本稿は,企業が自社の製品技術を支配的なプラットフォーム(PF)へと成長させようとする場合に,サービスがどのような効果を持つのかを議論するものである.サービスは,製品技術と産業の状態に応じて,5つの特別なメカニズムを持っている.サービスは,⑴市場初期に,顧客がPFを採用する際の,不確実性,複雑性を低減する,⑵顧客からのフィードバックを可能にすることでPFを改善する手がかりになる,⑶補完製品,時には競合するPFとさえ連携を可能にし,PFの価値を上げる,⑷PFを採用する顧客への補助として機能する,⑸成熟期においては,製品自体に代わって売上・利益の源泉となり,競争力を維持する手助けになる,という5つの効果がある.
本論文では,富士通のフィールドワークの事業化の事例をもとに,サービス分野のイノベーションにおいてフィールドワークのような定性的な社会科学的方法が持つ意味を検討する.事例の考察から,フィールドワークが研究の形態から変容してサービス化することや,定性的研究法が技術者のコミュニティに受容される際に「比較可能化」されていくことを指摘する.
本稿は,製品事業のサプライ・チェーンにおける位置取り競争に直面した企業が,本業の製品事業に付随するサービスの提供によって優位性を獲得していることを示し,製品とサービスの融合による企業の競争優位構築の可能性について検討する.本稿では台湾の半導体製造企業であるTSMC社とフランスの家電量販店であるFNAC社の事例をもとにこれらの議論を行う.我が国の産業が,依然としてものづくりの強み持ちながら十分な収益を獲得できない現状に対して,製品・サービスの一貫した取り組みによる価値獲得の方策を示唆する.
本稿は,リーン生産のサービスへの応用として近年注目される「リーン・サービス」の性質を考察するものである.トヨタがトヨタ生産方式を応用して構築した3つのサービス・オペレーション・システムの事例を分析することで,リーン・サービスがいかにして業務標準化,従業員の多能化,プロセスの流れ化,プロセス・コントロールの向上を通じてオペレーション効率と顧客需要への柔軟な対応を同時に達成するかを示す.
サービスは人工物制御の出力であるとの観点から,接客サービス現場に製造業で発達してきた広義の「ものづくり」分析のフレームワークを応用する.具体的には,競争力を持つ接客サービス業である京都花街の顧客経験(プロセス)分析,お座敷のチーム作業(オペレーション)分析,人材育成分析を試み,京都花街のサービス現場とトヨタ自動車の組立現場に「多能従業員のチームで良い流れを作る」という意外な共通点があることを示す.
戦略人材マネジメント研究の多くは人材マネジメント(HRM)の分権化を仕事遂行の権限委譲施策と位置付けてきた.これに対して本論は意思決定構造の観点から分権化を捉えなおし,従業員の調達や育成,評価,報酬などのHRM 施策の運用における分権化が組織パフォーマンスに与える影響を検討した.米国企業のデータを用いて分析した結果,既存研究で主張される施策と戦略の適合(外的適合)と施策間の適合(内的適合)に加えて,HRM 施策と意思決定構造の適合が組織パフォーマンスを高める可能性が示唆される.
本研究ではPutnam(2000)の議論に基づいて組織における社会関係資本を結束型社会関係資本と橋渡し型社会関係資本に弁別した上で,組織における社会関係資本と業務経験を通した個人の能力向上の関係について階層線形モデルを用いて検討した.その結果から,業務経験を通した個人の能力向上について論じる上で,組織レベルの要因と個人レベルの要因の交互作用を検討する重要性を示した.