近年,二国間投資保護協定と投資仲裁が普及したことで,投資保護に関する国際的なルールや紛争処理手続が整備され,外国投資リスクが大幅に低減した.しかも,仲裁では,国家の制御を離れた自律的な法の発展が進行している.しかし,公益的な規制権限の侵食への懸念から,国家の側は様々な手段で仲裁の法解釈に対するコントロールの回復を試みており,投資保護ルールにおける公私の利益のバランス確保が今後の重要な課題となる.
本稿は,WTO加盟後10年を経て,中国の法制度が,WTOルールに体現されるグローバル・スタンダードにどの程度接近し,経営環境がどの程度改善されたと評価されるか,法整備状況や紛争事例の分析を通じて検討する.胡錦濤政権下での改革開放の停滞と国家積極主義の結果,中国はむしろ中国的特色のある法制度に向かっていると言わざるを得ない.
本稿は2010年に台湾と中国との間で結ばれた貿易・投資ルールである「海峡両岸経済協力枠組取決め(ECFA)」の概要 と,財団法人交流協会が行ったECFAの日本企業に対する影響調査結果の一部を紹介し,ECFAの日台アライアンス促進効果と,東アジア4地域(日本・台湾・中国・韓国)の製品アーキテクチャと製品コンセプト創造能力の違いに基づく競争と協調の可能性について論じたものである.
本稿は,韓国のFTA政策が,同国の多国籍企業の競争戦略やグローバル戦略に与える影響について考察する.韓国のFTAについては近年経済学や政治学の諸観点から研究されているが,多国籍企業の国際化や競争戦略への影響を具体的に分析したものは比較的少ない.そこで一次・二次データを用いて,欧州への韓国企業の国際化戦略の展開とグローバル・サプライチェーンの特徴を明らかにし,韓国-EU・FTAによる影響について検討する.またFTAと韓国側の産業政策との整合性も考察する.
1980年代の欧米のイノベーション政策によってオープン・ イノベーションを促す産業環境が生まれた.そこではコンソーシアム等の新しい企業共同が多用され,頻繁に産業標準が形成されている.産業標準はネットワーク外部性を発生させ,複雑なビジネス・エコシステムを生み出す.本論文では,オープン・イノベーションの制度的起源を紹介し,企業共同の増加と頻繁な産業標準形成が,産業構造や競争力構築に与える影響を説明する.
本稿の目的は,多様な技術基盤を持たない企業が,いかにしてより広い技術基盤を持つ多角化企業と類似の研究開発成果を持続的に生み出しうるのかを明らかにすることである.セラミックコンデンサ業界を事例に特許情報の分析を行った結果,多角化企業のように集団としての技術的多様性を持つことが難しい,事業範囲の狭い企業においても,個々の技術者が関与する技術分野の幅を広げ,個人として多様性を保持できる可能性が示される.
本稿では取引費用理論と資源ベース理論の観点から,半導体製造における統合と分業の問題を取り上げ,両理論の妥当性とその関係について実証分析を行う.データは2006年世界の半導体企業118社387製品を対象としロジット分析により検証を行った.分析結果より,両理論による仮説は支持されその有効性が確認されたが,それぞれの理論による説明力は事業年数別のサブサンプル間で大きな違いがあることが示された.
本稿は,多国籍企業における本国拠点の優位再構築が,国際的な機能配置選択に伴う拠点間競争によって促されること,その優位再構築が企業全体の能力向上に貢献することを明らかにするものである.本稿は,これらの論理の妥当性を日産自動車の追浜工場の事例研究から検証した.