測地学会誌
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39 巻, 2 号
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  • 堀合 幸次, 田村 良明
    1993 年 39 巻 2 号 p. 57-66
    発行日: 1993/06/25
    公開日: 2010/09/07
    ジャーナル フリー
     国立天文台水沢で行っているGPS時計比較の精度を向上させる手法について研究を行った.GPSを用いた時計比較においては, GPS受信機のアンテナ座標の採用値の誤差が,系統的な比較誤差を生み出す主要な要因の一つになっている.従来,国際度量衡局や通信総合研究所で行ってきた採用座標値の改善手法は,取得した時計比較データ自身によりアソテナ位置の補正を行おうとするものであり,推定パラメータ間の相関の問題のため,確度の向上に限界があった・今回導入した手法は,汎地球規模で正確な位置が求められているVLBI基準点とGPSアンテナ点の座標を高精度で結合することにより,精度を改善しようとするのである.この手法により,国立天文台水沢における時計比較の精度に最大7nsの改善が得られ,またUTC水沢に約40nsの改訂値が得られた.また同時に,相対論補正についても正しく考慮することにより,更に4nsの精度改善が得られた.
  • 里 嘉千茂, 島田 誠一
    1993 年 39 巻 2 号 p. 67-86
    発行日: 1993/06/25
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
     太平洋,フィリピン海,ユーラシア(及び北米)の各プレートが3重(4重)に会合する関東・東海地域の地殻変動を明らかにするために,防災科学技術研究所がこの地域に設置した10観測点(本論文での使用観測点は8点)からなるGPS固定観測網の1988年4月から1989年8月まで(初島観測点を含む基線については5月まで)の期間における基線長変化率を用いて,各観測点での変動ベクトルを求めた(ただし,今回の解析では,各変動ベクトルの鉛直成分はよく決まらなかった)・基線長変化率は,SHIMADA and BocK(1992)が用いた基線ベクトル変化率に比べて,基準座標系の影響がなく,系統誤差も受けにくいという利点がある,まず,塩山,府中,及び八郷の3観測点を固定して,残りの5観測点について変動ベクトルを求めたところ,本川根と市原の2観測点における水平変動ベクトルは95%(2次元)の信頼限界で有意でないことがわかった.次に,これらの2観測点もさらに固定し,残りの3観測点(初島,下田,及び浜岡)について変動ベクトルを求めたところ,いずれも95%(2次元)の信頼限界で有意に西~ 南南西方向へ変動していることがわかった.即ち,フィリピン海プレートの北端部にある初島と下田の2観測点は,それぞれS83゜W±230方向に15±5mm/yr,及びS87゜W±18゜ 方向に28±5mm/yrの速度で,また,駿河湾の西岸にある浜岡観測点は,S27゜W±25。方向に24±10mm/yrの速度で変動していることがわかった.初島と下田観測点の変動方向は,フィリピン海プレト本体の運動方向(N50゜W)から反時計回りに40゜以上偏っていて,両者は有意に異なっている.従って,伊豆半島を含むフィリピン海プレート北端部は,フィリピン海プレート本体とは異なる方向に運動していることになる.一方,浜岡観測点の変動方向は駿河トラフにほぼ平行である.このことは,西進しながら駿河トラフでもぐりこんでいるフィリピン海プレート北端部によって,トラフに直交する方向の圧縮変形よりもそれに共役な伸長変形をこの地域がより強く受けていることを示している.ここで得られたこれらの変動ペクトルは,標準偏差は大きいもののSHIMADA and BocK(1992)が求めたものと概ね一致しているが,初島観測点の変動方向については彼らのものより分解能が向上している.これらの変動のうち,特に初島及び浜岡観測点の変動は,従来の測地測量から求められているものとは異なっている,このように,本研究は,広域のGPS観測による基線長変化率を用いて各観測点の水平変動ペクトルが精度良く求められることを示した.
  • 畑中 雄樹, 辻 宏道
    1993 年 39 巻 2 号 p. 87-95
    発行日: 1993/06/25
    公開日: 2010/09/07
    ジャーナル フリー
     国土地理院が作成したGPS衛星軌道情報(GSI暦)の精度及び確度を評価した. データの長さを変えて求めたGSI暦の比較から,地域的なデータを用いて軌道を安定に求めるためには最低三日間のデータが必要であることがわかった.解析期間を重複させて暦を作り,その重複期間の衛星位置を比較した結果,過半数の衛星が10m以内のRMSで一致した.GSI暦の確度を評価するために,ジェット推進研究所がグローバルなデータを用いて作成した精密暦とGSI暦を比較したところ,日本上空で2-21m,全軌道で4-30mのRMSで一致した.また,全軌道よりも日本上空の方が,精度・確度ともよく決まっていることが確認された.残差にまだ系統的なトレンドが残っているので,精度向上に向けてモデルの改良の余地があることが示唆される.
  • 田中 寅夫, 大場 雅彦, 平原 和朗, 中村 佳重郎
    1993 年 39 巻 2 号 p. 97-105
    発行日: 1993/06/25
    公開日: 2010/09/07
    ジャーナル フリー
     2台の水蒸気ラジオメータを用いて,大気中の水蒸気による伝i播遅延の観測を近畿地方の宇治,信楽および潮岬の3地点において行なった.米国のDenverで決定された輝度温度から遅延量を決定するアルゴリズムは,多少の変更によって近畿地方においても利用できることが分った.水蒸気ラジオメータによって観測された伝播遅延には,宇治と潮岬の間で10cmを超える違いが見られることが多く,しかもそれがほぼ一定値を保ちつつ,1日以上も継続することがある.
  • GPS大学連合
    1993 年 39 巻 2 号 p. 107-119
    発行日: 1993/06/25
    公開日: 2010/09/07
    ジャーナル フリー
     大学の地殻変動グループはGPS大学連合を組識し,地震予知研究のうえで重要な相模湾周辺を含む南関東地域において,1988年から4年間にわたってGPS観測を実施してきた.観測点は比較的広域に分布した観測点群と小田原を中心とする高密度観測点群から構成され,毎年12月に数日間の合同集中観測を行なった.1991年の観測結果はまだ出されていないが,1990年を含む以前の観測資料を解析した結果,広域観測網にも高密度観測網にも地殻変動と考えて良いような変位の場が検出された.これらは,南北基線の伸び,伊豆南部の西進,伊豆大島の北進,房総南部の北西進,などであり,他の測地観測成果や大方に受け入れられているテクトニックモデルと調和的である.
  • 矢吹 哲一朗, 仙石 新, 河合 晃司
    1993 年 39 巻 2 号 p. 121-133
    発行日: 1993/06/25
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     1990年5月から,相模湾を取り巻く3点(伊豆大島,真鶴,剣崎)でGPS観測が行われている・観測網は,一辺がほぼ50kmの正三角形に近い形をしている.基線ベクルト測定の精度は,1992年の春の時点で,東西,南北,上下それぞれの成分について,1.1-1.8cm,0.8-1.2cm,2.5-3.1cmであった.2年間の観測により観測点の水平変動が明らかになってきた.真鶴を固定して考えると,伊豆大屬は北西方向に動いている.収束速度は2.6cm/yrとなったが,この速度はテクト二クスモデルから予想されるフィリピン海プレートと大陸プレートの相対運動速度より少し小さい.剣崎の動きは西北西の方向に2.2cm/yrとなったが,この動きは相模トラフ沿いのプレート収束に伴う歪みの蓄積の影響と考えられる.
  • 木股 文昭, 里村 幹夫, 佐々木 嘉三
    1993 年 39 巻 2 号 p. 135-150
    発行日: 1993/06/25
    公開日: 2010/09/07
    ジャーナル フリー
      フィリピン海プレートは東海地域において駿河トラフからユーラシアプレートの下に潜り込んでいる.そこで,ユーラシアプレート上に位置する東海地域,およびフィリピソ海プレート上に位置する伊豆八丈島においてGPS観測を実施し,地殻変動の観測を試みた.これらのGPS観測から,1989年3月から1992年6月の期間,東海地域において,基線長の変化として(-2.2~2.5)×10-7/年が観測され,地殻歪みとして,北西一南東方向に(0.5~2.2)×10-7/年の縮み,北東一南西方向に(0.3~2.6)×10-7/年の伸びが観測された.また,八丈島からプレート境界の駿河トラフを横切り東海地域に伸びる基線において,2~5cm/年の縮みが観測された.観測された地殻歪みは,同地域における測量から得られた結果,および地震学的に推定されたプレートの収束速度と一致する
  • 薮田 豊
    1993 年 39 巻 2 号 p. 151-166
    発行日: 1993/06/25
    公開日: 2010/09/07
    ジャーナル フリー
     GPS測定と水準測量の成果とからジオイド比高を決定する試みが近畿地方の20点において行われた.本稿では,ジオイド決定におけるGPS測定の有効性を明らかにする.得られたジオイド比高に含まれているさまざまな誤差について個別に評価した.それらを総合した結果,南北方向に100kmの代表的な基線について,ジオイド比高の精度は約9cm程度であると見積った.このジオイド比高が福田によるORI-89ジオイドと比較された.その結果は非常に良好な一致を示したものの,系統的なくいちがいもみうけられた・このくいちがいはORI-89ジオイドに包含されていない実際のジオイド起伏を示していると思われる.次に,紀伊半島における大規模なジオイドの隆起について考察を進めた.この隆起は地形の影響を強く受けていること,この地域ではアイソスタティック平衡が成り立っていないことが示された.また,ジオイドと重力異常の両方に一致するような地殻構造のモデルを構築した.
  • 三浦 哲, 立花 憲司, 橋本 恵一, 村上 栄寿, 河野 俊夫, 仁田 交市, 佐藤 俊也, 堀 修一郎
    1993 年 39 巻 2 号 p. 167-178
    発行日: 1993/06/25
    公開日: 2010/09/07
    ジャーナル フリー
     東北地方において1989年4月から1991年12月までの約2年半の間に行われてきたGPS連続観測の成果について報告する.長さ100km以上の基線について得られた基線長の変化率から,この期間におけるプレート内変形は0.1ppm以下と推定され,大きさとしてはこれまで東北地方で得られた測地測量の成果等と調和的であることがわかった.GPSがプレート間の相対運動のみならずプレート内変形による広域地殻変動観測の1手法として利用できることが明らかになった.なおこの間2度にわたり,Selective Availability(SIA)がかけられた状態のデータを取得することになったが両方ともまったく同一の解析手法(積分位相差法)により解析した結果,SIAの影響が顕著な場合とそうでない場合があることが確認された.ROCKEN and MEERTENS[1991]の行った実験により,GPS衛星のクロック周波数を不安定にするモード(δ-process)の場合には2重位相差をとることで100km程度の基線でもその影響は無視できることが報告されているが,我々の観測で後者の期間がこれに相当すると考えられ実際の100km超の基線において彼らの実験が実証された.
  • 辻 宏道, 杉田 要, 根本 恵造, 益子 栄, 後藤 清, 岩田 昭雄, 村上 亮, 大津 泉, 石川 伸一, 土屋 淳
    1993 年 39 巻 2 号 p. 179-192
    発行日: 1993/06/25
    公開日: 2010/09/07
    ジャーナル フリー
     GPS衛星を用いた測量の場合,受信アンテナの位相中心が原理的には測量の基準点となるため,アンテナの位相特性に乱れがあると,測量結果に系統誤差を生じることがある.したがって測量を正確に行うためには,アンテナの位相特性を定量的に評価する必要がある.ここでは,筑波宇宙センターの電波無反射室で5機種のGPSアンテナに対して位相測定を行った結果を述べる.位相特性は電波の入射方向によって変化している.測定された位相データから位相中心の位置を推定したところ,その位置は電波の入射方向によってCmのオーダで変動することが確認された.同一機種でアソテナの方向を一致させればこの変動量は相殺し合い,測量結果にCm超える誤差は生じない.しかし,異機種のアソテナを組み合わせて測量を行う場合,また同一機種でもアンテナの方向が一致していない場合では,かなりの測量誤差を生じうる.
  • 杉本 裕二, 木内 等, 金子 明弘, 高橋 幸雄, 今江 理人, 栗原 則幸
    1993 年 39 巻 2 号 p. 193-208
    発行日: 1993/06/25
    公開日: 2010/09/07
    ジャーナル フリー
     従来研究開発されてきたGPS利用測位システムは,一般にオムニアンテナを用いているため,低S/N(信号対雑音比),サイクルスリップ,マルティパス,アンテナ位相中心変動,低仰角観測抑制等の問題があった. そこで我々は,これらの問題点を解決するたあの研究を行ない,指向性アンテナを用い,これを駆動することを考案し,PRESTARシステムを開発した.小型軽量のマイクロストリップアレイアンテナ・小型駆動台の開発により,アンテナシステムの測量用三脚上設置を可能にした.本システムは,軌道推定,地殼変動観測の他,測地測量のための移動にも利用可能である. プロトタイプを開発し単周波数による実験を行なった結果,電離層遅延補正が不要な距離ではミリメータの測地精度が達成可能なことがわかった.また1,000kmの観測網データを用いた軌道推定を行ない,これにより測地精度が1桁以上改善された.これから基本的な軌道推定システムが完成したといえる. L1搬送波はC/Aコード利用により高S/N再生が可能であるが,L2搬送波ではPNコードが利用できず,高いドプラ周波数偏移・変化率のため,2乗回路による高S/Nでの再生が困難であった・そこで,「ディジタルサソプリソグ」手法を研究開発しL2搬送波の再生を可能にした.2周波数のデータを用いた電離層遅延補正を行なった結果,5mmの精度が得られた. 以上のことから,GPS利用高精度測位システムPRESTARは,基本的には完成したことになる・今後の課題として,S/Nの向上,観測時間の短縮・高性能ルビディウム標準の採用による基準発振器の精度不足の解消があげられ,また将来マルティビームアソテナによる.多衛星同時観測を提案する.
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