医療は市場の失敗のケースであるとともにアクセスの公平性という社会規範が強いため,医療システムの行動原理を完全に市場原理に委ねることはできない.その意味で医療には様々な規制が課せられている.最近,この規制を緩和して,医療運営の軸足を市場原理にシフトさせることで医療のコストパフォーマンスが向上するという意見が台頭してきている.本稿では,医療に対する規制の根拠を示し,その上で規制緩和論の是非を検討する.とりわけ規制緩和論の中で関心を呼んでいる混合診療の解禁と株式会社の病院経営については,実証的な視点からの考察を行い,妥当性を吟味する.
病院をはじめとする医療組織においては,数多くの専門職が各自の価値観に依拠した行動を強く志向するため,経営戦略にもとづいて全組織的な変革をする際にはコントロールすることが難しい.非営利組織の経営においては,一般的に経営理念の重要性が指摘されることが多いが,単に理想としての理念を掲げるだけではうまくいかないであろう.本稿では,理念を強く浸透させることによって高い評価と業績を達成した2つの事例をもとにして,理念主導型経営について考察したい.
本稿では,高齢者の福祉に取り組む組織とマネジメントの実際と課題を明らかにするため,「人間の尊厳を守る」という理念のもとで優れた実践を重ねてきた社会福祉法人尼崎老人福祉会喜楽苑のケースを紹介し分析するものである.喜楽苑における,問題の直視,価値観の確立,行動指針と実践,コンセプトの提唱,モデル構築といった展開には,組織とマネジメントの本質に迫る思考と行動がうかがえるところである.
障害者法定雇用率(1.8%)が規定され,障害者の雇用環境が整備されると,創業以来“社会生活の改善と向上をめざす”松下電器は企業市民として積極的にこの問題に取り組んだ. 1982年には,オーディオ関連商品を製造する障害者主体の交 野松下を設立するが,急激な円高の下,海外移転の危機に瀕した.交野市に工場を残すため障害者の奮起を呼び覚ましたのは二代目工場長で,経営情報の開示,改善アイディア募集等を行った.その結果,国に保護される立場だった障害者自身が,自らを事業の主役として自覚し,自立に向けて大きく成長した.
ローカル/グローバル・コミュニティにおいて今問われている社会的課題に誰がどのように取り組めばいいのか.近年社会的課題の解決を事業として取り組むソーシャル・エンタープライズ(社会的企業:会社形態あるいはNPO形態)が台頭している.それらは社会的事業を遂行するにあたって,会社やNPOとコラボレートしたり,また併設したり,組み合わせることで多様な活動を展開している.本稿ではその組織戦略について事例を通して考える.
組織論における情報の多義性の問題はその扱いが難しく,定量的分析を困難にしてきた.本論文では,開発工程間のコミュニケーションメディアの活用に着目し,製品開発における情報の多義性削減プロセスを実証的に示した.その結果,情報の多義性や物理性の削減に関する2段階の進行プロセスや,それらと知識創造活動との関係等を見出した.
本稿は,暗黙知の世界が違う解析技術者と設計技術者がそれぞれ最適化したCAEデータとCADデータの連携時に生じるミスマッチを修正するため,部門間で暗黙知を共有化することが開発パフォーマンスに及ぼす影響について調べたものである.
本研究の分析結果,3次元CADと連携したCAEの活用は,部門間の擦り合わせによる暗黙知の共有化を促進させるため,開発期間の短縮には結び付かないものの,新技術開発と製品の総合品質の向上には有効であることが明らかとなった.