組織における人間行動の研究は,最近,「組織心理学」(organizational psychology)の名のもとに再編・統合化がなされつつあるこの新しい動きは,従来の「産業心理学」や「産業社会心理学」とくらべて,どこがどう異なるのか.本稿は,組織心理学の一般的事情を解説し,組織心理学的研究の“メスのいれられる”べき問題を検討する.
わが国企業組織における大卒採用試験および昇進試験制度を調査資料によってふりかえり,そのなかで用いられている心理学的検査およびアセスメント・プログラムが行動科学的手法としてどの程度の妥当性をそなえているかを主として追跡的方法によって検討したその結果,心理学的検査については,とくに知的能力検査について妥当性が認められ,アセスメント・プログラムについても,いくつかの評価項目について妥当性が認められた.
聴務満足およびワーク・モチベーションに関して,主として海外の文献を中心にその研究の現状と問題点が述べられているが,職務満足理論に関しては,Herzbergらの二要因理論に関する批判が,またワーク・モチべーション理論に関してはHackman & Oldham のjob characteristics model, Vroom, Lawler らのexpectancy × instrumentality × valence model, およびDeciのintrinsic motivation theoryが紹介されており,併せてこれらの理論に基づく著者らの二,三の研究も紹介されている.
リーダーシップ研究は実践的な要請の強さもあって,多様な展開をみせている.しかし最近の研究は必ずしも新しい内容をもつものとも思えない.その理由の一つはリーダーシップ研究が必ずしも組織過程の諸現象についての研究と緊密なつながりのないままその効果――とくに実際的な生産性――との関係を追求することに急であるためであると思われる.小集団を中心とした従来の諸研究の成果を一つの視点にすえて最近のリーダーシップ研究で見逃ざれている若干の問題を指摘することが本稿の目的である.
マクロ・レベルの参加の制度化を考察するためには,参加する主体である人間的条件に関する具体的,体系的なリサーチが必要である.本論文では,参加が集団のモラールや業績に及ぼす効果に関して行われた初期のグループ・ダイナミックス的諸研究,参加のダイナミックスを説明するマルダーの権力格差短縮理論,参加と満足度の関係を吟味した著者の実験的研究等を概観し,参加に関する実証的研究の今後の方向性を展望する.
「職務充実」は,高度に産業化された社会では,これまでにそれなりの注目を受けてきた.本稿では,第一に職務充実の背景にあった基礎理論の展開とその意義について論じ,次に職務充実の方法に関する理論の展開と職務充実の類型について検討する.さらに第三に,職務充実の理論がもつ現在の課題,すなわち職務充実の条件理論の必要性と,職務充実の理論を含む新たな意味での「職務設計論」の体系化の必要性について論ずる.
行動科学がよリ普遍性の高い行動原理の発見をめざす以上,交叉文化的研究の必要性は大きい.また,実際に,交叉文化的研究の数は増加しつつある.しかし,そうした研究には方法論的に問題のあるものが多いことも事実である.本稿では,心理学の分野における交叉文化的研究が,主に方法論的な観点から吟味される.そして,交叉文化的研究の応用領域として異文化適応の問題をとりあげる必要性が示唆される.