私は,企業家研究の領域において,社会関係資本と社会ネットワークの概念を用いた研究を行いたいと思う者達を対象にして,これらの概念や原理についての批判的なレビューを行う.私はいくつかの興味深い研究課題とそれに応える方法論について描く.第1に,社会ネットワークを介した社会関係資本の力を示したい.そして,社会ネットワークの潜在的な力は,社会文化的な制約条件のために実現されないことがあることも示す.同類指向,社会的境界,制限された合理性という概念は,社会ネットワークについてのこうした制約条件を検討し,一般的に捉える上で役立ち,そして実際の観察結果を経験的に理解する枠組を与えてくれる.私は,それぞれの概念について論じながら,社会関係資本論と社会ネットワーク論のこれまでの研究を振り返って,これまでの理論的貢献と実証的発見について検討する.
コンサルティング企業A社の業務用電子メールログから,社員のコミュニケーションネットワークを抽出し,ハイパフォーマーに特徴的な語句及び,ネットワーク構造上の位置特性を検討する.電子媒体に残された記録よりコミュニケーションのネットワークを抽出・可視化する際の問題点,関係特性の計量と管理に付随する諸課題を検討する.
1956,69,84,99,2005年の全上場企業の大規模ネットワ ークの解析によって,企業側・取締役側双方に蓄積される双対ソーシャル・キャピタルが計量される.欧米と比較した日本の取締役兼任ネットワークの特性が時系列的分析で明らかにされる.結合の冗長性の測定から取締/取締役ソーシャル・キャピタルの効率性が測定され,進化する日本の取締役兼任ネットワークの背後にあるメカニズムが説明される.
本研究は,現代日本映画産業において高業績を生むソーシャル・キャピタルとして,日本独特の継続的な製作者ネットワークである「組」に着目する.ネットワーク分析の結果,映画製作者の全体的な継続的協働ネットワークの構造とその効果が明らかになった.同時に,より特殊な閉鎖性をもつ組のメカニズムも確認され,業績につながるソーシャル・キャピタルの存在が示唆された.
ネットワーク分析を応用し、大規模産業集積における「柔軟な専門化」による部分構造と、ヴァリュー・チェーンとして全体を統合するメカニズムの解明を試みた。スケール・フリーであることが明らかになったが、Barabásiが提唱した周辺部から中心部のノードに向かってネットワークが生成されるメカニズムではなく、一次下請などを中心に組織化されるシステムであり、ネットワークのエンジンとしてコアの存在が示唆された。
本研究では,情報システム導入におけるコミュニケーションのユーザー企業の満足度への影響について質問票調査(N= 687)をおこない,部門間・企業間コミュニケーションがどの ような経路でユーザー企業の満足度に影響しているのか,情報システムの種類(新規開発システム,カスタマイズ有/無のパッケージ・ソフトウェア)によって差が見られるのかを見た.
技術革新がなぜある特定の時期に実現するのか.本論は,技術の社会的構成論に立脚しながら,そのメカニズムについて考えるものである.1970年代における自動車排気浄化技術の革新を事例としてとりあげ,技術に対して異なる解釈をもった社会集団間の社会政治的なやりとりを通じて,存続しえなかった技術(CVCC)が支配的技術(三元触媒)の実現時期を早めたというメカニズムが作用していたことを明らかにする.
魅力的な新製品が開発されながらも,流通がそのリスクを忌避することにより,市場導入が失敗に終わる流通構造があるとするならば,市場機会の損失が起こるとともに,長期的には市場全体の製品バラエティと魅力が減じることとなる.本研究では,家庭用ゲームソフト市場をケースとして,流通におけるリスクとリターンの構造の変化を追い,流通構造が新製品の市場機会遺失を生み,市場全体へ影響を与えることを示す.