本稿はイノベーションが実現していく過程を分析するもので ある.イノベーションの過程を「革新への資源動員の正当化プロセス」としてとらえる視点に立ち,大河内賞を受賞した18 の事例を題材にして,資源動員を可能にした「理由」を解明していく.不確実性に満ちている革新的なアイデアを経済成果に結びつけていくイノベーションの過程は,関わる主体それぞれの特殊固有の理由が重要な役割をはたす営みであることが示される.
本稿は,R&D から事業化までを網羅する技術情報源である技報を分析して,企業のイノベーション創造を人と組織の視点から考察する.具体的には,「シャープ技報」記事執筆数を指標として同社のイノベーションキーパーソンを特定し活動推移を分析する.また,同社の「緊急プロジェクト」に関する具体的情報を収集し,プロジェクト組織としての活動実態を調査する.そして同社イノベーション創造における人的資源マネジメントを考察する.
イノベーションを促進するために大学に対する研究資金を「選択と集中」の原則に基づいて配分すべきだという議論がある.本稿は「選択と集中」によるイノベーションという考え方の妥当性を,アメリカにおける科学技術政策の歴史的検討,実態分析を通じて検討するものである.分析結果は,「選択と集中」は,すべての経済主体のための研究基盤の強化を指向するイノベーション政策と相容れないことを示唆している.
英国でおきた産業革命の歴史を一連のイノベーション・プロセスとして捉え直す.このプロセスを,「知の創造」と「知の具現化」の2軸に分解するイノベーション・ダイヤグラムで分析することによって,それが独立した2つのパラダイム破壊型イノベーションの邂逅と共鳴によるものであることを示す.さらに,このケース・スタディの今日的含蓄と日本のイノベーションの将来戦略への教訓を探る.
本論文の目的は,中小企業の合併・買収を分析対象として,その取引の特徴を「贈与と売買の混在する交換形態」として整理することである.贈与と売買は必ずしも対立しあうものではない.中小企業M&Aを観察すると,同一の財の取引においても贈与と売買の要素が混在し,また,混在することによって取引が成立していることが理解できる.贈与と売買の二分法では捉えきれない多様な交換形態が存在するのである.
フランチャイズ加盟店の組織学習と業績の関連を創業期と安定期という2段階のライフルサイクルと関連付けて分析した.それによると,創業期には活用的学習に重点を置くことが望ましく,安定期には探索的学習に重点を置くことが望ましいことが明らかとなった.また,安定期において,組織の熟練度が高い場合には,探索的学習と活用的学習の同時追求に相乗効果が確認され,組織学習における人的資源管理の重要性が明らかとなった.