製品開発研究は過去10年間で膨大な努力が投入されてきた.本稿では,この領域におけるパラダイムが確立したことがその理由であるとえている.このパラダイムは設計学を基礎理論にし,生産管理論,組織論,マーケティング論などから広く知見を取り込み融合科学的に発達してきた.本稿では,そのパラダイムがどのようなものかを察するために,設計学の基礎を概観し,今後それのもつある種の課題について検討する.大量の努力投入で成果がほとんどで尽くしたかに思えるが,依然として理論的な研究が必要であることが指摘されるだろう.
「機能」を基本的な分化次元としていたこれまでの組織理論は,コンセプトのイノベーションをうまく扱えなかった.そこでのコンセプト創造は特定少数の「個人」の仕事であり,組織にとっては前提条件としてえられてきた.しかし,コンセプトの創造と進化はすぐれて組織能力の問題である.コンセプトのイノベーションのための組織能力の構築が競争優位の源泉としてますます重要になる.この論文は,「価値分化」の概念に基づいて,製品コンセプトのイノベーションのための組織モデルを提示する.
情報技術は近年多面性を増しており,その特性の認識と利用のされ方によって同じ技術であっても組織に異なる影響を与える.情報技術の導入は,組織の分化と統合のあり方を再認識する契機になり,ある程度操作可能にする手段となりうる.
本稿では,情報技術が組織の分化と統合に与える影響には,プロセスのアーキテクチャ(人間の働きかけによってひきおこされる情報,物質,エネルギーの形態変化の相互依存性)と部門,企業といった組織単位群のかかわり方によって4つのパターンが見られることを,製品開発における3次元CADなどの情報技術利用についての事例研究によって示す.
モジュラー型から統合型への製品アーキテクチャー変化を実現するのは,開発者の行動変化である.従来の行動パターンの存在に開発者自身が気づき,新たな行動パターンを創造するには,開発組織の外部からの働きかけが必要となる.顧客の選択変化と顧客の新たなニーズの引き出しが行動変化の引き金となる事例を通じて,開発者の行動パターン変化をえる.従来の行動パターンから新たな行動パターンを創り出す間に存在する「行動」に注目すべきである.
ソフトウェア産業における製品開発の研究は,最善あるいは最適の開発プロセスを記述することに主眼が置かれてきた.しかし,ソフトウェア開発をとりまく諸事情の変化によって,適合的なプロセスが切り替わっているだけではなく,プロジェクト・リーダーが持つ方針や製品観,開発者観が根底から変化しているようである.フィールド調査から得たのは,従来と比べて事前計画への依存度が低く即興性が高い「状況的行為」をおこなうリーダーの姿であった.これを「状況論的リーダーシップ」として概念化し,製品開発とプロセスモデルに関する議論や,リーダーの熟練に関する議論に新たなアイデアを提示する.
知識のグローバルな分散という状況下では,製品開発において,国境を隔て,地理的にも離れた場所で発生する知識を移転,展開する方法の開拓が重要な焦点となる.本稿では,既存研究を簡単にレビューした上で,知識の粘着性概念をこのグローバル化する製品開発を分析する視角として提唱する.その上で,今後の研究課題として,粘着性のメカニズムに関係する四つの方向性が示される.
本稿は,HPC産業において,日米企業が顕著に異なる性能向上アプローチを選択し,それぞれ独自の性能進化を実現したという事実を明らかにする.その上で,個別企業の資源プロフィールと競争環境とが時間展開的に相互規定関係にあるという点に注目することによって,発見事実の説明を試みる.新規参入を契機とした競争環境の変化によって,個別企業レベルでは既存企業が既存の資源蓄積をベースにした新たな技術的可能性の探索行動とその実現に注力しなくなるため,産業レベルでは既存の資源蓄積に基づく性能進化の可能性が閉ざされることが起きうる,というのが最終的な主張である.
コミュニケーション研究の分野において新聞,雑誌,書籍,ラジオ/テレビ放送などのメディア内容を分析することで社会的文脈や行為主体の意図を推論するための手法として,「内容分析」が開発されてきた.本稿では,この手法をインクジェット・プリンタ業界の事例研究に応用する.業界全体での製品コンセプトの変遷と各企業の競争上の注目点を新製品ニュース・リリースの分析によって描く.その結果から各社の競争戦略を読み解く.