企業がグローバル規模でイノベーション活動を展開する際,いかに活動拠点を地理的に分散しつつそれらの経営プロセスを統合することができるのか.特にグローバル効率性の追求と能力構築の方向性をどう最適化するかはメタナショナル・イノベーションの主要課題である.
自国の環境劣位を克服し,世界規模で競争優位を確立するには数多くの困難が待ち受けている.本稿ではメタナショナル経営遂行上避けて通れない7つのジレンマを整理し,それらへの対応の重要性を示唆している.またメタナショナル経営に関する今後の研究課題を提示している.理論的基盤が未成熟なメタナショナル研究は,今後関連学問領域からの英知を取り込んだ学際的アプローチが必要となろう.
本稿では,日本企業を対象として,研究開発のグローバル化によるイノベーション(グローバル・イノベーション)の戦略的プロセスおよび組織的メカニズムを解明した.その中で,グローバル・イノベーションでは,グローバル・シナジーにもとづく行動が重要なこと,グローバル・シナジーにもとづくグローバル・イノベーションは,国際経営論におけるメタナショナル経営論に向けての展開であることが示唆された.
本稿は,東アジアへの国際投資を,日本企業の国際的な企業成長を推進し,同時に空洞化を克服するための戦略的な投資と位置づけ,その意義について検討する.成長を志向する海外投資の行為要件を整理し,フロンティアを広げ,時空間を超えた統合性を獲得するうえでの経営理念と戦略の重要性について述べる.さらに若干の統計を用いて海外投資と企業成長のダイナミズムを分析する.
経済のグローバル化,知識経済化の進展の中で,世界的な競争を勝ち抜くために日本企業のグローバル経営のあり方が問われている.今後,日本企業はそのグローバルな経営プロセス上で経営資源の最適な組み合わせにより,グローバルにダイナミックな競争力をどう確保するかが課題となってきている.本稿においては,主に組織能力の観点から構成した日本企業のグローバル経営とイノベーションのための全体フレームを提示するとともに今後の日本企業のグローバル経営の課題と対応の方向,また,それを規定するグローバルイノベーションの実現に向けての論点を整理して,今後の日本企業の対応の方向を明らかにする.
本研究では,競争優位をもたらす内部経営資源の蓄積・活用と業界構造変化の相互作用を,経時的に変化する業界の利益率の水準及びその分散というフレームワークの下で考察し,業界構造の安定性についての分析を行う.また,事例及びデータ分析を用いて検証を行う.そして,内部経営資源を重視する経営資源・ケイパビリティ理論と業界構造に重点を置くSCP 理論は動学的に補完関係にあることを示す.
本研究は,企業組織における戦略的意思決定のプロセスにおいて,意思決定するトップと提案をするミドルがどのような判断の方略を用いているかを実証分析する.グローバル企業A 社では,トップは「直観的な方略」,ミドルは客観的データにもとづく「分析的な方略」で判断していることが,社内文書の内容分析により明らかになる.本稿はトップとミドルが異なる方略で判断する理由や意義を,主に最近の認知的組織論をもとに考察する.
技術転換期の既存企業では,組織分離による新領域への取り組みが有効とされる.本稿は,1997~2002年のソニーにおけるテレビ事業の事例研究によって,既存領域と新領域とを両立させる新旧R&D 間技術統合フレームワークを提示するものである.技術統合は,不確実な環境のR&D を統合するだけでなく,新旧製品開発プロセス間の調整を行うことで,組織分離と新領域での既存資源活用を両立させることが明らかになった.