唾液の食物咀嚼に及ぼす影響を明らかにするために, 硫酸あとろぴん服用によって実験的に唾液分泌機能を低下させた場合の食物咀嚼時間と嚥下時食塊水分量について検討した.
対象は成人男子6名 (平均年齢26.5歳) とし, 咀嚼試料にはらいす, そーせーじ, くっきーを使用した.各被験者には, 各咀嚼試料の一口量を日常と同様の咀嚼を行わせ, 嚥下の時点で合図をさせ, 計量済みのぷらすちっく容器に食塊を全て吐出させ, 一口量咀嚼時間と嚥下時食塊水分量を測定した.また, 硫酸あとろぴん0.5mg服用後60分後に, 同様に咀嚼実験と測定を行った.
一口量咀嚼時間および嚥下時の食塊水分量は, 同一被験者, 同一咀嚼試料では変動が少なく, ほぼ一定した値が得られた.なお, 被験者間および咀嚼試料間には大きな差がみられた.硫酸あとろぴん服用60分後の唾液分泌量は, 服用前のそれの約50%であった.また, 服用60分後の一口量咀嚼時間は, 各咀嚼試料とも服用前に比較して有意な延長が認められた (p<0.001).しかし, 嚥下時食塊水分量については, 両者間の有意な差は認められなかった.
以上のことから, 食塊を嚥下する時期は, 従来から報告されている食物の粉砕程度などに加えて, 食塊の水分量に影響されることが示唆され, 唾液分泌機能が低下した場合には, 咀嚼能率が低下することが推測された.
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