我々は,気象庁10km格子・地域モデルデータ(10kmデータ)により算出した大気伝搬遅延量(EPD)に起因するGPS測位誤差を評価した.この評価では,南北に偏り天頂付近を通過する衛星配置を使用するcase Aと,仰角30°未満の衛星を含むcase Bについて,約2時間の観測時間を想定してベクトルとして測位誤差を計算した.さらに,10kmデータ.より算出したEPDを球対称大気モデルを用いて求めたEPDと比較し,大気の方位異方性に起因する測位誤差を同様に評価した.まず,10kmデータによるwet delayに起因する測位誤差の大きさは,single differenceとdouble differenceの双方で基線長依存性を示し,基線長が長いほど増大した.基線方位が水蒸気分布の最大勾配の方向と一致する場合,固定点より約500km離れた地点における測位誤差の水平成分ベクトルの大きさと鉛直成分の絶対値はそれぞれcase Aで40cm,30cm,及びcase Bで50cm,15cmに達した.測位誤差の水平成分ベクトルの向きは最も高度の低い衛星の方位に強く依存する.また測位誤差の大きさは,基線の両観測点の高度差と強い正の相関を示す.次に,大気の方位異方性に起因する測位誤差の水平成分ベクトルの大きさは,(1)wetdelayの場合が0.54cm,(2)hydrostatic delayの場合が最大1cm,及び(3)全大気屈折率より求めたtotaldelayの場合が0.5~5cmであった.ここでi水平成分ベクトルの大きさの最大値は,基線方位が水蒸気・温度勾配の方向と一致する場合に生じる.一方,鉛直成分は,いずれの計算結果でも1cm未満であった.これらの結果は,mmの精度でEPD推定を行うためには,3次元大気構造のデータが不可欠であることを示す.我々は数値予報データに基づくEPD推定法を効果的aかつ実現可能な方法として提案する.この推定法は,GPS気象学との連携でメソスケール数値予報の画期的な精度向上にも貢献できると考えられる.
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