日本型企業モデルの特長は,下部階層における技能形成のあり方と,それに基づく高い組織的実務能力にある.その裏返しとして,現状では事業経営責任者のキャリア形成と職務環境が戦略の形成と遂行に適した形になっておらず,日本企業は戦略不全に陥りやすい構図がある.ただしこの構図には論理的必然性はなく,日本型企業モデルを発展させて問題を解決することは可能である.
本稿の目的はユーザー起動型ビジネスモデルを構築し,実践している2社の事例を紹介すること,そしてそのようなモデルを採用している企業の台頭が日本の流通システムで果たし得る役割について議論することである.近年,ユーザーの声を起点に商品化を実現するビジネスモデルを採用する企業が登場してきている.本稿では,エレファントデザインとエンジンの両社の事例を分析し,そのようなビジネスモデルの特徴についても察する.
成果主義のプレッシャーが高まり,ジョブデザインの自律性が求められ,キャリアの不安定性が増大すると,会社主導のキャリア開発,長期計画的キャリア開発は困難になる.企業内キャリア自律を促進し,企業の継続的成果と個人のキャリア充実を両立させることは,企業にとって大きな課題になりつつある.このような問題意識に基づき,キャリアコンピタンシーという新たな概念を定義し,それを強化する方法論を察する.
中国広東省の深圳-東莞に至るエリアは,現在「世界の工場」と言われている.特に,OA機器に関する世界最大の生産地になっている.それを促した条件としては「広東型委託加工」「転廠」「無限大の労働力供給」「香港のビジネス環境の良さ」が指摘される.香港企業,台湾企業の進出が多い.日本勢としては,「深圳テクノセンター」と言われる組織が,興味深い活動をしている.
本稿は,東芝クレームホームページ事件などで注目を集めている顧客相談室における顧客満足の構造を明らかにした論文である.顧客相談室に対する顧客満足の因果モデルを作り,実証した結果,まず顧客の満足度を高める顧客相談室の要因としては「相談員の専門知識とCSマインド」「当該企業の認知度」が確認できた.また相談室への顧客満足は,相談室の「再利用意図」だけでなく「当該企業の信頼度」も高める効果があることが確認できた.
本論文の目的は,イノベーションの発生メカニズムを明らかにするという問題意識のもと,従来,開発主体にとって外生的な偶然性によってしか説明されてこなかった創造段階のメカニズムを,開発者の主体性という視点からとらえなおすことである.本論文では偶然性は戦略的に選びとれると主張する.進化論的アプローチの「イノベーションが偶然訪れる」という主張を擁護してしまうが,まったくランダムに試行錯誤を展開しても,イノベーションへ到達する保証はない.そこで開発者の主体的な相互作用のプロセスが,開発競争での多数派と少数派の形成を経由して,開発者の経験する偶然に差を生むとえる.青色LEDの開発事例の記述・分析を通じて,この論理を具体的に示した.
本研究では,日本企業の欧州地域統括会社訪問調査,米国地域統括会社に関する補足調査,INSEADによる地域統括会社の調査結果から,地域統括会社の機能および経営のグローバル化と国際経営組織の在り方についての検討を行なった.第1に地域統括会社には地域事業部あるいはその本部組織が含まれており,第2に親会社組織がグローバル製品別事業部を採る場合に地域統括会社が支援業務またはコーディネーション機能中心である傾向が認められた.これらは日本企業のグローバル化プロセスにおいても国際経営組織のフォーマルな構造をめぐるStopfordの「2つの途」が存在することを示している.