,問題後の対応が誠実であったと認識した場合には信頼の低下は生じない,という仮説がそれぞれ支持された.
  • ドイツでの事例を基に
    西澤 真理子
    2003 年 1 巻 p. 133-140
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    ドイツでは80年代頃より環境や食品安全の分野などで,市民を巻き込んでの参加型リスクマネジメントが用いられるようになってきた.現在もその利用は増加している.一方,参加型手法にはまだ多くの課題が残されている.一例は,市民会議で導き出された結論が必ずしも政策決定の際に生かされてないことである.市民参加型手法の受容の難しさは,この「ラディカル」な社会技術が,政治体系,社会構造,行動規範などの社会土壌と相互作用し,多くの場合,摩擦を起こすことが大きな要因と見られる.本論文では市民参加型の手法のドイツでの利用の現状を述べ,ドレスデンでのコンセンサス会議を例に,市民参加型の意思決定方法の課題について論を展開する.
  • 多々納 裕一
    2003 年 1 巻 p. 141-148
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    地震などの自然現象が災害となる過程には,人間の活動が深く関与している.本論文では,この種の災害のリスクと人間行動との関連を整理するとともに,災害リスクのマネジメント戦略に関して考察する.具体的には,災害が低頻度な事象であるということが,災害の発生や脆弱性に関する認知にバイアスを発生させうること,大規模な被害の発生が空間的な相関性の高さを意味することを示し,災害が本質的には局所的な現象であるという特徴を指摘する.このような特色が存在するがゆえに災害リスクマネジメント施策の設計・評価に際して、総合的な施策構成や地域間の相互連携が重要であることを指摘する.その上で,これらの施策の望ましい組み合わせを求めるための方法論上の課題を提示する.
  • 日本への示唆
    城山 英明, 村山 明生, 梶村 功
    2003 年 1 巻 p. 149-158
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    米国の航空事故調査は, NTSBが主導し事故原因の究明と再発防止を図っている.NTSBは,関係当事者から専門的知見を集めるパーティー・システムに基づく調査,実効性の高い勧告システムを特徴とするほか,事故犠牲者や遺族に対する一元的支援も実施する.米国では,航空事故への責任追及の手段としては,個人への刑事訴追は極めてまれであるが,懲罰的損害賠償(民事責任)や高額の民事罰(行政処分)が,本来刑事の有する処罰機能を代替し,航空会社やメーカーなど組織への制裁手段として機能している.日本においても,米国の実態の全体像を踏まえた,航空事故調査体制の充実や法的責任追及のあり方に関する議論が行われることが期待される.
  • 安全法システムの制度設計手法の構築に向けて
    城山 英明, 村山 明生, 山本 隆司, 廣瀬 久和, 梶村 功, 古場 裕司, 須藤 長, 舟木 貴久
    2003 年 1 巻 p. 159-176
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    安全確保が求められる分野の中から,自動車交通,航空交通,住宅地震防災,原子力,医療,医薬品,食品の7分野を取り上げて,法システムの現状の比較整理を行った.比較整理の視点としては,事故情報・不具合情報・安全情報の収集・提供システム,基準設定における国・業界・学会・国際の分担協働,検査実施における行政・民間・国際の分担協働,被害者救済システムの4つを取り上げた.今後,各分野の法システムの共通点・相違点を,社会構造・産業構造・リスク特性等の観点から分析することにより,安全法分野の制度設計手法を構築することが可能になると考えられる.
  • 米国原子力事業を例として
    田邉 朋行, 鈴木 達治郎, 城山 英明
    2003 年 1 巻 p. 177-187
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    米国の連邦原子力安全規制における内部告発者保護制度の導入は,ECP(Employee Concerns Program)と呼ばれる社内通報体制の導入・整備を原子力事業者に対して促した.これを背景に,近年では,規制主体であるNRC(原子力規制委員会)に寄せられる総告発件数は漸次減少の傾向にある.すなわち,米国原子力安全規制における内部告発者保護制度の導入は,規制システムと企業コンプライアンス(遵法)活動との間の好ましい相互作用を生み出したと言える.NRCに比べて相対的に人的資源に乏しい日本の原子力安全規制にとって,こうした相互作用は,殊に大きな意義を有する.日本においても,こうした相互作用を促進する形での施策がとられることが強く望まれる.
  • 日米の航空事故調査を素材に
    服部 健吾
    2003 年 1 巻 p. 188-197
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    「責任追及から逃れるために事故情報を隠す」という事故当事者の証言に対する「萎縮効果」の存在から,事故の原因追究と責任追及の間では情報を分離すべきである.一方で事故原因の特定はどちらにも必要であり,情報の共有はコストを下げる.このディレンマにいかに対処すべきかを考えるために,事故情報の流用の観点から事故調査機関と刑事・行政・民事の事故責任追及制度の関係の日米比較を行い,両国にほぼ同じ運用上の実態があることを明らかにした.しかし,日本では,制度的保障が劣ることから,不確実性が生み出す「萎縮効果」が存在しうる.その点,制度的改善が図られるべきであろう.
  • その機能条件に関する予備的考察
    身崎 成紀, 城山 英明, 廣瀬 久和
    2003 年 1 巻 p. 198-207
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    損害保険は単に損害発生時の金銭的損害の補償的機能によって国民の生活の安定や不安感の軽減に寄与しているだけではなく,加入者・加入物件等の危険度に応じた保険料の割引・割増制度等の保険の仕組みによる事故の予防的機能という社会技術的側面を有しているといえる.今後,社会全体が連携して保険制度を検討し,社会の安全性を高めていく上で,多くの分野において被害者救済・補償システムを確立するとともに,保険が予防的機能を発揮することによって社会の防災機能が充実・整備されることが期待される.
  • 岡本 浩一, 今野 裕之
    2003 年 1 巻 p. 208-217
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    近年の組織事故に関する調査結果は、事故が組織上層部による組織ルール違反や企業倫理違反を容認する公式・非公式の意志決定の産物であることを示している。本稿は、そのような違反を抑止するため、(a)適切な意志決定手続き、(b)企業内の申告(whistle-blowing)を適切に管理するシステム、(c)組織違反を起こしにくい組織風土の査定と管理、について提案するものである。認定基準の根拠については、社会技術研究システム社会心理学研究グループによる実証的知見(本誌掲載)および現在行われている研究によって示される。さらに、このようなシステムの実現可能性についても議論された。
  • 組織属性・個人属性との関連分析
    上瀬 由美子, 宮本 聡介, 鎌田 晶子, 岡本 浩一
    2003 年 1 巻 p. 218-227
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本研究では,組織における違反の現状を明らかにするとともに,組織や個人の属性との関連を分析することを目的としている.サンプリングによって抽出した492人の成人男性の回答を分析した結果,組織的な違反を容認し不正をかばいあう雰囲気は全体の約1割,組織的違反を実際に経験したものは1割前後であった.違反容認の雰囲気が低かったのは大企業や公的機関であり,これらの組織に所属する回答者は違反に対する抵抗感も高かった.また年齢と,転職・転勤などの経験も違反に対する態度に影響を与えていた.
  • 宮本 聡介, 上瀬 由美子, 鎌田 晶子, 岡本 浩一
    2003 年 1 巻 p. 228-238
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本研究では,組織の制度やコミュニケーション形態が,組織内成員の違反意識・違反経験に与える影響を明らかにすることを目的とした.ランダムに抽出された750人が回答を求められた.回収率は57.2%だった.分析の結果,危機管理マニュアルや就業規則手帳,社内不正を相談できる外部システム,内部告発者保護制度などが違反意識を抑える方向に影響していた.またコミュニケーション形態の分析からは,職場内で社員を孤立させないことが,違反意識を抑制する上で重要であることが示唆された.組織が成員の違反意識を抑制するシステムについて,社会技術的な視点から議論された.
  • 『属人思考』の概念の有効性と活用
    鎌田 晶子, 上瀬 由美子, 宮本 聡介, 今野 裕之, 岡本 浩一
    2003 年 1 巻 p. 239-247
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    組織風土が組織の違反に与える影響について、主として組織風土の「属人思考」に着目し、質問紙調査の手法を用いて検討した。組織風土の属人思考 (属人風土) とは、事柄の評価において「人」情報を重要視する組織風土を示す。研究1 (N=310) では、組織風土が違反容認に与える影響について検討を行い、属人風土が組織的違反の容認に影響を及ぼすことを明らかにした。研究2 (N=492) では、研究1の結果の信頼性の確認を行い、属人風土では実際に違反件数が多いことを示した。研究3 (N=369) では、個人の属人思考の特徴について心理学的検討を試みた。違反防止のための心理学的アプローチについて考察した。
  • 堀 洋元, 上瀬 由美子, 下村 英雄, 今野 裕之, 岡本 浩一
    2003 年 1 巻 p. 248-257
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本研究では,職場における違反と個人特性との関連について明らかにすることを目的としている.サンプリングによって抽出された501名の有職者男女の回答を分析した結果,1)職場において3割から5割の人が個人的違反を経験しており,不正かばいあい経験は1割前後,不正の非難・回避経験は2割前後存在することが明らかになった.2)職場における違反と個人特性との関連を検討した結果,違反に対する抵抗感には自尊感情や関心の狭さが,違反経験には公的自意識や認知的複雑性が影響を与える個人特性として特定された.個人特性は本来変容しにくいものとしてとらえられているが,変容可能なソーシャルスキルとして置き換えることによって,職場における違反抑止のための心理学的装置として応用可能である.
  • 下村 英雄, 堀 洋元
    2003 年 1 巻 p. 258-267
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本研究では,職業威信に関する先行研究を検討することによって,安全性拡充のための社会心理学的な装置の可能性を探索することを目的とした.まず,従来の職業威信に関する社会学的な研究を検討した.その結果,職業威信は各国間,世代間で不変であるという特徴がみられた.次に,職業威信に関する社会心理学的な研究を概観した.社会心理学では,職業威信はおもにジェンダーやキャリアガイダンスとの関連で論じられていた.最後に,認知された職業威信として,自分の職業に対する誇りの変数に焦点を当てた.いくつかの調査研究をもとに誇りの変数が,年齢や性別によって異なること,違反や事故と関連がみられる可能性があることなどを論じた.
  • 王 晋民, 宮本 聡介, 今野 裕之, 岡本 浩一
    2003 年 1 巻 p. 268-277
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    内部告発は組織における不正行為を暴露して制止させるだけではなく,新たな不正行為を抑止する効果がある.内部告発は内部告発者本人の動機付けと第3者の内部告発に対する許容度の2つ側面がある.前者は潜在的な告発者の告発行動を起こす意向で,後者は,社会や組織構成員の内部告発・内部告発者に対する態度からの影響である.適切な内部告発を推進する環境や内部告発に関する効果的な教育プログラムを作るために,本研究は内部告発行動や内部告発及び告発者に対する態度に対する個人特性・組織特性の影響について社会調査で調べ,その結果に基づいて社会心理学の視点から内部告発に関する制度や教育プログラムに対する提案を試み,内部告発に関する社会心理学研究の役割と方向について検討した.
  • 会議のシミュレーション
    足立 にれか, 石川 正純, 岡本 浩一
    2003 年 1 巻 p. 278-287
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    この数年来,組織ぐるみの不正など企業による不祥事が次々と発覚し社会に大きな影響を与えてきた.組織ぐるみで不正行為容認に至る過程は複数考えられるが,本研究では,会議など話し合いで用いられる決定手続きに注目した.具体的には,慣習的な手続きで利用され得る<多数派>の形成と,その案件採択率への影響について数値シミュレーションにより探索的に検討した. <多数派>形成に大きく関わる要因として,特にメンバーの発話態度,決定ルールおよび集団サイズを取り上げ,状況に応じた適切な手続きおよび対策について論じた.
  • 岡部 康成, 今野 裕之, 岡本 浩一
    2003 年 1 巻 p. 288-298
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    近年,企業における組織的な不正行為や労働災害の背景要因として,遵法意識や安全意識などの心理的要因が取り上げられることが多い.そのため,組織は,これらの心理的要因を管理する必要性に迫られている.しかし,これまでに用いられてきた質問紙による測定だけでは,遵法や安全に関わる心理的要因を正確に測定できない可能性がある.そこで,本研究では,近年の不正や労働災害の動向やこれまでの安全態度に関する研究から,不正行為や災害の防止のためには,潜在態度を測定することの必要性を述べた.そして,潜在態度の測定方法の紹介し,この測定方法が不正行為や労働災害の防止策として,どのように利用可能であるか論じた.
  • 古田 一雄, 前原 基芳, 高島 亮祐, 中田 圭一
    2003 年 1 巻 p. 299-306
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    社会的決定においては公衆の参加による社会的合意形成への要望が高まる一方,インターネットの急速な展開にともない,電子掲示板などを用いた電子会議が社会的合意形成に一定の役割を果たすようになった.本研究では,こうした電子会議を用いた合意形成における参加者の発言内容や会議の進行に対する理解を深め,円滑な合意形成を支援するために,会議発言録から話題を抽出し,要約を作成して参加者に提示する手法を開発した.さらに開発手法を組み込んだ電子会議システムTSS (Transcript Summarization System)を開発し,既存の会議発言録を用いて機能確認を行った.
  • 居住地域および知識量に着目した比較分析
    木村 浩, 古田 一雄
    2003 年 1 巻 p. 307-316
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,人々が原子力政策の賛否を判断する際に,居住地域や原子力に関する知識量によって,その判断に寄与する要因がどのように異なるのかを明らかにすることである.その目的のために,まず,消費地域3個所と電源地域2個所において原子力に関する社会調査を実施し,その収集データに因子分析を用いて,原子力に関する4つの認知要因を見出した.この結果を基に4つの認知要因尺度を作成し,相関分析の手法を用いて認知要因と原子力政策に対する賛否の判断との間にどのような相関関係が存在するのかを回答者の居住地域や知識量に着目して比較分析を行った.その結果,居住地域によって賛否の判断と大きな相関を持つ認知要因が異なり,その違いは知識量によって埋められていないことが示された.
  • 大野 晋, 城山 英明
    2003 年 1 巻 p. 317-326
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    日本の化学プロセス安全規制には3つの問題がある。第1は、主務官庁の縦割り構造である。化学プロセスは技術的には1つのシステムで管理されるが、適用される法規制は、複数の省庁の法令で規制されている。第2は、技術基準の品質管理である。法令が詳細を規定しているため、改定は遅れぎみであり、技術の進歩の妨げなっている。第3は、民間第三者機関の役割が不十分である一方国家の役割も制限的であることによる不十分な規制実施体制である。以上の分析を基礎に、技術的知見を速やかに基準に反映し、また、基準の妥当性を評価する第三者民間監査機関の役割の拡充強化を提案する。
  • 企業はリスク・コミュニケーションをどのように捉えているか
    小島 直樹
    2003 年 1 巻 p. 327-337
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    本研究はプロセス産業のリスクマネジメントにおいて十分な認識と体系化がされていないリスクコミュニケーション活動について、その実態を調査し、今後に応用可能なモデルの探索、仮説導出のための基礎となる知的基盤を構築することを目的として、アンケート調査及びその結果の因子分析により実施された。本研究によるアンケート調査の結果、プロセス産業におけるコミュニケーション活動の特徴として、(1)文書によるコミュニケーション活動に積極的である、(2)近隣住民との直接コミュニケーションには消極的である、(3)リスク情報の提供には消極的であること、が抽出された。
  • 村山 明生, 古場 裕司, 舟木 貴久, 城山 英明, 畑中 綾子, 阿部 雅人, 堀井 秀之
    2003 年 1 巻 p. 338-351
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    耐震性に関する既存不適格住宅について,その耐震診断,耐震補強の実施を促進させるための新たな制度的対策の研究を行った.新たな制度的対策として,中古住宅売買/賃貸時説明責任制度,沿道既存不適格建築物耐震改修補助制度,生命/損害保険耐震性割引制度,中古住宅耐震性価格査定制度,減災耐震改修促進制度,地震倒壊危険建築物利用制限制度の6つを抽出した.研究方法として,原因仮説体系の設定,ユーザー意識インターネットアンケート調査による原因考察,対策現状を踏まえた新たな制度的対策の考案,ユーザー意識インターネットアンケート調査による効果考察,法的観点からの妥当性評価を行った.
  • 吉村 美保, 目黒 公郎
    2003 年 1 巻 p. 352-357
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    東海地震の地震予知情報の公開体制は予知が「空振り」終わった場合に社会的影響が大きい事前対応を定め, 結果的に予知の「空振り」が許容されにくい環境と不確実性の高い情報の公開を困難とする状況を生みだしている. 現在, 地震発生確率情報を伴う全国的地震動予測地図の作成が進められており, 地震予知情報の活用方法の検討は社会的に重要な意味を持つ. 本研究では, わが国の地震防災上の最重要課題が既存不適格構造物の耐震化であることを踏まえ, 長期地震予知情報に着目し, 地震発生確率を用いて耐震補強対策の実施効果を評価する手法を提案する. そして静岡県下の住宅への耐震補強対策が東海地震に対して発揮する効果を評価し, 本手法が既存不適格構造物の耐震化促進に効果的に活用できる可能性を示す.
  • 清野 純史, 古川 愛子
    2003 年 1 巻 p. 358-366
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    兵庫県南部地震での住宅の全壊は11万戸以上に及び, 6400人にも及ぶ死者と4万人以上の負傷者を出した. 兵庫県内の死者5,480人のうち家屋・家具類等の倒壊による圧迫が4,823人で全体の88%を占め, 倒壊した家屋の大部分は老朽化した木造家屋であり, 倒壊しやすくなっていたものと思われる. しかし, 事前の耐震対策の必要性を, 実際に被害を被った当事者側が十分に知りえたかどうか, すなわち, 自分の家がどのように壊れ, そして家屋内にとどまっていた場合にはどのような形で負傷するのかという情報を十分に知りえたかどうかは疑問が残るところである. 本論文では, 地震時に木造建物がどのような挙動をするのか, またその建物が倒壊することによって人的被害がどのように発生するのかを視覚的かつ定量的にわかりやすく提示するための方法論について述べる.
  • 堀 宗朗, 市村 強, 寺田 賢二郎
    2003 年 1 巻 p. 367-373
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    地震防災を促進するためには個人の防災意識の向上が重要であるが, 防災意識は十分なレベルに達していない. これは地震のリスクが主観的に認識されていることが一因である. 一方, 天気予報は高い信頼度を得ており, 気象現象の理解の度合いやリスクを客観的に認識する度合いが高い. 本論文は気象情報の生成・伝達技術の高度化やそれに伴う気象情報の信頼度の向上を文献調査したものである. 調査結果を基に, 地震情報の生成・伝達の現状を整理し, 気象情報の生成・伝達と比較することによって, より効果的な地震情報の生成・伝達技術を考察した. この結果, 生成される情報の質は勿論, 誤りも含め情報生成の過程も示し, 複雑な現象とその予測技術の限界を正しく理解させることが必要であるとの結論を導いた.
  • 高橋 清, 加藤 浩徳, 高野 裕輔, 寺部 慎太郎
    2003 年 1 巻 p. 374-382
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    2002年に日本は, 交通事故死者数ピーク時と比較し, 半数にまで削減した. しかし, これはあまりに酷い状況から抜けたということで犠牲者の多さに変わりはなく, 今後, 高齢化が進む社会状況を考慮すると予断は許されない. 一方, 海外に目を向けると, 英国では近年大幅な事故犠牲者の削減に成功してきた. そこで, 英国の削減要因を調査したところ, 事故削減期と1980年代のサッチャー政権以降の行政改革が推進されてきたことが同時期であり, 交通安全政策を行う体制と制度が共に変化を遂げたことがわかった. 本稿では, そうした削減要因を具体的に明らかにし, 英国を参考として今後の日本における新たな交通安全政策の方向性を検討する.
  • 渡部 生聖, 林 同文, 今井 靖, 光山 訓, 瀬戸 久美子, 新谷 隆彦, 橋口 猛志, 野口 清輝, 真鍋 一郎, 戸辺 一之, 山崎 ...
    2003 年 1 巻 p. 383-390
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    ミッションプログラム医療安全研究グループにおいては, 日々の診療で膨大に発生する各種の診療情報から, 情報処理技術の適用により医学的知見を抽出し, その知識を国内で共有化する為の汎用的な手法について研究を行っている. 研究にあたっては, 倫理面に配慮された適切な情報収集・管理手法によって得られた実際の診療情報を, 医学と工学, それぞれの専門家が共同で体系化することにより, 臨床的に有用な知見を得るにいたっている. これらの医学的成果及びその普及手段としての技術的成果を併せて報告する.
  • 小松崎 俊作, 橋口 猛志, 堀井 秀之
    2003 年 1 巻 p. 391-403
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    社会技術によってもたらされる社会の変化を推定するプロセスである影響分析は, 社会技術によって社会問題が解決されることを確認し, また意図せざる結果などの悪影響を防ぐために, 社会技術の設計段階において実施することが重要である. 本研究では,シナリオ・因果ネットワーク・インタビュー調査を用いた影響分析の手法を提案し, リアルタイム診療ナビゲーションシステムに対して適用を試みた. その結果, リアルタイム診療ナビゲーションシステムによってどのような目的が達成され, 逆にどのような悪影響が起こりうるのかのかが明らかになった. さらに, その悪影響を防ぐために必要な対策を挙げることができた.
  • 特に法的責任の観点から
    畑中 綾子
    2003 年 1 巻 p. 404-413
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/08/19
    ジャーナル フリー
    多発する医療事故を受けて, 各業界では事故情報を収集・分析する機関を設立し, 将来の事故予防に役立てようとの試みが見られる. 事故情報の収集によって真の原因が究明されることが期待されるが, これは一方で収集した情報が法的責任追及の場で如何に利用されるかの問題ともなる.本稿では, 日本の事故情報収集システムに期待する機能を明らかにすべきであると考え,刑事, 行政, 民事それぞれの法的責任の観点から, 米国との比較検討及び分析を行った. 事故情報収集システムの機能は, 真の原因究明による再発防止と医療機関への情報支援による医療の質の向上にあるとしたうえで, 医師患者間の情報格差の是正, 国民全体による医療安全への関与, 民事責任と刑事責任の振り分けなどの点から考察を加えた.
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