環境決定論と主体的選択論は,組織研究の対照的な分析視角であるだけでなく,組織における行為者の対照的な認識スタイルでもある.よい選択を行うためには,二つの認識スタイルのバランスが必要である.しかし,組織の成熟化とともに,環境決定論的認識スタイルが強まりがちである.このバランスを回復するには,組織の戦略駆動力を高める必要がある.この戦略駆動力を高める方法について考察する.
もの造りの経営学(技術・生産管理論)の立場から,「設計情報」概念を用いたオペレーション・ベースの戦略論の可能性を考察する.まず,もの造り現場の競争力は,もの造りの組織能力とアーキテクチャ(製品・工程の設計思想)の間の相性によって影響されると見る.そして,得意・不得意アーキテクチャの見極めに基づく「両面戦略」を説明する.次に,もの造り現場の競争力を最終利益に結び付ける戦略の枠組を考える.その基本は,「アーキテクチャの位置取り戦略」である.
企業内の人的資源管理に労働市場の影響が強く及ぶようになっている.従業員の流動性の増加と,労働市場で労働条件の決まる労働力の比重増加のためだ.この傾向は,人口高齢化,企業競争激化,個人の価値観の多様化,といった構造変化によってさらに拍車がかかる.こうした中で,企業は,仕事能力以外の個人属性にとらわれない人的資源管理を行うと同時に,市場性のある能力を高める人的資本投資機会を個人に与える社会的責任を持つ.
本稿では,歴史における個人の役割を究明する作業の一環として,日本電力業の発展過程における松永安左エ門の役割を分析した.日本電力産業史における松永個人の役割は,きわめて大きなものであり,他の誰かによって代替されうるような限定的なものではなかった.松永安左エ門のように歴史を変える経営者は,数は多くないかもしれないが,これまで確実に存在してきたし,これからも必ずや登場することであろう.
新たなビジネスを創出するには,さまざまなタイプの経営者に対して事業に適合した枠組みを準備し,適切に資金を供給することが不可欠である.資本主義草創期の渋沢栄一は,株式会社による公益モデル,合資会社によるハイリスク・ハイリターンモデル,合名会社と匿名組合による個人ビジネスモデルを提供した.同時に株式市場の持つ信用創造機能をフルに活用して様々なタイプの経営者への資金供給を自らが率先して担った.
日本の完成車メーカーの製品開発の効率性に貢献する承認図メーカーが誕生するまでの能力獲得プロセスを考察した.具体的には,相反するアーキテクチャ特性の部品を主力とする2メーカーを取り上げ,承認図メーカーへの転換プロセスを比較した.その結果,アーキテクチャ特性によって承認図メーカーに要求される能力に違いがあり,その要求能力の違いが異なる能力獲得プロセスを生み出していることが明らかになった.
この論文の目的は,組織間の協力関係が円滑に機能したり,機能不全を起こしたりする事象の背後にあるメカニズムを解明することである.このメカニズムを説明するために,我々は「集合財」という概念に注目する.この概念を用いて,我々はモスバーガーのフランチャイズチェーンの盛衰を説明する.さらに,集合財の基本論理は,様々な組織のダイナミックな変化を説明にも応用できることを示唆する.