本稿では,情報化の影響を情報変換プロセスでのボトルネック移動としてとらえ,このプロセスのパフォーマンスを決定するモデルと仮説を導出し,1990年代の日本の中古車流通システムの事例に当てはめて考察した.この業界では,コミュニケーション・インターフェースにおける記号化と復号化に関して特定の役割を果たす取引仲介型の新たな事業者が誕生し,その結果,市場における取引が広域化し活発化していったことが確認された.
本稿は,仮想世界ビジネスについて,その価値と収益性の関係を中心に論点を整理し,研究上および実務上の今後の方向性を明らかにすることをねらいとする.仮想世界の一種であり商用サービスが早くから行われてきたオンラインゲーム業界を,実証調査の対象とする.ユーザーが知覚する価値として「新奇性」「コミュニティ」「アイデンティティ」が発見され,収益性に最も影響するのは「コミュニティ」であることが示された.
オンライン・コミュニティの研究では,ユーザーをRAMとROMという二層構造で捉えた上で,ROMをフリーライダーと見なす傾向が強かった.しかし研究者たちのこの認識は,コミュニティの事業化模索過程で事業者のそれとは大きく乖離した.また近年の技術革新の相乗効果により,価値観とアーキテクチャという新たな二層構造が事業者に認識されつつあり,今後はこの枠組がオンライン・コミュニティの実社会への貢献を考察する上で重要になると考えられる.
ネット上の配信では,著作権保護を強化しないとビジネスを始められないという意見がある.この背景には,私的コピーによってオリジナルの売上が減少するという認識がある.しかし,私的コピーの被害をテレビアニメを対象に計測してみると,私的コピーがDVD 売上を減らしている効果はほとんど見られない.被害が検出されないなら,社会的には保護強化は必要なく,またビジネス的にも保護強化にこだわらずに配信ビジネスをはじめた方が有利なはずである.
本稿は,ネットビジネスの特性を,「情報民主化」の圧力と「市場経済」の圧力の各時点における創造的均衡点として捉える.技術としてのインターネットの歴史は浅く,未だダイナミックな変化を続けている.インターネットはもともと分散型の民主的参加の世界として誕生した.ネットビジネスは,あとから持ち込まれた「市場経済」の論理と誕生の時点から存在する「情報民主化」の圧力の均衡点として存在する.この均衡点は,技術の変化によって変化する.2005年頃から出現したネット第2世代も,技術の変化を受けた新しい均衡点として出現したものだと捉えられる.
多くの産業で製品のモジュール化が進展している.本稿は,パソコンとNC工作機械が統合したパソコンNCの創造過程の事例分析を行い,そこからモジュール製品に働く製品革新の論理をモジュール・ダイナミクスとして概念化する.モジュール・ダイナミクスとは,モジュール製品の最上位モジュールに作用し,モジュール分割とモジュール統合という2つのプロセスで実現する製品革新の力学である.
本稿の目的は,雪印乳業集団食中毒事件のきっかけとなった大樹工場での汚染脱脂粉乳製造・出荷のプロセスを分析し,⑴事故原因に関する従来とは異なる新たな解釈体系を提示することと,⑵事故防止のための新たな知見を導出することの2つである.分析の結果,事故の原因となった「殺菌神話」の存在が確認された.この発見事実に基づき,事故防止のために,社内における神話の存在を確認することの重要性が指摘された.