神戸海洋気象台の森安茂雄氏が,昭和33年12月の日本海洋学会誌に,“月平均潮位に及ぼす海況の影響,”と題して,串本と浦神における月平均潮位の変化の差がはなはだしく大であることを報告した.著は約32年前に同じ題目の研究をして東京大学地震研究所の彙報に報告しておし,た.その時に串本は油壷に比較して平均潮位の変化が多少大であることを知つた.しかるに今回の森安氏の報告のようなはなはだしく大きな変化のあることは予期しなかつた.いささか不思議に思われたので再び調査を試みた.その結果は串本はそれほど変化が大でもないが浦神の1951年9月のごときは前月の8月に比して年周変化を取り去つてもなお月平均潮位が200mmも高いことが分つた.これは海水温度の月平均変化が10℃にも相当する.この原因として,串本と浦神とはわずか14.5kmしか離れないのであるから,黒潮暖流の影響の差としては,どうしても考えられない.むしろ雨の影響であるかも知れないと瓜われる. その後東京大学地震研究所の岡田惇氏が昭和34年の11月に水準測量を実施された,しかして傾斜量として,-1".04という値を得た.これに相当する値を月平均海水面変化より求めるには,測址を実施した.月の値が必要であるが,残念ながらDataがないので,これにもつとも近い同年4月の諸修正を施して,しかもなめらかにした月平均海水面の差を採つて計算して見た.すなわち串本と浦神の差が70mmで距離が14.5kmであるから丁度-1".0となつて岡田氏の測量の結果と一致する値を得た.この値の一致は偶然かも知れないが,串本と浦神との平均潮位の差が海況の影響によるものと考えるよりは,むしろ地盤の傾斜によるものと考える方が妥当であると思われる.
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