組織研究50年をふりかえると,日本的経営の成功の研究が主流であり,日本的経営の限界をとりあげた研究は少数にとどまる.国際的にみた日本企業の近年の低いパフォーマンスという現実を重視するならば,これから力を入れるべき研究は,日本的経営の限界の研究であるといえる.
組織学会の活動を振り返り,それが日本企業の経営にどのように貢献してきたかを,戦略論及び組織論の研究と経営実務との関係から考察した.経営知が経営実務家と研究者およびコンサルタントとの交流から発展するとすれば,日本は米国に比べるとその創出性は薄い.今後,日本の組織学会はさらに経営実務との交流を深め,新たな日本の経営理論を作り出すことに努力すべきである.
組織研究の柱のひとつはイノベーション研究である.サイモンの『人工物の科学』は,組織論を科学として確立するためのアジェンダを示した重要な業績であるが,組織とイノベーションに関心を持つ研究者の立場で言えば,別種のアジェンダもあり得る.本稿では,「意味や価値を論じる人工物の科学」という方向で組織研究の将来を展望する.
『組織科学』は,誰が,何を,どのように論じてきたのか.これまで掲載された論文の著者プロフィール,テーマ,スタイルの時系列・国際比較分析を通じて『組織科学』の特徴や傾向を明らかにする.『組織科学』が多様なテーマについて相互に分散的に議論を進めてきたことを示し,その意味するところを論じる.
企業間での協力関係の構築はいつの時代も難しい問題の1つである.ライセンス契約ではライセンシーの吸収能力が高いと,技術移転が容易となるが,その機会主義の可能性も高まってしまう.一方,石油化学産業では日本企業は積極的に外国技術を導入してきたが,その形態にはジョイント・ベンチャーが頻繁に利用されている.そこで,本稿では技術移転の論理と機会主義の論理という考え方にもとづいて2つの対抗仮説を立 て,ライセンシーの吸収能力とライセンス契約の形態の選択との関係を統計的に検証した.
自然現象を解明することを目的とした科学と,モノを作ることを目的とした技術はどのように相互作用するのだろうか.本研究は,この問いに対する一つの仮説を提示する.本研究の基本的主張は,明示的な知識の世界と考えられている科学の世界には,暗黙的知識が副産物として深く蓄積されており,この暗黙知が新しい技術を生み出し,それを実用化していく上で非常に重要な役割を果たしている,というものである.
本稿では,組織が社会的な問題を起こした際に,外部からの要請に積極的に応じることで生じる逆機能のメカニズムを明らかにした.損害保険業における保険金の不払い・払い漏れ問題の事例から,組織は正当性獲得のために近視眼的に行動せざるを得ないが,組織内部と外部の情報の非対称性からくる因果関係の認識の相違から,意図せざる結果として資源配分がゆがみ,新たな問題が発生するというジレンマが生じることが明らかになった.