まず第1報で求めた潮位の偏差の海域別平均値dhf(月平均),dHf(年平均)を1966年までのデタを加えて再計算し,海況と潮位の関係についての前報の結果を再確認した. 次に補正潮位hr(月平均)およびHr(年平均)を=h-Δha-ΔhfHf=H-ΔHfで計算した.ここに,h,Hは気圧の静力学的な影響を-10mm/mbとして取除いた月平均および年平均潮位,Δhaは前報で求めた平均年周変化である. hrあるいはHrはΔhfあるいはΔHrを計算する地点を適当に選べば,気象および海況の変化によると考えられる共通の不規則変化が取除かれ,短周期の土地の昇降が広い地域にわたつて一様に起つていないという仮定のもとに,それぞれの地点における土地の昇降をほぼ示すものと考えられる.1951~1965年の補正潮位の平均年変化量をこの期間の記録がほぼ完全であつて,人為的な沈下の影響がないと考えられる全国33箇所について平均すると-2.7±1.0mm/年(潮位低下あるいは土地の隆起)となつた.記録の不完全な地点も加えた計62箇所の平均年変化量の地域的な分布は,北海道および本州東岸で潮位上昇(沈下),その他は局地的な沈下を除き大部分潮位低下(隆起)となつている. 各地の補正潮位の変動を図に示した.この図をみると見掛けの周期が数年,全振幅数cm位のゆつくりしてなめらかな変動が現われている場所がある.今回の補正方法には時間的に平滑する手続きは含まれていないので,この変動はデータ処理の過程で見掛け上現われたものではなく地殼の昇降を表わしているとみられる.従来の水準改測結果を考え合せると地殻変動は一様に進行しているのではなく,長年変動傾向の上にこのようなゆつくりした昇降が重つているものと推定される. 最後に検潮資料によつて地震予知をおこなう可能性について考察した.地震に前駆すると考えられる地殼変動を(1)檀原の式で表わされるような震央近くの比較的限られた地域内の変動と(II)広い範囲にわたり一様な変動に区分し,時間的に(a)数十年,(b)数年~数箇月,(c)数日~数時間にわけて考えると,今回の補正方法では(II)型の変動は検出できないが,(I-a),(I-b)型の異常変動があれば検出できるはずである.このうち,(1-a)型の変動は,比較的容易に追跡できるがこれだけでは,地震発生の時期は推定できない.(1-b)型の変動は予知の手掛りとしてもつとも重要と考えられるが,今回の調査期間内では,地震時の変動が極めて明瞭に検出された1964年6月の新潟地震の場合でも地震前の変動を前記の一般の場所におけるゆるやかな昇降と比較して特に異常であるとは判別できなかつた.他の若干の例も同様である.さらに従来検潮による地震予知の可能性の1つの論拠となつていた1923年9月の関東大地震前の油壺の潮位変化を名古屋の変化と比較してみたところ,地震前数年間の(1-b)型の異常変動と考えられていた変化は名古屋の方にも大きく出ており,本研究の結果を参照すると,本州南沖の海況変動の影響による潮位変化であつて,異常な地殼変動の結果ではなかつたと解釈した方がむしろ合理的であることがわかつた.1944年の東南海地震前の変動についても同様である.したがつて,すくなくとも(I-b)型の変動を仮定する限り,既設の検潮所の分布密度,検潮儀の精度,これまでの解析方法で地震予知に有効な手掛りが得られた例はなく,今後得られる見込みも小さいという結論が得られた.ただし(II)型の変動を仮定すれば事情は全く異なるが,これを明らかにするには土地の絶対変動を求める方法の研究が必要である.
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