本社は小さければ小さいほど良いという常識がある.小論はこの常識が正しいかどうかを確かめようとしたものである.本社は,ガバナンス,戦略調整,資源配分,共通サービス提供という4つの機能を果たしている.日本企業の本社は海外,特にイギリスと比べると大きい.しかし,その大きさが日本企業の業績にマイナスの影響を及ぼしているのではない.日本企業のデータからは,本社を小さくすれば高い成果が得られるということを支持するデータは得られなかった.むしろ,本社規模を縮減した企業は業績を低下させているという事実が明らかになった.
本研究は,既存事業からの撤退,新規事業への進出という企業行動に着目する.これによって事業再編の過程としての事業ガバナンスを分析することができる.その結果,撤退と進出を同時に行うという,一見矛盾した企業行動が観察された.しかし,対象となる事業の特性を分析すると,撤退は本業との関連性の低い事業で行われ,進出は関連性の高い事業へと行われることが判明した.撤退と進出の両方向で,本業関連型の事業ポートフォリオのシフトが促されるのである.
「失われた10年」を経験した日本において,会社を取り巻く諸制度は大きく変貌を遂げることとなった.これまで禁止されていた純粋持株会社制(HD(Holdings)システムと呼称する)が,グループ経営方法の新たな戦略的企業組織デザインとして登場することとなった.本稿では,製造業でのHDの採用事例に検討の対象をしぼり,HDシステムの下で,どのような戦略的マネジメント機能(事業評価と事業統治)が提供されるべきであるか,さらに管理会計の貢献・課題について考察を行うものである.
持株会社というのは企業組織の多様なデザインのうちの一つにすぎない.しかし,戦後の日本では持株会社は半世紀の長きにわたって「禁止」され続け,「解禁」をめぐっては政治・社会問題となり,また,2002年には独占禁止法9条からその用語さえ「抹消」された.つまり,つねに特殊な扱いが求められる存在であったように思われる.本論文は,その歴史的背景を戦前の財閥コンツェルンや新興コンツェルンのあり方にまで遡って分析する.
本稿は,暗に組織文化の同質性を仮定する市場志向研究の方法を批判的に検討するものである.質問票調査にもとづいて2 つの金融サービス組織における425人の「顧客志向」を分析した結果,顧客志向の程度は組織内で顕著に差異があり,顧客接触というローカルな状況要因によって左右されることが示された.さらに,共分散構造分析から,顧客接触を起点とした組織学習プロセスが示唆された.
本研究は,温度補償型水晶発振器市場における競争分析を通して,技術知識の蓄積に起因して形成される認知枠組みが,既存企業による技術転換を阻害するだけではなく,それが技術転換後も慣性として働くことによって,適切な競争上の対応を妨げることを示す.そこでは,技術の限界を深く理解するために技術転換後も既存の製品開発経路を維持しようとする既存企業と,技術限界への理解が乏しいためにむしろ積極的な開発を推進する新規企業との対比が示される.
本稿は,地域医療連携に参加する医療機関の組織間関係とその地域で受け入れられた診療情報交換のためのメディア特性との関連を検討する.予備調査から地域医療連携におけるメディアの利用状況に地域差が観察されたことから,地域特性とメディア特性をそれぞれコントロールした4事例(2組)の比較事例分析を行った.その結果,資源依存パースペクティブによる組織間関係が受容するメディア特性との関連性が示唆された.