Simonのモデルは,意思決定や行為を説明する科学モデル ではなく,企業において,経営者が取るべき意思決定や行為のための規範を詳細に記述したものである.しかし,こうした規範的な観点は,社会組織の実践や社会的組織に埋め込まれているマテリアルな資源を不可視にする.こうしたことから,ここでは,状況的学習論の観点から実践のコミュニティの中でマテリアルな資源がどのように布置され,また,用いられているかを明らかにする.
この論文では組織の自己産出系論を解説する.これはN. ルーマンによって提唱された理論で,C.I.バーナードの「協働」やH. A. サイモンの「決定前提の連鎖」をふまえて,組織自身が行為するかのように見えるしくみを,より厳密に再構成したものである.
ここでは,まず,そのしくみを「組織としてふるまう」ことの相互参照-自己参照ネットワークという形で定式化する.相互参照-自己参照ネットワークとしての組織は作動的に閉じており,それによって環境に開かれる.それゆえ組織は外部の環境に影響されるが,内的な組織/環境イメージにのみ反応する.この点が自己産出系論の最大の特徴である.
組織を混沌と対置される概念としてとらえ,従来の市場と対置する呪縛から解放することで,市場すら組織の一形態であるとの認識を持つことが可能となる。これで組織論をネットワーク化が進む今日の世界に対応しうるものに脱皮させることができる。混沌から組織を生み出す鍵概念となるのが情報である。 情報は混沌の中から構造を生み出す媒介である。今日の情報技術は末端から発信される情報が結合して価値を生み出すことを可能としつつあり,組織設計に大きな変化をもたらす。
制度的企業家は,組織(主体)にとって制度とは何か,そして研究者にはいかなる分析が求められるのかという,制度派組織論のハード・コアに立ち戻る問いとして提示された.制度は,実践を通じて物象化され,抽象的ながら社会的事物として自明性を帯びることで,組織が意識的に考慮すべき環境となる.このとき制度に支配的権力を読み解き,抵抗しようとするエージェンシーを獲得した主体が,企業家である.結果,制度化は,制度を媒介にした政治的闘争のプロセスとして捉え直される.そして研究者には,進歩的イメージを有する「企業家」の分析を通じて,既存の制度の政治的闘争に不可避に関与しつつも,批判的に対峙するというリサーチ・プログラムが提示される.
本稿では,既存技術と新規技術の関係性> の経時的な変化という動態的な現象について議論する.このような問題は既存の技術革新研究では必ずしも十分に検討されてきたわけではない.そこで,イノベーションの普及理論をはじめとする議論を基に,技術を利用するユーザーの行動がもたらす影響を組み入れた技術の関係性の変化メカニズムの説明枠組みを,日本におけるX線CTとMRI の普及過程を事例として提示する.
本稿の目的は,投資水準の適正化を企図した設備投資調整により,逆に過剰投資が発生するメカニズムを提示することである.本研究では,石油化学工業を対象とした事例研究を当時の調整主体の会議資料等を利用して行う.事例研究の結果,設備投資調整という行為の本質は各社の投資活動に人為的な時間差を生み出す仕組みに過ぎず,むしろ多数の投資主体を温存するシステムとして機能し,設備過剰を促進していることが明らかにされる.