本稿では,市場原理を前提とした戦略論が抱える理論的課題を克服するため,制度派組織論が議論する戦略概念を再検討し,現実の企業が採る戦略を捉える分析枠組みを構築する.我が国のオンライン証券業界の戦略事例を通じて示されるのは,制度を変更する戦略が制度的な実践を通じて生み出され,企業間の多面的な競争とその競争に独自の価値を見出す顧客が総体となって,市場が創発されるダイナミズムである.
プラットフォーム企業がイノベーションを起こしながら同時に,分業ネットワーク構築戦略を使ってプラットフォームにモジュラリティを獲得するメカニズムを検証した.プラットフォーム企業は,相手の技術蓄積・市場ポジション毎に異なる目的をもった協業プロセスを構築し,プラットフォームに新規参入企業でも活用できるような普及可能性を担保する.これにより分業ネットワークの参加者が,関係特殊的資産を持つ企業に限定されることを防ぎ,オープン・ネットワークのエコシステムを維持する.
本研究では,前川製作所における組織成員のネットワークが企業のイノベーション能力に与える影響とネットワークの変化を,特許分析とインタビューによって調査し,ネットワークのスモールワールド性が高いほどイノベーション能力は高く,またネットワークは複数の組織構造変革を経てスモールワールド化したこと,組織構造変革がスモールワールド化に必要なリワイアリングのコストを減少させていることを明らかにした.
近年,急速に発達してきている企業ポイント交換市場の構造をネットワーク分析の手法を用いて分析した.その結果,ネットワーク内に混在している多様な主体が各自の意図に基づいて行動していることによって,⑴企業ポイント同士の交換関係についても,また市場全体としても,一方向的で非対称な構造をしており,⑵交換の行える経路が偏在し,交換にかかるルールも区々である複雑な市場となっていることが明らかになった.
本稿の目的は,わが国におけるいわゆる「失われた10年」の間に,日本企業において取り組まれてきたHRM 制度改革が何を意図していたのかを浮き彫りにすることにある.なかでも,1990年代に多くの日本企業で導入された自己選択型 HRM を取り上げ,その効果を検証する.また本稿では効果測 定の指標に,離職行動の先行要因として重要な組織コミットメント概念を用いる.日本的経営の代表格とされる家電メーカー A社を対象に調査を実施したところ,自己選択型HRM 施策 への満足が愛着的コミットメントに対しては正の効果を,存続的なコミットメントに対しては負の効果を有していることが確認された.
今日,多くの日本企業が雇用制度の変化に直面している.ただ,そうした変化の下で,従業員が雇用組織との関わり合いをどのように捉えているのかについては,明らかにされていない.本論文は,心理的契約という観点からこの問題を検討する.128名の社会人大学院生を対象とした質問票調査の結果,日本企業における心理的契約の内容,および各契約内容の履行/不履行が企業への信頼に与える影響が明らかになった.
有田焼と京焼の陶磁器産地を比較事例とし,産地の分業構造を事業システムの概念に依拠して捉えて形成メカニズムを探る.有田では中核となる窯元が技能や伝統を伝承して産地を方向付けする責任を果たし,産地のヘゲモニーをもってきた.一方,京都では生産者の窯元,顧客,問屋が「顔の見える」関係にある.両地域とも窯元は他者の真似をしないという不文律があった.産地の分業構造は人材育成の仕組みを基盤とする競争の不文律に支えられてきたことを主張する.