本研究では多様な勤務時間を許容する両立支援策を利用する部下(以下,施策利用者)を持つ管理職の「役割受容」に影響を与える要因,ならびに「役割受容」が管理職の行動や部門の変化に与える影響を検討した.その結果,施策利用者を部下とした経験や部門への成果主義の導入,部門マネジメント上の困難が「役割受容」を促進させること,「役割受容」は管理職に積極的行動を喚起し,部門や管理職に肯定的変化をもたらすことが確認された.
本稿の目的は,ファミリー・フレンドリー制度に対して従業者がもつ不公平感について探ることにある.データ分析の結果,以下の点が明らかになった.⑴制度に対する不公平感の平均値に男女差はないが,子どもの年齢が高い者ほど不公平感が高い.⑵上司が部下の仕事と家庭生活の両立に関して支援的な場合,制度に対する不公平感が低下する.⑶不公平感は性別役割分業に対する価値意識の反映である可能性が高い.
男女雇用機会均等法成立(1985年)の前後に入社したいわゆる総合職の女性約60名へのインタビュー調査を基に,退職者を分析した.退職者の主な退職理由は企業内キャリア像の喪失とワーク・ライフ・バランス喪失だが,多くは初職で培ったスキル・人脈を活かして転職・再就職し,家族の状況次第で仕事と生活の両立が可能な職業・職場,勤務形態を選んでいる.無職者は将来のキャリア像を模索中,または再就職に向けての途上にある.
これまで団塊世代の大量退職の議論は,雇用促進施策に焦点が当てられてきた.しかし企業は全ての定年到達者を雇用継続できるわけではない.それゆえ雇用のマネジメントは,引退のマネジメントと表裏一体を成している.本稿は,雇用継続者,転職者,引退者の事例分析によって,制度設計だけでなく,雇用の可能性について自ら気づかせるような,働く側の心理に配慮した人事管理の仕組みが,円滑な高年齢者雇用に効果を持つことを示す.
IT系システム開発において達成度の異なるプロジェクトマ ネジャー(PM)を対象に,プロジェクト初期における組織の知の活用に関する違いを事例法とインタビュー法により調べた.調査では,ある県の業務系システム開発を事例として,初期行為および社内キックオフ会議の出席者と議題を分析した.その結果,高達成度PM は当該案件に関連する内容と技術が集積する部門に協力依頼を行うこと,一方,中達成度PM は類似例を利用することがわかった.
転職者を対象に前職の離職理由や離職の仕方の違いが,転職活動の方向性を規定し次の転職先における組織再社会化の適応度に影響を与えることを内容分析から検討する.スキルを高めたい・大きな仕事がしたい等の不満を理由に離職し,前職と同じ職種に転職した者は,入社後仕事のやり方や情報の獲得方法等に不満を抱く構造的要因が示される.個別に議論されてきた離職・転職・社会化研究を転職者の視点から捉え直すことが主張される.
本稿の目的は,海外現地法人におけるマネジメント人材の配置政策とパフォーマンスとの関係を長期的なデータに基づいて検証することであり,日本企業の中国現地法人におけるトップマネジメント人材の国籍,および現地法人の生存率に注目し, 1995年から2003年までのデータを用いて分析を行った.その 結果,現地化が必ずしも現地法人のパフォーマンスを高めるわけではなく,柔軟な人材配置政策が必要であることを示した.
組織研究における1つの大きな主題として,「組織秩序はいかにして形成され,解体するのか」というものがあると考えられる.なぜ,主観的個人同士が,秩序を形成することが可能なのか,またその秩序はなぜ解体するのか.従来,その説明には「組織目的」「組織文化」といった概念が重視されてきた.本稿では,それに加えて「組織美学」という組織秩序の成立と解体を説明するオルタナティブな手法を模索する.
組織行動論の分野において,組織文化と組織コミットメントの関係はこれまで多くの研究がなされてきた.しかし,その説明のロジックは研究者ごとに多様であり,また方法論的にも,個人レベルで認識されているだけの組織文化と組織あるいは集団レベルで共有されている組織文化を区別して分析を行ってはこなかった.本稿は,これらの問題点を踏まえた組織文化と組織コミットメントの関係をクロスレベル分析を用いて,明らかにしている.