経営理念とは経営組織の意味構造にほかならない.意味の構造化過程を人間意識の能動性,すなわち,活動からたどろうとしたバーナードは成功しなかった.次段階の行為から試みたウェーバーもまた成功していない.経営理念から逆の方向で構造化を解明しようとしたシュッツの試みは現状打破の糸口を与えてくれるのではないか.
現在,経営理念への関心の高さが日本だけの現象でないことは,『シンボリック・マネジャー』(原題はCorporate Cultures)が,日米で多数の読者を得ていることにより明白だといえよう.本稿は,これまで実態を中心に研究が進められてきた状況を考慮し,理論的整理を試みながら,経営理念と経営組織の関連を明らかにしてゆく.経営環境が激変しているため,経営理念に関しては,日本のそれに限って現状を中心に考察することにする.
本稿は,近世商人の代表的存在であり,明治以後代表的な財閥となった三井家・三井財閥の雇用制度のなかに,近世・近代の経営におけるいわゆる番頭政治の源流をさぐろうとしたものである.それはまた,自分が勤務する企業を「うちの会社」と感ずる現代のビジネスマーの意識の源流をさぐることでもあろう.
本稿は,わが国の経営理念の現状についての概観を行うとともに,戦後とくに昭和50年代に入って以後どのような変容を遂げつつあるかという実態を,1961年と1976年の調査,さらにわれわれの行った1983年の調査によって分析したものである.また,日本の経営理念の特徴とその変化の方向を浮彫りにするために,日米の高業績企業の相互比較に関する調査を利用している.その結論は,今日の日本の経営理念は,一つの大きな変革の時期に直面しているということである.
現代の日本企業の経営理念の内容は,働く人=社員とその組織のあり方,および消費者に関する事項に尽きるといってよい.従来,社是に必ずといいほど盛り込まれていた株主の利益等については,ほとんどふれられていない.いつ頃からどのような背景や理由からそうなったのか,は調査研究を必要とするが,このリポートでは,各社のケースから,企業の信条としての経営理念の底流をなす経営思想をさぐって見ることにしたい.