単に競争環境の構造的変動のみならず,先進国内の産業体系そのものが知識集約化してきたことにも規定されて,企業の基本的経営戦略にもパラダイム・シフトが要求されてきた.こうした経営戦略の転換は知的財産権戦略にもっとも端的に反映されることになる.知的財産権の中でも指標化が比較的容易な特許の視点から,こうした戦略上の転換を目的意識的に図ってきた企業としてIBM社の例を取り上げ,同社の特許戦略を分析していく.
本稿では,知的財産マネジメントにおける戦略パフォーマンスの決定要因を定量的に分析し,戦略論の基本的なイシューとの関連を慮した検討を行う.近年の経営戦略論の論壇では,戦略的ポジショニングの重要性を強調する見解とResource-based viewが対峙している.しかし,本稿の分析結果は,い ずれの戦略アプローチが合理的であるのかは一般的に言えるものではなく,事業戦略が依拠する技術の成熟度によって異なることを示唆している.
開放型知識社会における知的財産権の経済価値評価の基本的な論点は二つある.一つは,ヴォラティリティの高い知的財産の評価額がオークション市場やライセンス契約において「適正価値(fair Value)」を見出せるかという点.もう一つは,知的財産権の新たな運用形態(資金調達を伴う証券化,自己実施特許等の総合的経営評価,関連企業間の移転価格評価など)に応じて適切な評価手法を選定できるかという点である.
近年,APS(新写真システム),MPEG(動画圧縮技術), DVDなど技術標準の創出と普及のためのパテント・プールに よる企業間協力が行われるようになってきている.本稿は,1.どのような条件において技術標準の革新のために企業間競争ではなく企業間協力が必要になるのか,2.アウトサイダー企業の登場など企業間協力が円滑に進まないことがある原因は何か,その解決策は何か,3.パテント・プールが技術標準の更なる革新への企業間競争を阻害しないためにはどのような条件が必要なのかを,理論と実際のパテント・プールの事例によりながら分析する.
上場企業とベンチャー企業の特許活動を業種別に分析した結果,機械系メーカーについては,保有する特許総数が利益に貢献していた.化学系メーカーではそうした関係はなく,特許1 件ごとの質的重みが重要であることを示唆している.また,若干のヒアリング調査結果から,ベンチャー企業や中小企業は新製品ができてから特許申請する形態が多く,日常的な事業に直結した特許を保有できるかどうかが競争優位を左右していると思われた.
日米政府によるプロパテント政策およびソフトウェア特許についての保護の変遷を通じて,特許の重要性を概説し,現在の電機メーカーの特許戦略を富士通株式会社の例を通して,説明している.特許戦略として,有力特許の取得,権利の活用,他社特許侵害の回避に対する戦略および最近出現したビジネスモデル特許への対応などについて詳述している.
企業における経営戦略の一環として,特に製薬企業を中心に,知的財産活動を企業の基本的活動である研究,開発,製造,販売と関連づけて察する.これらの察を通して,特許法に準拠した発明者実績補償制度のリーディング例ならびに知的財産活動の評価計算方法について企業活動の知的財産関連要素に基づいて説明する.さらに,IPハーモニゼーションとIT 革命とを視野に入れたグローバルIP戦略モデルを提案する.
日本的雇用慣行からの逸脱は,日本企業及び日本社会全体に大きなコストをもたらしている.莫大な金額の退職金上乗せや再就職斡旋コスト,中高年の自殺の急増がそれである.このような違反コストは日本企業のHRM 変革戦略にも影響を及ぼしており,多くの日本企業が根本的な変革戦略より,適応戦略を選択している.その背景には,日本企業の心理的契約が関係的契約の諸特徴を強く持っているという点がある.
最近の研究により,日本の自動車部品取引は,ある種のネットワーク型の構造となっていることが明らかにされてきた.そこで本稿では,「部品取引のネットワーク構造の違いが,その中に埋め込まれているサプライヤーの学習プロセスやパフォーマンスにどのような影響を与えるのか」という点に関して,「構造的埋め込み理論」の観点を踏まえた上で仮説を構築し,限定的ながらも定量的な実証分析を行った.