コモディティ化の本質は,競争によって製品やサービスの価値が,価格というもっとも可視性の高い次元に一元化されているということにある.そうであれば,価値次元の可視性を意図的に低下させ,競合製品との比較が困難な状態を構築すればコモディティ化を克服することができるという発想が出てくる.こうした脱コモディティ化の思考に立脚したイノベーションとして「カテゴリー・イノベーション」の概念を提示し,既存研究が主張しているさまざまなイノベーションの概念と相対化する.
市場のコモディティ化に伴い,従来の市場参入戦略は大きな見直しを迫られているように思われる.特に経験価値など,顧客にとっての新たな価値に関する研究成果が蓄積されることにより,単に市場参入順位が遅いというだけで,後発ブランドとして処理できない状況に直面しつつある.本稿では,経験価値,品質価値,カテゴリー価値,独自価値といった4つの顧客価値に注目し,市場参入戦略の新しい枠組みについて考察した.
本稿は,近年台頭してきているユーザー起動法(User driven method:UD法)が持つ潜在力を引き出す条件につい て考察した.本研究は株式会社良品計画の事例を分析し,UD法を使って開発した製品が高い新規性と販売実績を実現できること,そのためにはいくつかの補完的資源と仕組み上の工夫が必要であることを明らかにした.最後に,UD法の実践においてブランド・コミュニティが重要な役割を演じる可能性があることを指摘した.
日本企業におけるブランド・マネジメント組織には,大きく個別ブランド管理組織と企業ブランド管理組織の2つがある.前者は,米国で誕生したブランド・マネジャー制をベースに発展し,後者は日本企業独自の発展を遂げてきたものである.本稿では,各管理組織の成立経緯と実態を紹介すると共に,それぞれの組織形態が時代変化の中でどのように発展・変容してきたかに焦点を当てて検討し,今後に向けた課題を提示する.
コンビニエンス・ストア本部の総合職社員は,直営店勤務を経てスーパーバイザーになるのが共通のキャリア・パスとなっている.さらに,直営店には本部の人材育成だけでなく,加盟店オーナーの研修などいくつかの役割があり,こうした直営店の機能に着眼することで,各社の直営店体制,直営店数の決定要素,直営店についての認識が大きく異なっていること,ひいてはそれらがチェーンの競争力に影響を及ぼしうることがわかる.
本稿は,企業家の意図と実際に起こった革新の間にあるギャップに着目し,コンテンツ開発の事例を用いて,企業家によるパートナーシップの形成が革新の創発の鍵となる過程を明らかにする.そこでは企業家の意図は革新へと直結しない.企業家は,まず関係構築意図によって革新遂行の中核となるパートナーシップを形成し,次にこのパートナーシップが創発的革新意図を誘発し,競争優位につながる革新を実現するのである.
フォン・ヒッペルは,問題解決の場所を説明するために,期待利益仮説と情報粘着性仮説を提示してきた.本稿は,これら 2つの見かけ上距離のある仮説の統合を図る.具体的には, 「粘着的な知識(情報)は,供与するよりも内部活用するほうが,期待利益の点で有利である」という結論が導かれる.
本稿では,沼上(2000)において提起された間接経営戦略の可能性が考察され,その精緻化が試みられる.その結果,間接経営戦略は,意図せざる結果を意図的に取り込む戦略としてではなく,意図せざる結果を利用することによって可能になる戦略として捉えなおされる.この認識は,消費者を企業にとっての決定的な他者として捉えるマーケティングの視点を強調し,またその意義をふまえることで導かれる.