近年の有期雇用増大は不確実性の対応や「割安」な労働力活用を通じたコスト削減といった企業戦略が主に影響している.しかし,長い目でみれば企業内の人的資本蓄積,イノベーション,労働者のインセンティブへの悪影響が懸念される.企業は,多様な正社員形態の創出,年功的な処遇や退職手当など期間比例原則への配慮,信頼関係の再構築などを通じ,有期雇用 問題の「内部化」を図っていくべきである.
日本企業は伝統的に,正規社員の長期雇用や内部育成,能力主義賃金体系などに特徴付けられる内部労働市場を形成してきた.だが,近年の日本企業は,正規社員の人材マネジメントだけでなく,正規社員と非正規社員の境界設計に修正を加えながら内部労働市場の構造を漸進的に変革している.本稿では,この境界設計の視点から多元化する日本企業の内部労働市場の新たな類型を導出し,それらの意義と今後の方向性を検討するとともに,境界設計に注目する重要性を主張する.
本稿は,日本の企業内労働市場の変化を取引費用アプローチから理論的に検討し,外部労働市場-中間労働市場-内部労働市場の「三層労働市場モデル」を提案するものである.中間労働市場の基幹化非正規あるいは限定正社員の存在が正社員と非正規の均衡化を図る.三層労働市場モデルにおける位置どりにおいて,労働者に要求される関係特殊投資とタスク不確実性が高く,「雇用の境界」の右上方に位置される場合は,当該労働者の雇用形態を有期雇用から無期雇用へと転換することが肝要となる.
組織の人的競争力の視点から様々な人材マネジメント研究がなされてきた.本稿はそれに加えて経済学・社会学における組織に関する研究を参照しながら,組織の柔軟性と個人の責任的行動をキーワードに「柔軟貸借マネジメント」の概念を,新たに人材マネジメントの「補助線」として書き加える.今までとは異なる角度から日本組織の人材マネジメントのあり方を再検討する.
本稿では,構造と機能の因果関係が十分明らかにされていないため試行錯誤で行われる研究開発において,そのプロセスを効果的に促進させる評価の役割について考察する.事例分析の結果,既定の評価方法に加えて新たな視点に立った評価概念を再構築し,それに基づく評価試験を実施する「評価スキームの作りこみ」によって,多くの選択肢の早期絞込みや未経験領域 への探索が可能になり効果的な探索が行われることが分かった.
本稿では,研究開発の成果である「市場有用性ある技術」が営業利益率に与える効果を実証的に分析した.日本の電気機器産業大手9社のパネルデータを用いた分析の結果,登録特許が6年以内で権利放棄される割合(登録特許消滅率)が高いほど,営業利益率が低くなっていることが示された.この結果は,日本の電気機器産業の低収益性改善に示唆を与える.
本論文では,出向や転籍という企業間異動を経験した労働者の満足度の規定要因について,人事異動に関する情報に注目して検討する.異動先企業と労働者にはそれぞれ仕事と人材に関する情報が偏在しているが,マッチングを担う異動元企業が双方の情報を伝達するエージェントの役割を果たすことにより仕事と人材の適合性が向上し,労働者の満足度が高まることが示される.また,異動元と異動先の企業間関係に一定の要件が備わる場合に,異動元企業による情報伝達が労働者の満足度の向上により貢献することが示される.