本稿では,半ばブラック・ボックス化しているトップ主導の組織アンラーニング実現のメカニズムを,社会福祉法人X会の詳細な事例分析を通じて考察した.その結果,X会の組織アンラーニングは,棄却対象の点でも棄却を行った当事者の点でも,段階的に進行したと解釈された.この段階性は,直接の上位層の棄却レベルが下位層のそれを下回るという形で存在するギャップに組織成員が何度も直面し,その都度それを解消することで生じていた.
本論文では,産業クラスターの形成における地理的近接に基づく関係の構築プロセスを,大阪扇町におけるインキュベーション施設の所長とクリエイターの間の関係性の変化から明らかにする.分厚い記述という方法論を用いながら,主体の「既存の関係」に対する「新たな関係」,「掲げる主体」に対する「対応する主体」というもう2つの分析軸から,主体間の関係性の 変遷を記述することで,産業クラスター研究に対する含意を導出する.
本論文では,ある影響力の強い自然科学系のラボラトリーを取り上げ,科学実践分析と組織シンボリズム論の観点から分析する.特にそのラボが創薬基盤形成という政策的な動向に巻き込まれる過程で出現した組織全体の工程表に着目する.その象徴的意味と,背後にある葛藤や対立を,個々のメンバーのリサーチパスとの調整,および創薬という概念がもつ本来的な曖昧さという観点から分析し,科学政策の問題点を指摘する.
本稿は,本国工場に頼らず海外工場の能力構築を促進させる,海外工場の本国人トップについて議論するものである.既存研究では本国人トップが現地経営を行う際の難しさが強調されてきた.しかし,本国人トップは現地従業員とは異なる強みを持っており,それを活かすことで海外工場の能力構築を促進できうる.本稿はこの議論の可能性を,日系HDDメーカーのタイ工場への詳細な事例研究から明らかにする.
イノベーションの実現には,新たな知識を生み出すだけでなく,必要な資源を動員し,生み出した知識をビジネスへと結びつける必要がある.本研究は株式会社カネカにおける太陽電池事業創造のプロセスを詳細に調査し,知識創造と資源動員というイノベーションの2つの側面を踏まえた成功の要因とプロセスを議論する.
外部資源獲得のために組織が意識的に実態と脱連結させて作り出すタテマエの政策のことを,組織ファサードと呼ぶ.本稿は,国鉄の財政再建計画を組織ファサードの事例として取り上げ,その中でも特に貨物の需要想定に注目し,組織において組織ファサードがどのように作られるのか,組織ファサードをめぐってどのようなプロセスが組織内に生じるのかを考察する.
昨今,企業経営におけるアライアンスの重要性が強調されて いる.本稿では,アライアンスが企業の競争力構築にとってどのような影響をもつのか,またそれはどのようなメカニズムに基づくものかについて分析を行った.また競争力構築に成功した企業と成功できなかった企業との差は何に起因するのか,すなわちアライアンスにより競争力を構築できるための条件は何かについても言及した.
本稿では,製品カテゴリを再定義する製品開発について,技術の社会的形成アプローチによる事例研究を行った.企業レベルでは開発中の製品についての柔軟な解釈とその収結のプロセスが観察され,市場レベルでは競合や消費者に新たな製品の解釈が普及し,製品カテゴリが再定義されるプロセスが観察された.またその際には,様々な制度的・構造的要因や物的要因が利用されていた.これらのことから製品カテゴリを再定義するプロセスは,様々な主体が制度・構造や物を利用し,柔軟な解 釈を特定の解釈に収結させるプロセスとしてモデル化できることが示唆された.
本研究では,社会的情報処理理論を基に,新規参入者が結ぶ上司及び同僚との社会的交換関係(LMX・TMX)の質が,組織社会化戦術と組織適応とを媒介する仮説が導かれ,その検討が行われた.新規参入者137名の縦断的調査(入社1・2年目) データの分析から,仮説が支持された.この結果から,入社初期段階での上司・同僚との社会的交換関係の重要性が示唆され,その理論的・実践的含意が議論された.