活断層の破砕帯およびその近傍での地殼ひずみの空間的ならびに時間的変化を研究するために,六甲鶴甲断層運動観測室(以下,「六甲鶴甲」と略す)で,1970年以来,地殼変動の連続観測が実施されてきた.六甲鶴甲の観測坑道は大月断層を横切って設けられており,断層破砕帯の内外に配置されたそれぞれ3成分ずつの伸縮計をはじめ,周辺に多数の観測計器が配置されている.本研究では,伸縮計によって得られた1977~1984年の期間における地殼ひずみが解析された.地殼ひずみの永年変化の速度は,他の地殼変動観測所での観測値に比べて約10倍大きく,最大で約1×10-5/年という値が得られた.岩盤の状態が硬岩に近い大月断層の主断層粘土の北側(破砕帯外)でのひずみ速度の最大圧縮軸の方向は西北西一東南東であり,六甲諏訪山における現場測定による地殼応力の水平最大圧縮軸の方向とよい一致を示している.一方,大月断層の南側(破砕帯内)での最大圧軸の方向は,これとほぼ90度異なっている.1980年の終わりごろから,大月断層の破砕帯の内外ともに,ひずみ速度の絶対値が30~70%減少している.同じころから,大阪湾周辺では,地震の発生数が増加し,地震活動が活発化している.六甲鶴甲での地殼ひずみの変化は,有馬―高槻構造線,生駒―金剛山地の活断層群,中央構造線および六甲山地―淡路島の活断層群によって囲まれた地殼ブロックのテクトニックな活動度を反映しているものと思われる.
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