地磁気の観測所で,複数の観測点間の地域差が,特に観測所開設の初期に,経年変化するという観測例はよく問題となるところである.この原因としては従来,土の磁性の経年変化がとりあげられることが多かった.観測施設の建設工事のとき,土を堀ったり埋め戻したりする.堆積時に土の中の強磁性鉱物を含む粒子に及ぼされる地球磁場の影響により,土は全体として若干の磁性を有する.それを堀りおこせば,粒子の磁気モーメントの方向はばらばらになり,土は磁性を失う.地球磁場と雨水の浸透などの影響の下に再びその方向に揃うことがあれば,土の磁性は回復し,地上での地球磁場の観測値にも変化が認められるであろう.このような効果が実際にあるか否かを水沢測地観測所において実験した.この場所の土は,1.3×10
-4cgsemu/cm
3の残留磁化をもっている.しかし3年に近い期間の測定結果によれば,上記のような磁性回復効果はたいへん小さく,もしあったとしても3年間で,失った磁性の10%の回復に止まる.したがって,地域差に関する上述の観測結果を,このような機構で説明することは,極めて困難である.
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